令和ガチャの進化と「大人熱狂」

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回せば回すほど引くに引けない!!

 大阪国際大学と週刊大阪日日新聞が協働し、大学生たちが新聞記者の仕事を実践する「PBL演習Ⅲ」(担当教員:尾添侑太准教授)を同大学で実施した。学生15人が7グループに分かれ、自分たちで見つけたテーマについて、人と会って取材し、記事を作成した。新聞離れが顕著な大学生に新聞に興味を持ってもらうとともに、活動を通して学内外のさまざまな人たちとコミュニケーションを図り、自分の意思を形成することを学んでもらう事が狙い。
 本紙「わかるニュース」でおなじみの畑山博史論説委員のもと、学生たちはテーマ決め、アポの取り方、質問の作り方、取材、記事の書き方などで試行錯誤を繰り返し、それぞれ1本の記事を仕上げた。今回は、日本のカルチャーとして一躍変貌を遂げた「令和ガチャの進化と『大人熱狂』」と、〝多死社会〟の課題から生まれた「『死者のホテル』って何?」の二つを紹介する。

ガチャガチャの森 スタッフにインタビューの様子
ガチャガチャの森 スタッフにインタビューの様子

 「え~!? こんなんもあるんや!」そう叫ばずにはいられないガチャマシンがズラリ行列。昭和には「子どものお遊び」だったガチャガチャは、つまみを回すとカプセルがコロンと落ちてくるアナログなスタイルだけは今もそのままに、令和の時代に大人も夢中になる日本的カルチャーへと一躍変貌を遂げた。私たちは『ガチャガチャの森』大阪梅田茶屋町店(梅田芸術劇場南側)を訪れ、店内調査と利用者インタビューで現代ガチャ文化の実態と背景を探った。
(侯拾依、福留咲和、富山菜南)

 かつては100円か200円が主流だったが、今では300円以上が当たり前になり、500円ガチャも珍しくない。それでも人気は衰えず、2400台のガチャがあるこの専門店には平日でも客足が絶えない。
 バイトスタッフによると、売れ筋は『ナルト』『ハイキュー!!』などの日本のアニメや、『サンリオ』や『ちいかわ』など若者に人気の定番キャラ。一方で、お父さん世代に響くような昭和アニメ・キャラのガチャは次第に売れにくくなっているそうだ。客層は若い女性が多く、聞くとライブ前や仕事帰り、夕飯前の「隙間時間にちょこっと立ち寄ってサクッと回す」というタイパ(時間対効果)の良さを指摘する声が複数あった。背景にあるのはアニメ文化とSNSの相性の良さ。若年層を中心にインスタやTikTokで発信して支持される〝映える〟ミニチュアが共有され、平成レトロのキャラブームがさらに追い風に。まずSNSで事前情報を収集してから『めじるしチャーム』などの人気アイテム入手を狙って来店する訳だ。

ガチャガチャの森 茶屋町店
ガチャガチャの森 茶屋町店

 ガチャの「大人化」は、価格とクオリティ両面から進んでいる。かつてのような安価な〝おまけ〟的存在ではなく、高品質で精巧なミニチュアやアクセサリーが主流に。サラリーマン風の男性も欲しいキャラを手に入れたのかカプセルから取り出すと、大切そうにバックにしまい込んでいた。売り場を眺めると「子ども需要が減った」のではなく、「大人が欲しがる物が増えた」のだと分かる。変化の背景には「懐かしさ」が大きく関わっている。『セーラームーン』やアナログゲーム機器など、子どもだった平成当時の〝思い出〟がミニチュアになって登場、「あの頃の自分と再会する」気分でガチャを回す。失われたモノへの郷愁と「今はもう売っていない」というレア感が組み合わさることでつい手が出てしまう構造だ。

 ガチャは「欲しいのが出るかな?」の運試しを超えた〝大人文化〟として確実に定着しつつある。その中身は単なるマスコットではなく、「プチ贅沢」や「語るべき思い出への入り口」となっている。大人の心をガッチリつかみ、〝もう子どもじゃない自分たち〟が童心に返って楽しむ新しい遊びへと進化したのだ。2023年度の市場規模は前年比60%増の1150億円と急成長を遂げ、10年間で約5倍に達している。今日も私たちはガチャマシンを回せば回すほど、後に引くに引けない気分で100玉をジャラジャラ言わせ続けている。