岸田総理が年頭会見でぶち上げた「異次元の少子化対策」。このままでは将来の働き手が減り続け、日本の経済規模は小さくなる。年金や医療、介護などの社会保障も支えられなくなるからだ。日本の人口を維持するには、1人の女性が生涯に産む子どもの数の平均が2・07程度は必要と言われるが、現在は1・3台。出生数は80万人を割り込んだ状況にある。
一方で、少子化対策にてんてこ舞いの日本とは違い、世界人口は増え続けている。18世紀半ばに英国で産業革命が起きて以降、当時12億人だった世界人口は、今や80億人を突破。インドやインドネシアなどの南アジア、アフリカ諸国では人口爆発が起きており、今世紀後半まで増え続ける見通しだ。
世界人口が増え続ける半面、欧米や日韓中など東アジアの先進国では「少子高齢化」が進み、人口が減っている。国力を単純に人口で例えるとしたら、この先世界のパワーバランスは大きく変わっていきそうだ。今回は21世紀後半の世界図を大胆に考えてみよう。
人口爆発の途上国vs少子高齢化の先進国 勝者は!?
自民党「本音」は自己責任
まずは日本の状況から説明しよう。2008年の1億2808万人をピークに減少に転じている。48年に1億人割れとなる見通しだ。
岸田総理の言う「異次元の少子化対策」だが、中身は第2子、第3子の支給額を増やす単なる児童手当の拡充。異次元と言うなら「第3子の出産で、生涯に渡って世帯の所得税を免除」とでもやればすごいが、税金を下げる、なくす行為を財務官僚は許さないだろう。
日本の少子化の兆しは、実は20年以上も前から分かっていた。戦後ベビーブームの二世にあたる世代、いわゆる1973年生まれの210万人による第3次ベビーブームが起きなかったからだ。
しかし、自民党政権は何も手を打たなかった。戦前と同じように「子育ては親と家族の自己責任」という古い価値観があったからで、昨年の出生数77万1000人(女性の生涯出生数1・27人)を見て大慌てしても遅過ぎる。
麻生太郎自民党副総裁は少子化の原因について、晩婚化によって出産する女性が高齢化していることを挙げており、〝責任は国民〟と言いたげだ。政治の無策を『高齢者VS子育て世代』にすり替え。何でも「自己責任」と言い続けてきた自民党の政治家が、若者世代が自己責任のリスクを回避するため、「子どもを望まない」ことに対して文句を言う筋合いはない。
かくして少子化は止まらないから、現役世代の年金支給を遅らせ、介護福祉を切り捨てて「生涯現役」を強いている。具体的には①女性②高齢者③外国人を有効に使うしか手がない。結果として日本は今世紀末、人口6千万人台の老人国へと転落する見通しだ。
中国も少子化危機
ただ、岸田政権をかばうわけではないが、「少子高齢化」は先進国共通の悩みだ。女性の権利が向上し、向学心が上がれば当然、結婚や出産は遅れる。加えて倫理観の向上で、婚外子出産を避ける傾向にある。
欧米の白人系女性の出産数は減少しており、日韓もこの流れだ。中国の人口減少は長く続けた〝1人っ子政策〟の失敗によるもの。逆に米国は南米からヒスパニック系の移民が増え続け、総人口を支えている。トランプ前大統領は白人の低所得層の仕事がヒスパニック系に取られないようにメキシコ国境に壁を設ける策に打って出たが、それでは人口が減少するので長い目でみれば国力を削ぐ要素になる。
中国は「共産主義政権下の自由主義経済」で急成長したが、貧困を脱した後は国民の人権や個人権利への意識を認めないとさらなる発展は見込めない。香港に対して「1国2制度」を強制的に崩壊させたことで、国際的な信用が失墜。お金でツラをたたき、アフリカや南アジアで利権を拡大してきた政策にも批判が増している。
習近平主席の強権政治を警戒して、生産拠点を他国に移す外国企業も続出。今年から人口減少に転じ、世紀末には14億人いる人口が、7億人にまで減ると国連は試算しており、将来性が見いだせない。
南アジアやアフリカの諸国はイスラム教による一夫多妻制で子どもの数も多いケースが目立つ。地続きのEUを中心とした欧州は、これら移民を受け入れる余地が将来のプラス要素として存在する。
インドはなぜ強い?
勝ち組の筆頭はインドだ。今年に入って人口が中国を抜き、14億人台になった。人口が多ければ「生まれた時からの競争社会」になる。戦後の日本や成長期の中国も同じだったが、インドの場合はかつての宗主国が英国だったことから、英語圏文化が根付いているのが大きい。十字軍の遠征以来、伝統的なキリスト教国のイスラム教嫌いに対し、インドのヒンズー教徒は仏教徒と並び、欧米との相性がいい。もともと世界の模範とされる民主主義が英国流に根付き、国民の政治への参加意識も高い。
すでに米にはインド系移民が400万人もいるが、うち100万人はITや科学のエンジニア系。マイクロソフトのサティア・ナデラCEO、グーグルのサンター・ピチャイCEO、英国のリシ・スナク首相など広く移民が先進国で活躍している。
かつての日本と同じで、経済の高度化を背景に中間所得層が増えて購買力がアップ。カラーテレビこそ8割が所有しているが、電気冷蔵庫やエアコン、車などはまだ35%しか保有しておらず、まだまだ消費拡大が見込まれる。昭和の日本にあった〝3C(カラーテレビ・クーラー・自家用車)〟時代というわけだ。
人口が増え、国内の経済が成長する国には、日本で起きた「スタグフレーション(景気後退と物価上昇の同時進行)」はないからうらやましい。
人口動態でいうと、アフリカ諸国にも今世紀後半に同じ波がやってくる可能性があるが、食料需給やインフラ整備が追い付くかどうかで発展に差が出て来そうだ。
コロナとウクライナ侵攻 人口減への影響は?
今年の国際世界を覆う〝コロナ禍とウクライナ侵攻〟の2大リスクを将来視点で見通してみよう。
昨年10月までに、コロナによって全世界で657万人が亡くなっているが、世界人口への影響はどうだろう。結論は、今世紀半ばにはその影響は吸収されるという試算になる。戦争や飢餓と違い、死者のほとんどが高齢者に集中。子どもや若い世代への影響が小さいからだ。
では、ロシアによるウクライナ侵攻はどうか。兵士と市民の死者は計数万人。今後、プーチン大統領の核兵器使用リスクもあり予断を許さないが、第2次大戦の兵士と市民の死者5000万~8000万人に比べて大差がある。開戦と共に、ロシアでは技術者など約100万人が国外脱出しており、こうした影響が今後の国力回復に微妙な陰を落としそうだ。