“赤ちゃん虐待”の影に潜むえん罪 弁護士資格持つ記者が迫る法廷の攻防

 一時ニュースなどでよく耳にした〝揺さぶられっ子症候群〟を覚えている人はどれぐらいいるだろうか? 2010年代に赤ちゃんを激しく揺さぶって虐待し重い後遺障がいや死にいたらしめた、として親などの家族が警察に逮捕・検察庁から起訴されるケースが相次いだ。幼き命を守る使命感に燃え取り組む医師たち。一方で無実を訴える被告と寄り添い事故や病気の可能性を指摘する弁護士は〝えん罪撲滅〟の意識で懸命に無罪を勝ち取って行く。虐待をなくそうとする正義とえん罪をなくそうとする正義の激しいぶつかり合いが各地で展開された。

ニュース番組で検証取材を説明する上田記者

 この重いテーマに正面から取り組んだ弁護士資格を持つ異色の在阪民放テレビ局報道記者が自らメガホンを執ったドキュメント映画「揺さぶられる正義」が9月20日から東京・ポレポレ東中野、大阪・第七芸術劇場、京都シネマなどで公開される。

 今年47歳になる上田大輔は関西テレビ報道センター記者として勤務。弁護士資格を得て、同社に法務・著作権業担当で入社。10年前に報道局に転じ「ザ・ドキュメント」ディレクターとして、法曹界のあり方に鋭く切り込む番組を次々世に送り出している。

上田記者が勤務するカンテレ報道センター(右手前が上田記者)

 通常の事件事故取材は、被害者と犯人が善悪に色分けされるが〝赤ちゃんが被害者、保護者が加害者〟と単純に割り切れない複雑な状況が裁判過程で次々と明らかに。「もし、えん罪が混じっていたら子どもを亡くした悲しみの上に被告となって公判で裁かれ世間の非難の目にさらされている」と奔走する弁護士。一方で医師側は「えん罪論議より子どもの命を1人でも守ることが先」と不審な状況は迷わず警察に通報する。互いの信念がぶつかり合う法廷で徐々に無罪判決が出されるようになり、同様の容疑で警察が逮捕しても検察庁で〝嫌疑不十分〟での不起訴が増えていく。

映画ポスターの前でインタビューに応じる上田記者

 報道に転じた最初の年にこの事件と遭遇した上田記者は、以後8年に渡り公判過程を追い続け、最高裁で無罪確定した元被告の取材を通し「逮捕の第1報をニュースにした事件の無罪判決を続報として十分検証しないメディアのあり方」の問題点提起までたどり着く。

映画「揺さぶられる正義」のポスター

 通常のテレビドキュメント番組1時間のサイズを抜け出し、2時間の大スクリーンへの取り組み。上田は「日本の刑事裁判有罪率は99.8%。そういう状況下でこの裁判に取り組んできた弁護士と法研究者によるプロジェクトが13件の無罪判決を引き出した結果は重い。私も取材過程での反省点はあるが、検証取材を一つずつ丁寧に行う事で改めて問題点を明らかにしたい」と、今なお終わらない事件のいきさつを説明している。

(畑山博史)