【中米の親善大使や学校運営・津田佳和さん】「注意を注ぎ、敬意を持つ」 がファンづくりの極意

 飲食店経営や講演活動、中米のニカラグアとエルサルバドルの2カ国で2018年度の親善大使、学校運営など多彩な顔を持つVIAの社長、津田佳和さん。彼のすごいところはコミュニティー運営にあり、所属する人々はファンというより友人に近い。最近は企業の戦略も低価格競争からブランディングやファンづくりに切り替わり、彼のやり方は大いに参考になる。コミュニティー運営の天才、津田さんにインタビュアーの阪本晋治が迫る。(佛崎一成)

「フードロスに取り組み、世界から貧困をなくしたい」と話す津田さん

影響力のあるコミュニティーを運営。 世界を貧困から救う

 ─さまざまな顔を持つ津田さんとは、一体何者なのか。

 もともとは実業家だ。15歳で社会に出て、飲食店を開業し、多店舗展開。20代で大阪・心斎橋に結婚式の二次会に使える大会場を構えてからは売上も飛躍的に伸びた。

 ─20代で大阪の一等地に、それだけの大会場を持てたのがすごい。

 もとは先輩の店で、稼働していない時間帯を間借りした。当時、店舗をシェアする「二毛作ビジネス」は画期的だった。家賃は折半で安く押さえられる一方、大人数を相手にできるから売上は膨大になる。そのうち、「やり手の若い社長がいる」と話題になり、さまざまな団体が利用してくれた。

 ─新しいビジネスを考えるのが得意なのか。

 ビジネスモデルを作るのは得意だ。すでに飲食店のフランチャイズ化を成功させていたから、ビジネススクールもはじめた。一方で、デザイン会社と動画制作会社を買収し、外注していた宣伝や撮影などを内製化。グループ内でお金を回す仕組みを整えた。

 ─一石三鳥、四鳥の考えだ。そのビジネスセンスで、他企業のコンサルティングにも取り組んでいる。

 集客や仕組みづくりが得意な半面、商品開発が苦手だった。弱点をつぶすため、複数の外食企業の顧問になり、ノウハウを提供する一方で、商品開発を学ぶことにした。

 ─順調に事業を伸ばしていたが、大きな挫折もあった。

 周囲からビッグマウスと叩かれ、従業員は徐々に去っていき、全店舗閉鎖に追い込まれた。大切な居場所を失ってしまった。

 ─原因は。

 傲慢になっていた。もともと15歳で社会に出たのは学校教育になじめなかったからだ。小さいころから「勉強は必要なのか?」と日々、葛藤する時期を過ごし、中学を卒業したところで働きに出ようと決意した。

 しかし、どこも15歳の子どもを雇ってくれる会社はない。だから、「お金さえあれば幸せになれる」と強く思うようになっていった。

 そんな生い立ちだったから、自分を追い込んでしまう性格だった。しかし、自分を大切にできない人間が、人を大切にできるはずもない。

 大きな挫折を経て、そこにようやく気づくことができ、心を入れ替えて再び1店舗からのスタートを切った。すると、もといた従業員も戻ってきてくれ、再び急成長を遂げた。

 ─その濃い経験をもとに講演活動もされている。会場はいつも満席だ。津田さんを自発的に支えようとする強固なコミュニティーがあればこそだと思う。ここからが一番聞きたかった部分だが、なぜ、津田さんのもとには友人に近いファンが集うのか。

 「人に注意を注ぎ、敬意を持つ」ことが大切だ。僕は毎日40分間のライブ配信を行っており、配信中に届く300〜400件のコメントを一つずつ読み上げている。コメントを見ながら「へぇ〜カレー食べているんだ」などたわいもない話だ。

 ─それがファンづくりには大切なのか。

 不思議に思うかもしれないが、これは人に注意を注ぎ、敬意を持つからできること。ライブ配信を見ている人は、自分に注意を向けられ、つながっていることがうれしい。毎日繰り返せば自然と互いの関係知もでき、コミュニティーのきずなは強くなる。

 ─その強固なコミュニティーを背景に、フードロスにも取り組んでいる。

 世界には貧困にあえぐ人々がいる一方、日本は世界が食糧支援する約3倍量の食べ物を廃棄している。これをうまく循環させれば多くの食糧難民を救えると考え、まず国内の一次産業と連携。水害や災害で苦しむ農家を応援している。

 ─成果は。

 この前も5日間でリンゴ3㌔を1万セット販売した。都道府県の年間出荷量では14位に匹敵するとてつもない量だ。プロジェクトをはじめて1年半だが、SNSの呼びかけで救えることがわかってきた。

