飲食客獲得にあの手この手 訪日客が増えて「宿泊」好調。課題は「レストラン」

 観光目的の訪日外国人客の受け入れが再開し、ビジネス目的などを含めた2023年の訪日客数が年間2000万人を超え、コロナ前の状況に戻ってきた。国内旅行客の回復も重なり、ホテル業界の業績回復に強い追い風が吹いている。ところが、好調な宿泊部門とは対照的に、厳しい状況なのがホテル内のレストランだ。現状を説明するとともに、各ホテルレストランの取り組みについて取材した。

「地元の住民に利用してほしい」

街に繰り出し飲食したい宿泊客

コロナ禍が明け、訪日外国人客が戻ってきたこともあり、ホテルの宿泊部門はどこもいっぱいで安定した成長を見せている。この宿泊の繁盛ぶりとは一転、多くのホテルが「課題に感じている」とこぼすのがレストラン部門だ。
 背景には、国内消費の外食離れもあるが、宿泊する外国人旅行客の場合はホテルのレストランで食事を済ませるというケースは少なく、例えば道頓堀や心斎橋に繰り出し〝お好み焼き〟や〝串カツ〟など大阪の〝食〟を体験したいというニーズが強い。
 つまり、「部屋は宿泊客でいっぱいになっているのに、併設するレストランが閑散としているケースも少なくない」とホテル関係者はため息をもらす。

地域住民が〝集う場〟に

 しかし、ホテル側も現状をただ眺めているだけではない。地元住民をレストランに誘客しよううと〝あの手この手〟を繰り出している。
 今年5月に開業一周年を迎えた大阪市西区の靱公園北に建つ「voco 大阪セントラル」。レストランは〝宿泊客に加え、地域の住民にも利用してもらわないと意味がない〟という考えから、〝地元住民に愛される場所づくり〟を進めている。「地域全体を盛り上げ、近隣の住民が集まりやすい場にしたい」と総支配人の宍倉大地さん。
 周辺は、さまざまなレストランが立ち並ぶ飲食店の激戦区。同ホテルに併設するレストラン「LOKALHOUSE」では、前菜をビュッフェ形式にし、少し飲みながら食べながらゆっくりできるディナープランを提供。〝軽く飲んで食べて〟という気軽さが地域住民に受け入れられ、少しずつ客足が伸びている。
 一方で、周辺の飲食店との関係については、競合するのではなく共存を図ろうとしており、同じ西区内にあるワインとコーヒーの専門店「タカムラ ワイン&コーヒーロースターズ」からコーヒー豆を調達し、オリジナルブレンドを作るなど地元とのタイアップも手掛けている。
 「この辺りはおいしい飲食店がたくさんあるんですよ(笑)その中で自分たちの〝色〟を出すことが重要だと思っています。10月からはメニューも大幅にリニューアルする。互いに競合ではなく上手く共存していきたい」と宍倉さん。

飽きない工夫

 宿泊客の6割が訪日客という大阪市北区の「帝国ホテル大阪」。1996年3月の開業以来、地元客に根付いているが、飽きがこないようにレストラン運営に関してはさまざまな工夫を凝らしている。
 〝帝国〟といえば開業時からの歴代シェフによって受け継がれる伝統のローストビーフが売りだ。客の目の前でカットし提供するスタイルは、今でもバイキングなどで人気を博している。
 眺めの良い中国料理のレストラン「ジャスミンガーデン」では「ふかひれスープ」がメニューに入ったランチを4500円で提供。平日限定ではあるが、ランチから〝フカヒレ〟をこの価格で食べられるのは珍しい。
 このほか、同ホテルには開業当初のドアマンの制服を着た「ドアマン・スヌーピー」を目当てに遠方から訪れる客も多い。カジュアルレストラン「カフェ クベール」では原作コミックス「PEANUTS」にちなんだアフタヌーンティーが楽しめる。
 広報の田中夏帆さんは「記念日や特別な家族の集まりももちろんですが、普段のランチやディナー、好評のアフタヌーンティーも2、3カ月ごとにメニューを変更し、さまざまな工夫をしています」と話している。

食に強いこだわり 元総料理長が総支配人に

 一方、新たにオープンしたホテルでも特色あるレストラン運営に取り組むところが増えてきた。7月に開業した「THE OSAKA STATION HOTEL,Autograph Collection」。同ホテルは、〝旅を感じてもらう〟をコンセプトにしたメニュー作りにこだわっている。数カ月に渡って日本各地の食材をリサーチし調達。おいしい食材の情報が入るとシェフたちが自ら足を運び、直接農家に交渉する。
 ここまで〝食〟にこだわる理由は、総料理長を歴任した総支配人が率い、食べ物に並々ならぬこだわりがあるからという。〝食の魅力で顧客に愛されるホテル〟を方針に他とは違う強みを出している。
 〝豪華列車の食堂車〟をイメージしたレストラン「THE-MOMENT GRILL&DINING」のランチビュッフェには80以上の品数をそろえ、ビュッフェではなかなかお目にかかれない〝神戸牛100%のバーガー〟なども並ぶ。平日は8000円、土日祝は1万円(9月~)とランチビュッフェにしては値が張るが、提供される食材やスタッフのサービスを受ければ十分に価値があると評判だ。
 「これまで大阪の食文化はJR大阪駅から広がっていった。重要な駅のホテルレストランだからこそ、こだわったメニュー作りが大切だと思う」と料飲部長の松井良明さん。
 地元客向けにさまざまな取り組みを進めるホテルレストラン。興味のある読者は各ホテルのホームページをのぞいてみるといい。