先日駆け巡った鹿児島県警情報漏えい事件の闇。世間に未発表の機密を持つ権力側、機密を漏らし情報源となった組織人、機密を入手したメディア。この3者の攻防は古くて新しいテーマ。
カンテレが7月12日深夜1時25分から放送するドキュメンタリー「さまよう信念~情報源は見殺しにされた」は、17年前に起きた奈良・田原本町で母子3人が亡くなった少年放火事件に注目。供述調書のメディア流出、情報源の医師が秘密漏示罪で強制捜査され、有罪となるまでのてん末を丹念に検証した渾身(こんしん)の一作。
この事件を素材とした2007年出版の「僕はパパを殺すことに決めた」(草薙厚子著、講談社)に供述調書多数が引用掲載され、奈良地検は情報源で精神鑑定を担当した崎濱盛三医師を逮捕する。
神戸児童連続殺傷事件(1997年)の14歳少年の審判がそうであったように、少年事件は外部に供述内容が公開されないから、人々は事件の背景などを容易に知ることはできない。崎濱医師は放火犯の少年に「発達障害」があることを社会に訴えようとした結果だったが、最高裁まで争われた末に有罪確定し1年間の医師免許停止となった。
番組では崎濱医師はもちろん、本の著者・草薙さん、事件を追った週刊誌記者や講談社関係者らに聞き取りを重ね言動意図や当時の思いを積み重ねていく。
古くは52年前の毎日新聞の西山太吉記者の沖縄密約電報事件。女性事務官と記者が逮捕され有罪になったが、沖縄密約の政治責任はうやむやに。国はこの間にも個人情報保護法や特定秘密保護法などを次々と定め、機密保持に固くガードを掛ける。一方で急速なネット社会の発達は情報提供者がメディアを経由せずとも機密を公にさらすことを可能に変えた。反比例するようにメディアは急速に独自発信力を失い、今では存在感すら問われつつある。
〝国が保持する機密〟と〝国民の知る権利〟の攻防。そして〝メディアの報じる義務〟と、全ての立場が詰まった内容。制作した上田大輔ディレクターは弁護士資格を持つ異色の存在。「自由な民主主義が存立し続けるために〝何が必要か?〟を視聴者個々の視点で考える機会に」と話している。
(畑山博史)