荷台に大きく子どもの描いた絵と、無事に帰ることを願うメッセージをラッピングしたトラック。ドライバーだけでなく、トラックを見た人にも安全運転や優しい気持ちをうながす「こどもミュージアム」が広がりを見せている。
大好きなトラックが嫌いになった
「ドンッ」と大きな音が聞こえた。トラックとスクーターが接触する音だった。
2013年8月、後に同プロジェクトを展開することになる宮田運輸(高槻市・宮田博文社長)で起きた交通事故だ。最悪なことにスクーターに乗った男性は帰らぬ人となってしまった。
以来、宮田さんは大好きだったトラックが「無くなった方がいいのでは」と思うほどになってしまった。以降、同社は業界全体の事故防止のために、さまざまな取り組みを試みる。しかし、劇的な減少には繋がらなかった。
ラッピングのアイデア
宮田さんが思い悩んでいた時、あるメッセージが目についた。
「お父さん いつもありがとう あんぜんうんてん がんばってね」
トラックの助手席に、子どもが描いた似顔絵付きメッセージ。思わずドライバーに尋ねると「子どもと一緒に働いている感覚になる」という。
「子どもが一生懸命描いたものは真っ直ぐに心に届く」。そう気づいた宮田さんは、絵とメッセージをトラックに大きくラッピングしたらどうだろう…と思いついた。
実際にそのトラックを走らせてみるとものすごい効果だった。「バイバイ」と子どもたちが笑顔で手を振ってきたり、「写真を撮っていいですか」と声をかけられたり…。
そのやさしい気持ちは見ている人だけでなく、ドライバーにも広がった。ラッピングが注目されることで、雨の日でも洗車をするようになり、トラックはいつもピカピカに。さらに事故も4割減少した。
手応えを感じた宮田さんはこの活動を広げようと、17年に法人化して同プロジェクトを本格的に始動させるようになる。
子どもの絵とメッセージの力
活動を知った企業の協力で街中の看板や自販機、工事用フェンスなどにもラッピングが広がっていく。それを見た通りすがりの人たちから「心が温かくなる」という声や、薬局の買い物袋の「元気でいてね」のメッセージを見て、涙を流すお年寄りもいた。
また、仕事の愚痴をこぼす場になっていた会社の休憩室は、絵を飾ってからはお菓子を持ち寄ったり、相談し合ったりする良い雰囲気の場に変わった。
やさしさの輪 広げて
亡くなった男性の命日である8月30日前後には、毎年「こどもミュージアムフェスタ」を開催し、絵画コンクールでは絵を描いてくれた子どもたちに感謝状を贈った。また、活動の様子を追ったドキュメンタリー映画の上映会や講演などで交通事故を少しでも減らそうと活動を続けている。
宮田さんは「交通事故を望んで起こす人などいない。絵とメッセージを見て家で待つ子どもの姿を思い出す機会をもっと増やしていきたい。2025年大阪・関西万博に、こどもミュージアム号を走らせて世界へアピールするのが目標。やさしさの輪をもっと広げて行きたい」と意気込みを語った。