大阪市、路上喫煙条例施行1年 路上喫煙4割減も喫煙所整備遅れに不満続出

扇町公園喫煙所

 大阪市が市内全域で路上喫煙を禁止する改正条例を施行してから、まもなく1年を迎える。路上喫煙率は大幅に改善した一方、喫煙所の不足や整備の遅れが顕在化し、追加対策を求める声が市議会で相次いでいる。

 12月8日に開かれた市議会建設港湾委員会では、市内各地で喫煙所整備を求める陳情18件を審議した。委員会担当議員からは「条例施行に見合った受け皿整備が追いついていない」「スピード感を持った対応が必要だ」との指摘があった。

 市はこれまで、路上喫煙の実態調査を踏まえ、対策の優先度が高い63エリアを特定。今年度はこのうち15エリアで民間による喫煙所設置を支援する補助事業者を募集した。しかし、対象エリアが限定的だったことや募集期間が短かったこともあり、申請は7エリアにとどまり、残るエリアは未進展となっている。

 市が主導して整備する公設喫煙所についても課題は多い。入札から供用開始まで約1年半を要するケースが多く、委員会では「募集対象を広げ、前倒しで進めるべきだ」との意見が出た。現在、公設喫煙所は開放型が24時間利用できる一方、閉鎖型は原則午前7時から午後8時まで。通勤時間帯に利用できない駅周辺では不満が強く、「閉鎖型の利用時間延長や開放型の設置を検討すべきだ」との要望も上がった。さらに、コンビニエンスストアやパチンコ店など民間施設の喫煙所開放を促す補助制度の拡充、鉄道事業者への協力要請も今後の課題とされる。

 財源面では、大阪市のたばこ税収が年間300億円を超えるのに対し、路上喫煙対策の予算は令和7年度で約11・4億円と、全体の4%未満にとどまる。委員会では複数の会派から「もっとたばこ税を対策に生かすべきだ」との意見が出た。

 これに対し、横山市長は「無尽蔵に設置することはできない。優先度に基づき、着実に進めていく」と強調。その上で「吸う人も吸わない人も快適に過ごせる環境づくりを目指す」と述べ、鉄道事業者との連携や啓発活動を進める方針を示した。

喫煙率改善も、実効性が焦点

 こうした中、市は25日、改正条例施行後に実施した調査の最終報告を公表した。それによると、市全体の路上喫煙率は0・24%から0・15%へと約4割減少し、一定の改善が確認された。一方、駅周辺や繁華街など「対策の優先度が高いエリア」では0・31%と、市平均の約2倍に上り、重点的な追加対策が必要とされた。

 今年度実施したアンケートと定点調査では、条例の認知度は市民全体で81%、喫煙者では95・6%と高水準だった。制度への評価は「良い」「大変良い」が76・8%を占めたが、喫煙所不足を指摘する声も多く、喫煙者の51・2%が増設を要望。非喫煙者からは過料の引き上げや啓発強化を求める意見が目立った。

 調査では、休日の朝に違反率が最も高いことも判明し、観光客やインバウンドの影響が指摘された。また、加熱式たばこの利用が紙巻きたばこを上回っており、路上喫煙への抵抗感が薄れている可能性も示された。

 市は今後、対策の優先度が高いとする63エリアで喫煙所の新設を進めるとともに、15エリアで指導員の巡回を強化し、44エリアで啓発活動を拡充する方針だ。令和7年度中に先行的な対策を実施し、本格的な取り組みは令和8年度以降、順次展開するとしている。

 ただ、市議会にこれまで提出された喫煙所整備を求める陳情では、市内各地から設置要望の声が上がっている。一方で、市の方針はあくまで63エリアを対象とするもので、市民の実感との間に乖離が生じているのが実情だ。63エリアについても、喫煙所整備の具体的な時期は明言されておらず、整備が進まないまま指導や巡回の強化だけが先行すれば、地域間の格差が広がる恐れがある。

 規制を導入する以上、実効性を伴う相応の対策が求められる。環境美化を目的とした条例であれば、無尽蔵に喫煙所を設置できないとしても、受け皿整備を一定程度進めた上で指導を強化するという順序が欠かせない。

 今月には、横浜市でも市内全域を禁煙とする検討が始まった。大阪市の現状を踏まえると、実態が追い付かず、同様の課題が浮き彫りになることは容易に想像できる。禁止エリアを一部の繁華街に限定するなど、実効性を担保できる制度設計としなければ、大阪市と同様に堂々巡りとなる可能性も否定できない。

 大阪は今年、「世界一喫煙環境の厳しい都市」として注目を集めた。「路上喫煙ゼロの美しいまち」を掲げる大阪市が、喫煙者と非喫煙者の双方に配慮した現実的な対応を示せるのか、その行方に注目が集まっている。

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