「孤育て」とは聞き慣れない言葉だが、親族や地域の人など周りとの付き合いもなく孤立した中で母親が子供を育てている状態を表す「子育て」をもじった造語だ。そのような母親のために一息付ける〝憩いの場〟が、まず私たちが訪れた大阪市都島区の「hajumariの木」だ。
オーナーのはじゅさんは、乳幼児の写真撮影を仕事としながら親子向けのイベント「ベビーズデー」を定期的に開催する活動も行っている。きっかけは彼女自身が、産前産後の精神不安定でうつ症状の一歩手前に陥った辛い経験。出産前はアパレル業界で働いており、好きな趣味を楽しみ充実していた。ところが子どもを産んだ途端に「今日からママ」「今日から全て我慢して育児」と縛られたようで『非常に苦痛』と感じた。そんな時に通っていた「親子サロン」で〝ママ友の重要性〟に気付き、ママたちが〝弱音が吐ける場所〟を作った。
次に京都市伏見区の「子育てホッとスペースぱおぱお」を訪ねた。管理人の中川真由美さんは現役の保育士。ママやプレママがホッと一息付いて過ごせる場所として、ドリンクを口にしながらゆっくりできるスペースを設け、親子で一緒に楽しめるイベントや、新米ママ同士が地域でママ友を作る機会を定期的に開催するなど、多角的な活動を行っている。
この仕事を始めたきっかけは、保育所の子どもたちがママの精神状態によって様々な影響を受けることに気付いたから。先にママ達のサポートをすることが、結果的に子供のよりよい成長へとつながると考え、ホッと一息付く避難所的な場所として「ぱおぱお」を作った。
2つの事業所とそのオーナーに取材し、共通したのは「インスタグラムなどSNS投稿やネット記事には、キラキラした子育て生活や、子育てについて役立つ正しいことしか載っていなかった」こと。実際の子育ては、子どもの成長度合いはもちろん、性格や生活環境も異なるため全員が同じ子育てマニュアルに当てはまらない。しかし周囲から孤立し「孤育て」状態になるとSNSなどの一般的な情報が「全て正しい」と思い込んでしまう。
対象限られ、経営苦しく
2カ所とも最大のハードルとして「経営を続けることの難しさ」を切実に訴えた。基本的なターゲット層が「その地域の育児をしているママやパパ」のため対象は限定される。この事業1本で生計を立てるのは実際難しい。はじゅさんは「時間とお金に余裕がないシングルマザーや夫のDVなどによって、様々な制約を強いられているママさんにはこの施設の存在は届いていない。より届けたい人に届け切れていない」と悔しそうだ。経営が苦しいと事業拡大は難しく、支援が必要である層の全てに行き届かない。国は〝異次元の少子化対策〟として子ども家庭庁を設立した。出産へのハードルを下げるためにも事後の「孤育て」対策は重要課題。今こそ国が経費を出し、市町村自治体がこれら事業所に対して物心両面で支援する仕組みの必要性を強く感じた。(大阪国際大学/金城旭飛、池田菜々、奥田紗望)
※当記事は、大阪国際大学と週刊大阪日日新聞が協働し、大学生が新聞記者の仕事を実践する「PBL演習Ⅲ」の授業で完成した記事。