 ─令和6年能登半島地震でも被災地支援に取り組んだ。

 地震の翌日には現地の人々や東日本大震災の被災者と話し合い、最終的に住居の半壊・全壊のお見舞い金を集めて送ることにした。水などの緊急物資は道路が整備されると次第に整ってくる。それよりも3.11の経験から、一番困る住居の問題に取り組んだ。

 SNSで呼びかけると、みんなが共感してくれ、どんどん拡散してくれた。

 ─津田社長のように影響力のあるコミュニティー運営を目指す人は多いが、大手企業や有名人でさえ、うまくいっていないケースがほとんどだ。違いはどこにあるのか。

 コミュニティーのあり方がズレているのが理由だ。ロジカルな発信が多く、先生と生徒のような一方的な関係になってしまっている。元来、人々は自分に注意を向けられるとうれしいもの。どちらが偉い、偉くないという発想では強固な関係は作れない。人に注意を注ぎ、敬意を持つことが大切だ。

 ─企業がマーケティングやブランディングを掲げながらも、うまくいっていないのはそれが理由か。

 物に対しての仕組みではなく、もっと人に対して着目するべきだ。人はもっと会いたい、もっと一緒にいたい、もっと交流したいと思っている。そこがポイントだ。

 僕のライブ配信は、企業で例えれば「毎日、社長に会える場所」。その場所で社長が一人一人に注意を向けてくれる。裏を返せば毎日、理念共有しているようなもの。だから、呼びかけがあった際に影響力を発揮してくれる。

 ─ファンづくりがうまく行かず、結局は営業をしまくるパターンが多いが、津田さんの場合はコミュニティーに所属する人々が拡散してくれたり、呼びかけに応じて購入してくれたり、エネルギーがすごい。「共感」がキーワードだと思うが、なかなか難しい。

 いい例がある。ある美容室のオーナーは、おしゃれな人を増やして結婚する人を増やし、日本の少子化を改善したいそうだ。すばらしいことだとは思うが、おそらく共感は得られないし広がらない。

 理由は、「おしゃれにすれば結婚する人が増える」とピンと来ないからだ。一方で「介護施設に入居しているおばあちゃんの、お金がないけれど髪を切ってあげたい」という話なら共感者は増える。そこに人柄もプラスされれば永遠に広がる。

 ─つまり、少しでもエゴやよどみが出ると広がらない。

 「拡散してほしい」ではなく、みんなが「拡散した方がいい。拡散する方が世の中のためになる」と思えるかどうかが重要だ。

 ─津田さんからは「やさしい世界をつくりたい」という思いが伝わってくる。

 現代はSNSの普及で、繋がりたい人とだけ繋がれる社会。だから、より注意を注ぎ、敬意持つことがますます重要だ。さもなければ、やさしい世界にならないし、日本の治安も悪くなってしまう。

 思考ばかりを優先せず、まずは直感を信じることだ。例えば、歩道で転んだ人に「大丈夫ですか?」と手を差し伸べられるかどうか。直感で動ける人は、すぐに助けようとするが、損得の思考が出ると「手を差し伸べるのは格好悪いかな、恥ずかしいかな」と行動を制限してしまう。それはやさしくない世界だし、そんなコミュニティーは長く続かない。素直な心でやさしさを選択する。講演でもそう呼びかけている。

 ─その講演だが、最近は各地から依頼が舞い込み、予約待ちが続いていると聞く。

 以前は600人規模の講演会をやっていたが、最近は60人程度に抑えているのも一つの要因だ。人数を減らしたのは講演後の懇親会で、足を運んでくれた一人一人にしっかりと関わりたいと思ったからだ。そうしたら行列ができてしまった(笑)

 最近では海外にもコミュニティーの輪が広がっている。だが、この影響力を私利私欲に使おうとは思わない。やさしい世界を作り、世界から貧困をなくしたいと思っている。

 【プロフィル】1988年大阪府出身。16歳で個人事業主になり、20歳で飲食店「VIA」をオープン。さまざまな業態の店舗を立ち上げ、経営や人材育成、商品開発など独自の飲食経営でFC展開も経験。一方、年商50億~100億円の全国チェーン展開している企業3社の社外取締役に就任。
 一時は従業員100人規模の会社に成長させるが、傲慢な経営から従業員が徐々に離れ、売上に追われる毎日。しばらくしてパニック障害を発症し、全店舗閉鎖に追い込まれる。
 どん底まで落ち、静養のために山にこもる生活を送っていたが、自身の経験を伝えることが社会の役に立つと発起し、各界の著名人と講演活動をスタート。
 日本各地の飲食店やホテル・観光施設のプロデュースなどでも活躍し、2018年にエルサルバトル共和国、ニカラグア共和国の2カ国の親善大使に就任。

津田佳和さん(右)とインタビュアーの阪本晋治