〝個性〟を自由に乗りこなす人たち ニューロドライバーVOl.3

~〝個性〟を自由に乗りこなす人たち~

 〝ニューロドライバー〟はニューロダイバーシティー(神経多様性)と運転手のドライバーを掛け合わせた造語。ニューロダイバーシティーは神経発達に特徴的な点があるという考え方で、主に神経発達症(発達障害)のある方の特性を指しています。それらの特徴を「個性」ととらえ、運転手が自動車を操るように、その個性を存分に発揮して社会を生きる人たちをインタビューしていきます。

「すぷりんと」さん(Xインフルエンサー、大阪在住)

 就職後に職場が合わず休職しADHD、ASDの診断を受けた「すぷりんと」さん。今はご自身の生育歴と照らし合わせながら子ども療育の仕事に関わり、得意な分析能力を生かして様々なボードゲームを使って自己分析の一助となるワークショップを開催し、凸凹がある子たちの支援をライフワークにしている。「すぷりんと」さんに話を伺った。

どんな子ども時代を過ごしましたか?

 自分のやり方にこだわりがありました。予定を立てて順番に取り組んでいる時に、誰かが手助けをしてくれても、邪魔をされているように感じて怒ることも。(※編集部注、勉強だけでなく小学校のコミュニティーの中で学ぶことを教科書に例えると)自分にだけみえない「透明な教科書」がみんなには配られているような感覚がありました。例えば、小学校では先生がいないところではみんな冗談で悪口を言っても、先生が教室に入ってきたらみんなは黙るけど、僕だけ変わらず言っちゃって教室がシーンとして・・・。いやさっきまでみんな言ってたやん!という・・・。状況を判断する力がつくのに時間はかかりましたね。でもASDの特性でしょうか。嫌なことがあっても「学校は休むものではない」とマイルールには忠実だったので休まなかった。両親はそんな僕をかばい、何かあったらしっかり社会に対して主張し、僕を守ってくれていた気がします。

つらさを認識したのはいつ頃ですか?

 大学院卒業後、就活では「ホワイト企業」として人気の上場企業に研究職で入社しました。自分が思っていた以上に、時間の制限や均質性、協調性が求められ、集中すると期限が守れなくなることもあり、職場で徐々に合わなくなって・・・。休職した3カ月間も手当として給与全額が支給される、本当にいい職場だったんです。ただ僕との相性は悪かったと今では思っています。

 大学生時代に教職課程を学ぶ中で、自分自身に発達障がいの特性があることはわかっていたので、休職期間中に検査してADHD、ASDの診断を受けました。その後は、自分の特性、経験を生かして教師になるよりは、当事者として不登校支援の家庭教師や放課後等デイサービスで困り感を持っている子どもたちを支援していくキャリアを選びました。

当事者だからできる関わり方とは

 現在は放デイの指導員をやりながら、「ボドゲ自助会」を5年間続けています。主に「大人の発達障がい」の当事者とテーマごとに様々なボードゲームで遊んでいただいた後で振り返りをすることで、自己分析をすることができる取り組みです。今年からは都島区のカフェ「てくてくRiccio」さんのご厚意で、発達障がいの有無に関わらず親子で楽しくボードゲームをする「親子ボドゲ会」を始めています。

 「親子ボドゲ会」は、ただただ大人も子どもも一緒に遊ぶことが目的です。誰も叱られない安心できる空間で、同年代の子どもたちと遊んでもらう。求められない限り、私を含め誰かが誰かにアドバイスすることもない。ただ気楽に遊びに参加してもらうようにしています。注意する際は注意している範囲を子どもに寄り添いながらしっかり説明しないといけません。何を注意されているのかがわからないと、純粋な優しさの芽を摘んでしまうことになりかねないんです。大人になったら当たり前と思えることでも子どもの理解力ではわからないだろうなということを、親が経験則から納得させてしまうケースは結構あります。子どもであってもコミュニケーションをとることで合意形成が得られると納得できる。例えばおやつを分け与えたりする時に人数分に分けることを強要しないとかですよね。気楽に参加してもらうと子どもが素の優しさを表現した時に気づくことができるんです。

 また、発達がゆっくりな子どもは考え方が独特な子がいます。架空の事例でいくと目の前にあるハンバーグを友人と分けるために半分に切ったら「ハンバ」になるやん!と泣いちゃう。じゃぁ紙に「―グ」と書いて渡したら目の前のハンバーグは半分になっているけど納得しているとか。僕は当事者として、子どもの辛さが痛いほどわかるから、その場にいて翻訳や通訳をするのが役目だと思っています。

今後の目標は?

  SNSの発信でフォロワーの方からボードゲーム会の開催依頼があり、今年は東京や名古屋への出張開催もありました。大きな組織にしていきたいかというとそうではなくて、あくまで遊ぶ場を提供するというコンセプトを変えずに、目の届く範囲でライフワークとして活動していきたいですね。

「すぷりんと」さんのボードゲーム会の告知や様子はSNSで発信しています。

すぷりんと(@External_WM)さん / X