「介護」と「仕事」の両立を
2025年には高齢者の5人に1人、約675万人が患うとされる「認知症」。その認知症に特化した初の法律「認知症基本法」が6月14日、成立した。今後は「国民の理解の増進」「バリアフリー化の推進」「認知症の予防」などを基本施策として定め、「家族等の負担の軽減を図る」ことがうたわれているが「介護・看護」を理由とする離職者は年間約10万人。一方で介護離職を防止するための介護休業制度の利用率は3・2%(2012年)にとどまっているのが現実だ。実際、家族が認知症等で介護を必要とするようになった場合、介護と仕事を無理なく両立できるようにするための「給付」制度等の活用がますます重要になってくる。同基本法が成立した、今こそ「認知症介護」と「仕事」を両立するための「介護休業」「介護休暇」の制度を知り、有効に活用することが必要だ。
2030年「ビジネスケアラー(働きながら介護する人)」が318万人に増える 経済損失は9兆円超に
2025年には3人に1人が75歳超
日本は総人口が減少している半面、65歳以上の高齢者数が毎年のように増えている。団塊の世代が全員75歳以上になる「2025年問題」まであと1年半。30年には31・2%と3人に1人が後期高齢者になる見通しだ。高齢化率が高まるに連れ、介護の負担がのしかかるビジネスパーソンも増えていく。高齢化に拍車がかかる中で、介護による離職者はどのように推移しているのか。
10万人が介護離職
厚生労働省の雇用動向調査によると、21年に離職した人は約72万人。そのうち個人的な理由で離職した人は約52万人で、「介護・看護」が約9・5万人だ。男性約2・4万人、女性約7・1万人と女性の方が多くなっている。性別と年代別で「介護・看護離職」の割合をみると、男女ともに「55~59歳」が最も高かった。
介護離職をしてしまう背景は「時間」と「お金」の問題が大きい。実際に介護で離職すると、思うようなキャリアステップを踏めなかったり、フルタイムの正社員として再就職することが困難になってしまったり、ネガティブな変化が生じることが多い。
介護の必要性が生じたときに使える制度は「介護休業」と「介護休暇」だ。介護休業は合計93日間の休みを取得でき、介護休暇は5日間の短い休みを得られる。
会社員や公務員が家族の介護のために介護休業を取得する場合、「介護休業給付金」の制度がある。この制度は、会社員らが加入する「雇用保険」の被保険者が、給与の3分の2(約67%)を受け取れる。また、中小企業を対象にした両立支援助成金「介護離職防止支援コース」制度もある。
介護休業は家族1人につき93日を限度にして、計3回まで受給することが可能だ。この「93日・計3回」という長い期間は、介護に関する長期的方針を決めるために必要な期間と想定される。
法律上の制度で、労働者から申し出があった場合には、勤務先は必ず休業させなければならない。また、介護休業の取得を理由に、不利益な扱いをすることも禁じられている。
介護休業制度の存在「知らなかった」
こうした制度があるにもかかわらず、介護休業の利用率が低いのが現状だ。介護をしながら就業している人のうち、この制度を利用している従業員はわずか3・2%(12年)に留まる。理由は認知不足で「介護休業の存在を知らなかった」「介護休業を取得しても一緒だと思い、すぐに退職した」などの声も。
経済産業省の試算では、働きながら介護をする「ビジネスケアラー」は20年時点で260万人だが、30年には318万人に増える見込みで、経済的損失は約9・2兆円に上るという。介護離職者を防ぐためには、国と会社側が仕事と介護を両立できる環境を整えることが求められている。
認知症基本法が成立した今、企業側の理解、介護制度のさらなる拡充が今後の課題となる。