大阪・桜ノ宮。かつて迎賓館としても使用された「旧桜宮公会堂」にあるレストランでは、明治時代の皇室の食卓を現代に再現する特別なフレンチコースが提供されている。歴史的建造物の重厚な空気の中で、一皿一皿が語るのは、想像と文献の狭間から生まれた〝明治の味〟。それは単なる食事ではなく、時代を味わう体験だ。
歴史の再現から始まった一皿の旅
このユニークな企画は、昨年実施されたものが好評で再び提供されることとなった。発案者は前任の料理長。旧桜宮公会堂に隣接する政府館に明治天皇が宿泊したという記録に着目し、「当時の食事を今に蘇らせたい」という想いからスタートした。しかし、残されていたのはメニュー名のみ。レシピや詳細な調理法は一切残っておらず、料理人たちは秋山徳蔵の著書などの文献を手がかりに、「おそらくこうだったのでは」という想像と考察を重ねながら、当時の一皿を再構築していった。
忠実な食材再現へのこだわり

再現された料理には、明治時代に実際に使用されていた、あるいは日本に入ってきていた食材のみを使用。たとえばトマトはすでに日本で食用として受け入れられていたし、豆も関西で流通していた品種を選ぶ徹底ぶりだ。新しい食材は使用せず、「その時代にあるものだけで作る」という姿勢が貫かれている。
文献に残された「名のみのメニュー」
文献に記録されていたのは、料理の〝名前〟だけ。そこには漢字、カタカナが混在している。料理人たちは、食材や調理法を想像し、時には鮮魚の代わりに肉や別の魚を使うなど、工夫を凝らしながらも、できる限り忠実な再現を目指している。
明治の〝フレンチ〟コースを追体験
コース料理は、文献の構成や流れを引き継ぎながら現代に蘇った。特徴的なのは、前菜に野菜がほとんど使われておらず、アスパラガスなどの野菜料理がコースの終盤に登場する点だ。これは、当時の古典的なフレンチの構成であり、現代とは異なる面白さがある。
半年かけた開発と試行錯誤
このコースの開発にはおよそ半年の期間が費やされた。文献を読み込み、構成を想像し、当時の食材を調達しながら、厨房での試作が重ねられた。店にある設備と食材で対応できるかも確認しつつ、地道な作業の連続だったという。
ソースや調理法にも宿る明治の風
料理の味を決めるソースも、当時のものを再現。シャンピニオンソースやジュ・ド・ビアンド(牛の出汁)、甘口の赤玉ポートワインなど、文献や当時の献立を参考にした素材が活躍している。
一期一会の体験を桜宮で
「旧桜宮公会堂」という歴史ある空間と、「明治のフレンチ」という時代を超えた料理。その組み合わせは、大阪でも他に類を見ない体験だ。「建物と料理の組み合わせが唯一無二であり、大阪でも他にない体験ができる。空間と料理を通じて当時の時代を感じてほしい」と料理長の藤田将人さん。
歴史を五感で味わう、ここだけの特別なひとときを。ぜひ、体験してみてほしい。
◾️旧桜宮公会堂/大阪市北区天満橋1−1ー1/電話050(5306)8500/ランチ営業午前11時30分〜午後3時30分(ラストオーダー同2時30分)