プレミアムインタビュー 国内最大手の木製家具メーカー カリモク家具 社長 加藤正俊さん

 カリモク家具と聞けば、大阪人も知らない人はいないだろう。木製の家具製造卸で国内最大手のカリモク家具だが、人口減少社会にある日本で、稼ぎ頭だった婚礼家具の需要も姿を消し、格安の輸入家具の台頭などで業界は厳しい状況にある。こうした中で、他企業との協業など新たな試みに挑戦し、日本の高い技術で作られた家具を海外にも展開しようとする加藤正俊社長に話を聞いた。

長い付き合いとなる家具。その〝人生の相棒〟を提案する楽しみ

「異業種との協業を増やしたい」と話す加藤社長
「異業種との協業を増やしたい」と話す加藤社長

─少子高齢化で人口減の一方、世帯数は増えている。家具業界の現状は。

 小売りの業界で寡占化が進んでいる。例えば、ベッドのフレーム出荷台数を見ると、国内の約4割をニトリが占めているような状況だ。私が入社した1991年ごろは、フランスベッドのシェアが4割だった。つまり、小売業とメーカーで立場の逆転が起きており、小売業の寡占化が進んでいる。
 合わせて今はデフレ経済の〝終わりの始まり〟だと思うが、われわれの業界では海外から輸入される格安品がシェアを伸ばしてきた。そんな中で、自分たちのポジションを確立できた企業だけが生き残っている感じだ。

─さまざまな業界で、高級か安いかつまり、中間の商品が売れにくくなり二極化が進んでいると聞く。

 全体的に価格帯が下がってきたが、ここへ来て円安や人件費高騰、資源高があり〝低価格競争の終わりの始まり〟と認識している。
 量販店も昔に比べて価格が上昇している。確かに二極化の傾向はあるが、今でも中間のボリューム層が占めている業種ではある。
 こうした状況の中で、われわれはマルチブランドでビジネスをしている。ニトリやナフコ、島忠などにプライベートブランド的な商品を提供する一方、ダイニング7点セットで200万円を超えるような商品もそろえている。規模は全然違うが、トヨタ自動車と同じように幅広い価格帯がそろっている。

─カリモクは認知度も高い。

 日経BP社のブランド・ジャパンでは、600番台には入っており、フランスベッドや大塚家具と同じくらいの認知があるのは強みだ。
 また、お客様の希望に合わせてソファーの張地、ダイニングの木材の種類や塗装色など、希望に合わせてオーダーできるところも強みと認識している。

─ユーザー像は。

 40~50代の方が新築の際に購入されるケースが目立つ。私が入社したころは婚礼家具と新築が二大事業だったが、現在は独身の男女がすでに同居状態にあり、気に入ったら結婚するパターンが増えている。結婚時の〝ハレの消費〟がなくなっている。

─時代と共に家具の需要も変化する。

 もちろん変わる。当社はリビングとダイニングの家具が中心で、昔は食器棚をたくさん扱っていたし、バブル期にはリビングにキュリオケースなどを置いて装飾物を並べる人が多かった。しかし、今はダイニングには備え付けの食器棚があり、リビングにはテレビボードとソファという需要が比較的多い。さらに若い人は、ソファも背もたれのないデイベッドだし、テレビも置かず、寝転んでタブレットやスマホを見る。そんな暮らしぶりに変わってきていると感じている。70年代当時は考えられなかったテレビを置かない生活様式が訪れるかもしれない。

─カリモクと言えば、いすの座り心地に定評がある。

 いすに関しては長い間、座り心地の研究をしてきており、人間工学に基づいたEISという独自基準も設けている。いすに座ると、立ち姿勢の約1・4~2倍の荷重が腰にかかるため、「体に悪い商品を売ってはいけない」「お客様に迷惑をかけてはいけない」と、ソファとダイニングチェアに関しては座り心地の良さにはこだわっている。

─社長はカリモク家具で、どのような道を歩んでこられたのか。

 今は一つの会社だが、昔はトヨタが自工(自動車工業)と自販(自動車販売)に分かれていたのと同様に、当社も刈谷木材工業とカリモク家具販売に分かれていた。
 このうち私は家具販売に入社。グループ企業が製造した家具を買い取って倉庫で管理し、全国の営業所から得意先に卸すという役割だ。その流れを監査する仕事で、モノとお金の流れを学んだ。
 当時、取引先だった家具店はいずれも利益が出ていた。経営者はもちろん、いわゆる専務や常務も結構な給料をもらっていた記憶がある。

─当時の家具店は潤っていた。

 婚礼家具の需要が大きかったからだ。現在はそのマーケットサイズは半分以下になってしまったが…。特にわれわれの会社がある愛知県は、豪華な嫁入り道具を持って嫁ぐ風習があった。
 家具店は商店街では呉服屋と並び、一番大きな土地を所有していたため、相続対策として出店していた。ところがバブルが崩壊し、婚礼家具が売れなくなった。健全経営だった家具店も売上が下降し、借金が年商より膨らむケースも出て、多くが倒産・廃業した。販売先の減少によって、当社にも危機が長く続くこととなった。

