大阪府の漁獲高の70%以上を占める岸和田漁港の一角で、世界初のイワシの陸上養殖に向けた実験が行われている。研究を進めるのは「グワシッ!」の福永翔平社長。漁港内に設けた養殖場で4月3日、現在進めている畜養の様子を関係者らに初公開した。(佛崎一成)
養殖場内には、大きさの異なる3つのいけすを設置。漁獲したイワシを環境に慣れさせるため、最初は大きないけすで育て、順に小さないけすに移していく。3段階の行程を経て、最終的には飲食店の小さな水槽でも生きられるようにするという。
イワシのエサには、地元岸和田の酒蔵メーカーから取り寄せた酒かすと、堺市の塩ラーメン専門店「龍旗信」が提供する米粉のかすをブレンド。地元産品を食べて育った〝ご当地「よっぱらいイワシ」〟としての展開を狙う。
これまでイワシの養殖が進んで来なかったのには理由がある。日本中で漁獲できる大衆魚であることから、毎月のエサ代や光熱費などのコストが合わないからだ。加えて「魚へん」に「弱い」という字のごとく、イワシのウロコははがれやすく、すぐに弱ってしまう。
「5年前から研究を進めているが困難続き。漁獲したイワシは1カ月ほど経てば半分は死んでしまう」と福永社長は振り返る。イワシを畜養するには、水温や水質などこまめな管理が必要になる。このため、漁港の地下から海水をくみ上げ、特殊な活水機を通して純度を高めて対応。ようやく光が見えてきた。
現在、いけすで育てているイワシは昨年11月に漁獲したもので、すでに半年の畜養に成功。今後、同社では大阪市内の飲食店に生きたイワシを供給していくという。
視察に訪れた大阪観光局MICE政策統括官の田中嘉一さんは「何と言ってもロケーションが抜群だ。すぐそばに漁港があり、水揚げされたばかりの迫力ある魚が並び、その魚を味わうレストランがそろい、すべてが一つの物語になっている。日本を体験したいと思う外国人が喜ぶ優れたコンテンツ」と絶賛していた。
福永社長は「生きていれば市場価格は10倍以上になるから漁師も喜ぶ。最終的には都心のビル内でも養殖できるようにしたい」と計画。実用化されれば、海に面していない地方であってもイワシをご当地グルメとしてコンテンツに加えることができるようになる。
さまざまな夢を乗せたイワシの陸上養殖に、地方創生の期待も高まる。