門真市制60周年 描く青写真 宮本市長にインタビュー

 巨大家電メーカーのパナソニック(旧松下電機産業)のおひざもとで、古くは企業城下町として栄えてきた門真市。今春には大型商業施設「ららぽーと」が、8月に米国系の会員制大型スーパー「コストコ」が相次いでオープンし、注目を集めている。ちょうど市制施行60周年の節目にあたる同市は、どんな青写真を描いているのか。地元出身で市のことを知り尽くす2期目の宮本一孝市長に、地元在住で本紙門真エリアの編集長を務める阪本晋治が迫る。

子どもの貧困対策に力を入れる宮本市長(右)と同市を拠点に空手道場も開く編集長の阪本

「ららぽーと」「コストコ」の進出で注目集まる

 ─「ららぽーと」「コストコ」の進出の経緯は。

 2013年にマスコミ報道が出たときは「ららぽーと」と「イケア」の組み合わせだった。しかし、計画地のパナソニック工場跡で土壌汚染が問題になり、一旦立ち消えたんです。しかし、三井不動産側はこのエリアに可能性を感じられていたことで、いろいろと動かれており、私が市長になったときに売却の話が出てきたときは「コストコ」との組み合わせに変わっていた。

 私が視察に行った「ららぽーと豊洲」(東京・江東区)も、かつてはIHI(石川島播磨重工業)の造船ドックがあった場所。そこを大型商業施設とマンションに作り替え、街のイメージを刷新したケースだった。こうしたまちづくりを同社は展開されているようだ。 

─私の青春時代の門真と言えばイズミヤとトポスだった。

 イズミヤは50年前(1973年)に開業したが、市営住宅との複合施設で当時は全国的にも画期的なモデルだった。そのころの門真は人口が急増しており、私設市場がすごく繁盛していたので、大型店の出店に反対の声も多かった。

 その10年後にダイエーが建ち、周辺には大日や鶴見、四條畷にイオンモールが開業。郊外店に徐々に客を奪われていった歴史がある。しかし、ららぽーとが開業し、再び門真に客が戻って来た。 

 ―都市開発の面で言えば、古川橋駅前ではタワーマンションの開発が進むなど、人口増に期待が持てる。

 流入人口を増やすというより、まずは人口の急減を抑えたい思いがある。

子どもたちの学力高め、人口急減に歯止めを

地元出身で市のことを知り尽くす2期目の宮本一孝市長

 ―先ほどのイズミヤと市営住宅のセットもそうだが、門真市は公民連携のパイオニアだと思う。2021年にはイズミヤの3階に税金を使わず寄付で運営する「子どもLOBBY(ロビー)」も開設された。その目的は。

 先ほどの人口急減を食い止める話につながるが、門真市のマンションは完売するまでに3年かかったケースも過去にあり、守口と比べると売れにくい状況にあった。

 理由は住宅購入者にとって学校区は非常に重要なポイントになるからだ。今でこそ門真市の学力は全国平均に近づいているが、もともとは府内でも厳しい位置にあった。

 背景にあるのは、学力以前の課題を抱えている家庭の多さだ。16年の「子どもの貧困実態調査」では、生活保護率が非常に高いだけでなく、収入減、離婚率が高い、10代など若年出産の比率も全国より高い、大学進学率が低いなどすべてが連動した問題として明らかになった。

 つまり、勉強に向かえない家庭環境をケアしないと平均値は上がっていかない。このため、18年に府とタッグを組んで「子どもの未来ネットワーク事業」をスタートさせた。推進員がそうした家庭にアプローチし、1600人のボランティアが見まもりをしてくれている。

 虐待事案では門真は育児放棄などのネグレクトが多い。実はネグレクトは公的サービスを拒否する傾向にあり、「助けてくれ」のメッセージを出してくれない。だから、こちらから気づいていく必要がある。

 保護者自身も親からネグレクトを受けているケースも多く、どこかでこの貧困の連鎖を断ち切っていかなければならない。

 ─子どもの自己肯定感も上げていかなければ。

 そのためにもキャリア教育や職業体験などで、非認知能力を高められる環境が必要だ。私自身も子どもの時、子供会で長崎県の集中豪雨被害の寄付を集めた経験などが今に生きている。