─どう乗り切ったのか。

 新しい得意先の開拓だ。未開拓の家具店というよりも、新たな業種としてハウスメーカーに目をつけた。
 バブル崩壊後はハウスメーカーも新築着工件数が減っていたから、新築購入者にいろいろなサービスを提供していく流れにあった。新築購入者向けの家具の販売会を共同でやったりもした。
 また、百貨店もフロアの坪効率で売上を見るようになり、家具売り場が姿を消していった。このため、百貨店外商に、全国に増やしていたわれわれのショールームで販売会を開催してもらった。
 その後、経営の合理化を図る目的で二社を合併した。

─コロナ禍の状況は。

 正直、短期的な売上のマイナスでは過去に経験したことのない落ち込みだった。緊急事態宣言で大手流通業が店を閉めることになり、強制的に需要がカットされたからだ。そんな中で、アマゾンなどのECの売上は逆に増えていた。このため、急きょ自社ECサイトを立ち上げた。
 面白かったのはアマゾンにECの立ち上げを報告したときのことだ。競合するため嫌がると思っていたら、アマゾン側は「いいですね」と言ってくれた。アマゾンはプラットフォーマー。宣伝してくれる仲間が増えれば、最終的には自分たちが勝てる自信があるのだと感じた。

─思い出に残るエピソード。

 いくつかあるが、ナガオカケンメイさんとの出会いが思い出深い。商品をカタログに載せてお客様に提供するやり方しか知らなかったわれわれに、ナガオカさんはカフェ兼リサイクルショップ兼家具屋という場所で、まったく違う売り方をしていた。60年代ミッドセンチュリーの時代のデザインに優れた製品でコンテンツを作る。いわゆる今風にいえばブランディングだ。それがカリモク60という別ブランドをスタートさせるきっかけになった。
 それまでの企業の考え方は、若い人に選んでもらえる新製品を一生懸命開発していた。しかし、既存製品をブランディングすることで、売れ方が変わることを知り、すごく勉強になった。

─海外展開も図っていると聞くが。

 ここ数年で少しずつ輸出が出来るようになってきた。すでに韓国では、カリモク60を扱う得意先が現れ、従業員も雇用し売上も安定してきている。スターバックスコーヒーやマクドナルドのように、かつて米国や欧州で流行したモノを日本に持ち込む流れがあったように、日本も中国や台湾、東南アジアに向けて同じような流れが作れると考えている。同様にミラノサローネへの出品も世界中に存在をアピールするのが目的だ。国内マーケットは少子高齢化の中でのシェア争いにあり、拡大する状況にはない。海外とのバランスを上手くとっていきたいと考えている。

─日本の家具は海外でも通用するということか。

 そう考えている。現に韓国では日本の1・3~1・5倍の価格で販売できている。東アジアの人々には〝メイド・イン・ジャパン〟の信頼は絶大だ。一方、欧米は各国に規制があるので一筋縄には行かない。米国や英国は、表張りの素材が難燃素材、いわゆる燃えにくい素材でなくてはならなかったりする。また、米国や欧州は靴を脱がない文化でもあるので、各国にフィットする形に作り替える必要もある。いろいろと勉強中だ。

─今後の展開は。

 当社としては協業を増やしたいと考えている。過去にはベネッセと一緒に学習机を作ったことがあった。ローランドとは、リビング空間に合うツヤのない電子ピアノの木枠を共同で開発したり、仏壇大手のはせがわとは現代家屋に合う仏壇を開発したりしてきた。
 ほかにも資生堂の化粧品「バウム」の商品パッケージの木製部分を作ったり、三菱鉛筆とはボールペンの木製グリップを作ったりしている。協業の取り組みをさらに広げていきたいと思っている。

─事業のやりがいについて。

 これは新入社員にもする話なのだが、家具は人生の門出にお求めいただくことが多い。新居や入学などいわゆる〝ハレの日〟の消費ということだ。さらに、家具は家の次に長く付き合うもので〝人生の相棒〟を提案する楽しみでもある。採用面接で「子どものころに当社の学習机を使っていた」と実際に聞くこともあり、本当にありがたいと感じるし、うれしくなる。

カリモク家具

 リビング・ダイニングを中心とした日本を代表する総合家具メーカー。1940年に愛知県刈谷市で創業。製造から卸売りまでを手がけ、木製家具メーカーとしては国内最大手。全国に26のショールームと3つのアウトレットを展開。卓越した生産技術力や品質管理体制、安定した資材供給、さらに緊密な連携力を発揮する販売・流通などが一体となり、木製家具国内生産トップの信頼を獲得している。

愛知県にある本社
愛知県にある本社

カリモク家具株式会社
本社/愛知県知多郡東浦町大字藤江字皆栄町108番地
電話/0562(83)1111(代)
社員数/920人 年商/237億円(2023年度実績)