【わかるニュース】安倍晋三研究 「美しい国日本」求道者が、円安で経済破壊? 27日の国葬を前に功罪を考える


▲安倍元総理が銃撃された現場付近に設けられた献花台で手を合わせる人々=7月10日、奈良県奈良市(週刊大阪日日新聞撮影)

国葬理由は史上最長と選挙中暗殺で

 9月27日に東京・日本武道館で凶弾に倒れた安倍晋三・元内閣総理大臣(享年67歳)の国葬が行われる。今週は英国エリザベス女王の国葬がロンドンであり、天皇皇后両陛下が参列されたばかり。

 私の父親と総理の実父・晋太郎元外相は毎日新聞記者同期生で大の仲良し。同世代だった元総理とは外相秘書官時代からの付き合い。彼に促され静岡・御殿場市の東山旧岸邸を訪問したこともある仲だ。

 支持者は「世界に日本の存在を高めた現実主義者」と評価し、反対派は「戦後史を修正し中韓に強い姿勢を示した国粋主義者」と真っ二つ。彼と親しかった視点から、安倍晋三の功罪を考えた。

「森カケ桜」と「旧統一教会」これで終わり!?

アベノミクスが呼んだ円安

 安倍政治の代名詞といえばアベノミクスだ。簡単にいえば日銀・黒田総裁による 〝異次元金融緩和〟で市中を資金でジャブジャブにし、赤字国債を増発して財政出動。円安で輸出産業を活性化し、株高による好況を演出した。

 歴代総理の多くは「金融政策は難しいから日銀任せ」が多かったが、安倍総理は黒田氏を総裁に大抜擢して自身の政策を推し進めさせた。ところが、肝心の3本目の矢であった日本の成長戦略は、消費税が10%に引き上げられた後に世界を襲ったコロナ禍で失速。今日に至っている。

 確かに日本の雇用は正規約150万人、非正規約350万人と合計で約500万人増えたし、国と地方の税収も増加。高齢者らの社会保障や子育て支援も拡充したが、労働者賃金が上がらず内需が拡大しないまま。最近では超円安に陥り、石油、天然ガスや食品などの輸入品値上がりがジワジワと国民を苦しめている。アベノミクスは短期決戦で結果を出す戦略だったと感じる。

プーチンが泥塗った外交

 「外交の安倍」とたたえられ、単独訪問した国と地域は70カ所前後に上るが、中国と韓国には在任中に訪問しなかった。これは非常に象徴的だ。

 オバマ元大統領の退任直前に、安倍総理がハワイ真珠湾を訪問、その返礼の形でオバマ大統領が被爆地広島を訪問。これも戦後、両国でずっとわだかまっていた懸案を取り除くウインウインの妙手だった。

 米国にトランプ大統領が誕生すると、ゴルフクラブをお土産にいち早く表敬訪問。貿易収支と軍事援助を切り札に、世界の国々とけんかするトランプ大統領と良好な関係を築き続け、国益維持に成功した。

 唯一だまされたのはロシアのプーチン大統領。27回も2人で直接会談し、北方領土返還を最後は2島返還でギリギリまとめようとしたが、土壇場でゼロ回答の手のひら返し。ウクライナ侵攻でも、仲の良さをテコにした有効な手だては打てなかった。

 トランプとプーチンに「いいヤツだ」と言わせた手腕は柔軟だが、韓国の親朝反日派・文在寅大統領には全く取り合わない頑固さも見せた。

 中国の習近平主席とは直接対決を避けて一定の距離を置き、ジワジワと締め付け。「自由で開かれたインド太平洋」という表現で、中国の南シナ海進出をけん制した。さらに中国封じ込めを目的に、オバマ大統領が推進したTPP(環太平洋パートナーシップ協定)から次のトランプ大統領が一転離脱すると、安倍総理が代わってまとめ役となり成立させた。新疆ウイグル地区の人権問題に厳しいEU(欧州連合)と貿易協定を締結、日米豪印4カ国の戦略対話(通称・Quadクアッド)を結び、ジワジワと中国を包囲するも、数々の開発協定を直接結び関係はうまくつないでいった。

選挙最強で史上最長

 通算8年余の憲政史上最長政権は、再登板以降の衆参3回ずつの国政選挙勝利の成果だ。最初に1年で退陣した時は、参院選で大敗している。

 党幹事長、官房長官として仕えた小泉総理は「自民党をぶっ潰す」と都市の自由主義者に力点を置き、劇場型の郵政解散も勝ち抜いた。後任の安倍総理は地方の保守主義者を重んじて人気を上げた。自由主義者にはアベノミクス、保守主義者には憲法改正をうまくアピールした。自公政権の枠組みを守りながら、みんなの党や希望の党、さらに日本維新の党などの保守政党とも良好な関係を築き、彼らが主張する地方分権や公務員制度改革などをうまく取り込み味方に付けた。集票マシンとしての旧統一教会との関係は、ルーツが祖父・岸信介元総理までさかのぼるようだが、今となっては確かめようがない。

 一方で共産党や小沢一郎のいる旧民主党系とは徹底的に対決。「悪夢のような民主党政権」と常にののしり続けた。この手法は「敵」を明確化して味方を固めるトランプ前大統領と同じ。おかげで岩盤支持層といわれる約3割の保守派の絶対支持を得た。安倍総理はよく「聞き上手」といわれたが、それは味方か第三者にだけで、異論を持つ相手との対話はほとんど応じていない。自民党が伝統的に持っていた「反対派にも配慮して幾らかは譲る」という美徳は、彼には無縁だった。

官邸主導が忖度呼ぶ

 官僚が率いる国省庁と国防は、本来は専門家の世界。過去の政治家はうまく彼らと付き合って、自らの目的を遂げてきた。安倍政権は国防で国家安全保障会議(NSC)と国家安全保障局(NSS)を、官省人事で内閣人事局をそれぞれ創設して官邸主導を一気に推し進める。

 安倍総理の目指した憲法改正による自衛隊の明記と、防衛予算倍増のGDP(国内総生産)2%は、ロシアのウクライナ侵攻で異論は余り出なくなった。しかし、森友学園、加計学園のお友達優遇疑惑や桜を見る会の安倍事務所による私物化などの実態は不透明なままで、流行語にもなった忖度(そんたく)という悪い形で役人世界に影を落としている。

 コロナ対策も官邸主導のシンボルがアベノマスク。衝撃的だった全国小中高の一斉休校も「感染拡大阻止に効果があったの?」と疑問視する向きも。そして安倍総理が招致に全力を挙げ、リオ五輪閉会式で自身がスーパーマリオの扮装(ふんそう)までしてアピールした2020東京五輪は、コロナで1年延期となりその間に退陣して大会は無観客開催に。ケチが付き続けた〝平和の祭典〟の後味悪い幕切れだった。