なかなか行く機会がなかった中国パビリオンへついに潜入してきた。中国パビリオンは巨大な建物なだけでなく、館内の展示物の数やその内容の充実度でも他を圧倒している。
今回は、VIP対応も行っているというボランティアガイドが付いてくれ、館内の展示物や背景などを詳細に説明してもらった。
館内は、過去、現在、未来の中国に大きく分けられている。
過去エリアでは、文字を軸にして中国大陸の歴史や文明の発展を辿(たど)れる展示になっている。最初に紹介されたのは壁にLED照明を使って表示されていた文字の滝。
文字の始まり(動物などの形)からどんどん変化して現代の文字の形になるまでを現していて、文字の成り立ちを学べるようになっている。この文字群は壁を上から下に移動したのち、床にも投影されるが、こちらは真上からプロジェクターで映し出していて、過去エリアの端までその文字の移動が続くという演出になっている。
次に案内してもらったのは、歴史的価値のある展示物がケースに収められている場所。そのケースの前面のガラスをタッチすると、情報や3D画像が表示され、指先で拡大したり回転させたりして鑑賞できるようになっている。
実物のレプリカと3D画像を比べたり、情報を読み取ったり、レプリカや3D画像を改めて眺めたり、とかなりインタラクティブになっている。ケースは複数並んでおり、左から右へ進むごとに展示されている文字が進化して、秦の始皇帝の頃から劇的に近代文字に近くなってきたことがわかる。
その次は巨大なスクリーンで四季の移り変わりが農作業や景色を通して表現されているものがあったり、遺跡や過去に栄えた都市から発掘された青銅器などが展示されている。
発掘された物が作られた時代とその時に栄えていた都市の発掘の様子などが紹介されている。
過去のエリアが終わると、そのまま現代のエリアへ移動する。こちらでは大きな円形のスクリーンが4つ設置されていて、それぞれにテーマが設定された映像で現在の中国を紹介している。
その後ろには近年整備された国立公園が5つ紹介され、各公園にいる動物のイラストが描かれていて、そこにタッチするとかわいいしぐさで手を振って挨拶してくれる。
現代エリアの隣には少し空間があり、そこでは中国の各省が週替わりでホストとなって、各省の紹介や産品の展示を行っている。筆者が来館した際は、浙江(せっこう)省の寧波(ニンポー)市の産品が展示されていて、その赤の発色の強さや繊細な織込み技術に見惚れてしまった。
これを見てもらえないのは非常に残念だが、また次にも素晴らしいモノが展示されるので、慌てず足を止めてゆっくり鑑賞してみて欲しい。
現代エリアを離れて、登り坂の廊下を進んでいくと、廊下が3つのセクションに別れていて、それぞれ宗教、経済、文化のカテゴリーで日中の結びつきを表す人物の彫り物が壁に展示されている。空海や最澄がいたり、松下幸之助と握手する鄧小平の姿が見られた。
彼らは皆、中国でも有名な日本人だとのこと。文化のセクションでは孫悟空と肩を組んでいる鉄腕アトムがいたり、最後には日中が協力している未来を表す2人の若者が並んで立つ姿なども見受けられる。
人によって色々な解釈をされるかもしれないが、万博は平和と協調の祭典なのだから、日中両国、そして両国民の友好の現れとしてこの廊下を闊歩してほしい。
また、この廊下の途中に開放的なスペースがあり、そこでは寧波市が持つ印鑑が展示されていた。
国連加盟国の名前を印字した印鑑を作ったそうで、それを押印して、その国の説明をしたページが各国ごとに用意されていた。日本のページはこんな感じだ。
普段は大事に保管されていて、展示イベントの時だけ、取り出されて今回のようにお披露目されて、見ることができるという貴重なものだ。
廊下の先には映像を見る部屋が用意されていて、イスに座って鑑賞するようになっている。映像では中国の日常を伝えており、1日を干支にちなんだ12の時間帯に分けて2時間単位で、その時間帯の過ごし方を見せてくれる。テンポよく、ダイナミックなシーンや何気ない日常のシーンなど、うまく織り交ぜて表現されていて面白い作品に仕上がっている。
かなりオシャレな日常にも見えるが、私たち日本人の暮らしぶりと基本的には変わらず、人の心の動きや感情表現も似ており、人は皆同じモノを心の底に持ち合わせているのだろう、と思わせてくれる内容だった。
未来のエリアでは、今後実現させたいスマートシティーの模型や、世界初公開の月の砂の粒子、海底7000メートル以上の深さまで潜った深海艇などが展示されている。
月の砂は、普段は大事に保管されていて、中国国内でも一般公開したことがなく、今回世界初で一般公開されている。おまけに他国の石は一瞬だけしか見れなかったが、ここでは慌てることなく、じっくりと眺められた。
砂を見るコツは、円球のケースを真上から覗き込むこと。月の表面と裏側の砂の粒子がそれぞれに設置されているので、左右に別れて順番にみていくのだ。


月の砂の展示の奥には、宇宙飛行士と一緒に宇宙を旅したパンダのぬいぐるみも展示されていた。

深海艇は7000メートル級有人潜水調査船「蛟竜号」という名称。ここでは原寸大の簡易な模型が展示されていて、その中に入って操縦桿を動かすことで、前面の映像内で深海を移動することができ、子どもたちが楽しそうに操縦体験をしていた。
日本にも「かいこう7000」という深海艇があり、遠隔操作で操縦しているが、中国の蛟竜号は有人で船内で操縦しているという。
パビリオンの建物全体を見ると、外観からもすぐわかる大きな文字が描かれた壁があるが、館内の移動時にも同じものが何ヶ所かにもみられる。
これらは竹を切って合わせて作ったものに、プロの書道家が文字を描き、その後プロの彫り師に彫ってもらったところに黒い墨を入れて作っている。
ここでも文字の歴史を振り返りながら鑑賞できるように工夫されている。
説明してもらった内容はもっと細かい部分も含めてまだまだたくさんあったのだが、とにかく多くの展示物に説明や3D映像が用意されているので、それらを全部じっくり見ていくと、2時間くらいはあっという間に過ぎてしまう。私はベストガイドについてもらって話を聞きながら周ったが1時間半くらいはかかった。
それでも「もっとゆっくり見たかったなあ」と後ろ髪を引かれた展示がいくつもあったので、時間にはゆとりを持って鑑賞することをオススメする。