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静岡・牧之原市の私立幼稚園で起きた〝園バス置き去り死〟事件。死亡した園児の悲惨な状況を伝え、視聴者や読者の怒りを増幅する報道が目立つ中、本紙はなぜ、同じ事件が繰り返すのかに着目。前号(10月8日号、YAHOOニュースでも配信中)で、「園児自身に自己防衛させる視点を捨てる」「多くの目で見守れる体制をつくる」という2つの結論を導き出した。このうち、「多くの目─」は、肝心の保育士が不足していてなかなか難しい。今週号では大阪の状況は今、どうなっているのかを調査した。
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人材不足、解消してきた
全国的に保育士不足が叫ばれる中、大阪市では人材不足を徐々に解消してきているようだ。
グラフは市に新しく開所した保育施設数と、保育士数の推移を表したものだ。右肩上がりを示すピンクの折れ線グラフは常勤する保育士の数で、5年前に比べ2割以上も増えたことがわかる。
保育士の有効求人倍率は18、19年度が共に5・8倍とピーク。これは待機児童対策で保育施設が一気に増えた(グラフ参照)ためだ。21年度には3・98倍まで落ち着いている。
一方、離職率は12%台と全国平均(10%台)よりは高いが、20年には府全体の平均と並部までに落ち着き、さらに低下傾向にある。
大阪市の整備数と民間保育施設に
雇用されている常勤保育士数の推移
市内で働くメリット
市の保育士不足が解消に向かっているのは、有資格者の6~7割に上る潜在保育士の〝掘り起こし〟が上手く行っているからではない。
市保育施策部保育企画課の今田益代課長によると、「いったん現場を離れた保育士さんは、それ相当の理由があって離職されている。だから、実際には潜在保育士の掘り起こしは難しい」と現実を捉えている。
そこで市が最も力を入れたは、新規保育士と、市外に住む保育士に大阪市内で働いてもらうことだ。いわゆる他地域より良い条件を提示し、保育士を確保する方策だ。
まずは、保育士の住まいの支援だ。法人が保育士の住居を借り上げる場合、新規採用保育士は月6万6000円を上限に、採用後10年以内の保育士は月4万9000円を上限に補助。21年度は1697人が活用した。加えて、市独自でも保育所などが支給する新規採用の保育士への特別給付金に対し、その費用を補助(採用1・2年目=10万円+3、4年目=20万円上限)している。
帰省の旅費や年パスも
「他府県から転入して大阪市の保育士として働いてもらうため、福利厚生面も応援している」(今田課長)。その名もずばり「保育士ウェルカム事業」。府外出身の新たに採用した保育士に対し、帰省にかかる旅費を補助したり、USJなど市内の遊興施設の年間パスポートの購入に相当する費用を保育所等の事業者が福利厚生の一環として支給した場合、その事業者に対し2年間補助金(近畿圏外8万5000円/近畿圏府外4万5000円)を交付している。
市保育施策部保育企画課、中村春樹課長代理も「USJのパスポートが支給されると多くのマスコミでも話題になり、毎年200人前後の方に、ウェルカム事業を利用してもらっている」と笑顔を浮かべる。
働き方改革で離職防止
そして、今最も急がれるのが保育現場の労働環境の改善だ。過重な労働環境は離職にもつながりかねない。実際、他府県と較べ大阪市の離職率は高い。このため大阪市では継続して独自予算で保育士の働き方改革の推進に力を入れている。
具体的には休暇の取得推進や業務量の軽減等、保育士の働き方改革を推進するため、保育士の配置に必要な経費を保育所等の事業者を対象に補助している。補助金は民間保育所(公設置民営含む)及び認定こども園(幼稚園型除く)で補助上限額は働き方改革担当保育士1人につき年額332万2800円。
今田課長は「保育士は園児の睡眠、食事アレルギーなど常に緊張感をもって保育にあたっている。人員の面など物理的にも大変で大阪市としても働き方改革の面からも人材確保に協力したい」と話している。