 ─キャリア教育という面では、11月25日の市制60周年イベントにも多くの企業が関わっている。

 門真に関わりのある企業では、東和薬品や海洋堂などが協力してくれる。ほかにも子どもLOBBYの家具をイケアが無償で提供してくれたり、子供服の提供や災害用備蓄で賞味期限の近いものを寄付してくれる企業もある。

 先ほど話したネグレクトの家庭にアプローチする場合、こちらが何か提供できるものを用意していくと、家に上げてもらえるケースがある。そうやって関係性を作りながらケアにつなげている。

「重工混在」は問題ではなく魅力に

地元在住で本紙門真エリアの編集長を務める阪本晋治


 ―市長からは強い門真愛が伝わってくる。私も門真が好きなので一つお願いしたいのが、商店街の活性化はできないものだろうか。

 基本的に商店街は行政側が何か手を入れるのではなくて、時代のニーズに応じて、自然に出来上がるものだと思っている。時代と共に、買い物は商店街から大規模店に移り変わっていった。今の中学生に「どこ遊びに行くの?」って聞いたら、「イオンに遊びに行く」って言う。そういう時代なのだと思う。

 ただ、商店街と形態は異なるが、古川橋駅や門真市駅、西三荘駅の周辺を含めてウォーカブルというまちづくりを進めている。大阪市内でいえば難波駅前などで進められている歩行者専用空間のような〝憩いの空間〟という観点での取り組みだ。

 例えば、古川橋駅の北側の図書館と文化会館は、カルチュア・コンビニエンス・クラブ(CCC)の指定管理でスタートする。ちなみに図書館で一番ニーズあるのは何だと思うか?

 ―わからない。

 実は雑誌。ところが、一番ニーズがあるはずの雑誌が図書館には通常1冊ずつしか置かれていない。しかし、仮にCCCが運営する蔦屋(ツタヤ)書店のように、立ち読みできる環境を作り、収益面はコーヒーで成り立つよう名ビジネスモデルだったら…。

 先ほどのウォーカブルの観点で行くと、公園のあり方にしてもそうで、親子でピクニックシートを敷いて居心地のいい空間にする。住まいがマンションの場合、庭が十分にないから、外でそういった空間を提供していけるようなカタチにしたい。

 ―市長が在任中に取り組みたいことはあるか。

 私自身が思う門真の長所は、自営業者の多さだ。約6万世帯のうち、国民健康保険が約3万世帯ある。つまり、半分が自営業と捉えることができる。持ち家比率は5割だ。そう考えると、実は仕事をしている大人と身近に接点を持てるということ。つまり、子どもたちのキャリア教育には良い環境だということだ。会社員の場合は仕事している親の姿を見ることはできないから。

 近くに働ける場所も多いから、通勤時間もかからないし、買い物するにもすべて近場にそろっている。ある程度子どもが大きくなれば、パートから正社員になってもいい。

 過去には「門真は重工混在が問題」と言われたが、今は重工混在こそが魅力と言えるのではないか。

 過去に家電メーカーなどが郊外に工場を作ったこともあったが、働き手が確保できず、結局は外国人労働者に頼らざるを得ないようになり、問題となっていた。そう考えると、門真はそのあたりをPRしていけるのではないか。

 そのためにも街の魅力づくりには常に取り組まないといけない。門真は50年前にまちづくりが進み、人口が急増した。そのときの受け皿は門真団地もそうだが、当時は最先端だった文化住宅だ。そのあこがれの文化住宅で都会生活をしたいと、門真を目指した住民は多かった。

 それが今、再生期に来ている。都市に近い便利なところは常にリニューアルしていかないと魅力がすぐに廃れてしまうので、継続的に取り組んでいきたい。

 15年前に尼崎市にコストコが開業したときもそうだが、20年ほど前を思い出すと、尼崎市はそんなイメージの街ではなかった。そういった時代の移り変わりを見ても、門真も何年後かには、住みたい街に変わっている可能性がある。

【門真市長プロフィル】宮本一孝(みやもと かずたか) 1970 年門真市元町生まれ。門真小学校、第六中学校、府立四条畷高校、関西大学経済学部を卒業し、99年から門真市議会議員を2期務める。2007年から大阪府議会議員、16年に門真市長に初当選し、現在2期目。門真地区保護司、門真市体育協会会長も務める