▲開業準備が進む星野リゾートの都市観光ホテル「OMO7大阪 by 星野リゾート」=大阪市浪速区
▲「みやぐりん」の夜イメージ(星野リゾート提供)
JRと南海の新今宮駅が交差する「新今宮」。東にはジャンジャン横町や通天閣でにぎわう「新世界」がある。南は「日雇い労働者のまち」として知られる「あいりん地区」(通称・釜ケ崎)があり、近年は労働者の高齢化で「福祉のまち」へと変化している。インバウンド(訪日外国人客)の急増で観光のまちへの脱皮が期待されたが、コロナ禍で消滅。そんな新今宮に星野リゾートが4月22日、大型の都市観光ホテルを開業する。負のイメージを払拭仕切れていない地域にあえて進出する狙いと、地域活性化への期待と取り残されるのではという不安が交錯する地元を取材した。
OMO7大阪 寝るだけでは終わらせない 旅のテンションを上げる
地上14階建て、436室という大規模ホテルの名称は「OMO7(おもせぶん)大阪 by 星野リゾート」。新今宮の浪速区側に位置し、部屋は広さ29~61平方mの8タイプで、価格は1泊1万2千円から。関西空港から一本の電車でつながる新今宮駅に加え、大阪市内中心部へのアクセスも大阪メトロ御堂筋線と堺筋線の動物園前駅に近く抜群の交通利便性を誇る。一方で大切にしているのは地域とのつながりだ。
「OMO」は星野リゾートが全国で展開する都市観光ホテルブランドで、コンセプトは「寝るだけでは終わらせない、旅のテンションを上げる都市観光ホテル」。コンセプトを実現するOMOブランドの中核サービスが街歩きをサポートする「Go―KINJO(ごーきんじょ)」。スタッフで構成する「ご近所ガイドOMOレンジャー」が友人のように街を案内し、宿泊客と一緒に旅を楽しむためのガイドツアーを開発中だ。
▲全長約85m、高さ5mの開放的なパブリックスペース「OMOベース」のイメージ。マップやカフェ、ダイニング、ライブラリーラウンジなどがある(星野リゾート提供)
昨年7月に着任した中村友樹総支配人は開業準備に追われる中、仕事の帰りに宿泊客に紹介できる店を探しに地域に足を運び続けている。「新今宮は大阪以外の人からそんなに知られていないが、これぞ大阪というようなものがすごくある。いろんな評価や地域の方の思いがあることは承知しているが、観光の目的となり得る場所と実際に回っていて感じる。雰囲気や風景、人との距離感もそう。紹介していきたい」と意欲を示す。
地域と宿泊客をつなぐもう一つの仕掛けが「みやぐりん」と名付けた約7600平方mの広大なガーデンエリア。大きな芝生広場とそれを囲うデッキテラスで構成された「緑の丘」で、駅から見える位置に設け、新今宮のイメージアップにつなげたい考えだ。
西成・釜ケ崎の期待と不安
▲「西成で泊まれなくなり、路上に出なければならないという悪循環にならないように考えなければいけない」と話す臣永区長
大阪市が星野リゾートのホテルの誘致計画を発表したのは2017年。高級リゾートホテルのイメージの強い同社の進出は衝撃だった。市は西成特区構想を掲げ、違法駐輪の防止やごみの不法投棄の解決で成果を出しているが、街づくりについては試行錯誤が続く。同社の進出は大きな期待がかかる半面、新世界がある浪速区側だけに人が集まり、西成区側は「地価が上がって生活困窮者が住めなくなるだけでは」というジェントリフィケーションへの懸念が強い。
臣永正広西成区長は「西成区の方に足を運んでもらえる具体的なイメージ戦略、街歩きを通して西成、釜ケ崎を知ってもらうツアーもこれから出てくる。人の流れも変わってくるのでは」とし、「自分たちで面白がって街のにぎわいをつくってくれる人たちがいる。星野さんとつながってもらう橋渡しはお手伝いできる」と前向きだ。ジェントリフィケーションについては「単純ににぎわいの拠点があればいいのではなく、困り事を抱える人が来た場合にどういう配慮ができるのか、きちんと困窮している人に手を届けるというのも行政の役割」と話す。
「貧困と地域 あいりん地区から見る高齢化と孤立死」の著書がある関西学院大の白波瀬達也准教授も「日雇い労働市場が年々縮小し、困窮者の就労ニーズにうまく対応できていない。極端な少子高齢化、単身者の社会的孤立は続いている」と課題を挙げ、同社には「困窮者支援のNPOや行政と連携し就労課題を持つ人々の雇用を生み出すこと。良いことも悪いことも歴史を正しく伝え、街に対する適切な理解を促すこと」に期待する。
星野リゾートのスタッフが小学校で地域学習の授業を行っていた姿勢を評価するのは、釜ケ崎で労働者や高齢者の支援に取り組むNPO法人こえとことばとこころの部屋(ココルーム)の上田假奈代代表。「小学校の授業は継続的にやってもらえたらお互いに学び合える。子どもたちも印象に残って覚えている」と要望する。
なぜ?新今宮に 星野リゾート 星野佳路代表 インタビュー
ディープな文化が観光にプラス
星野佳路代表(星野リゾート提供)
─新今宮を選んだ理由は。
大阪市が募集していた土地に対し、提案コンペという形で応募した。都市観光を考えた時には大阪駅前が理想ではない。大手のナショナルチェーンの店がいっぱい並び、東京駅前も、福岡駅前もあまり変わらない。観光客視点で見ると、地域らしいディープな文化のある場所に位置する方がホテルとしてはプラス。新今宮ほど大阪の観光に向いている場所はない。アクセスがよく、大阪らしい風情、文化が体感できる。新今宮には大きな都市観光としてのポテンシャルがあると判断した。
─西成区側も大きく変わってきているが、負のイメージが払拭(ふっしょく)できていない。
大阪市には地域のイメージを変えていこう、経済的にも生活環境的にもよくしていこうという意図があったと思う。私たちはその意図に従って設計している。『みやぐりん』を駅側に向けたのもそういう理由。新今宮の駅を通過する人たちに新今宮が上がっていっているんだと伝えていきたい。
─具体的な取り組みは。
総支配人を含むチームが地域のみなさんとコミュニケーションを始めている。観光客の方々にしっかりと地域の魅力を伝えるべく、周りの方々と連携していく。星野リゾートの良さは各施設の総支配人以下のチームが自立して考えていくこと。大阪らしいOMOの展開をスタッフが創造してくれると期待している。
─どういった魅力を紹介していくか。
長くあの場所で商売しておられる方々の人情あふれるサービス。そういう方々に新しい顧客をご紹介できるような発信を、日本国内、海外にもどんどん行っていきたい。