在宅で療養する人を支える訪問看護。事業所の新設が相次ぐ一方、働く看護師の確保や定着に頭を悩ませる経営者もいる。採用に多額の費用をかけても、職場とのミスマッチで早期離職すれば、経営にも残された職員にも負担が及ぶ。こうした課題に、現場を知る看護師自身が人材紹介を担うことで向き合おうとする動きもある。(佛崎一成)

「ようやく採用できたのに、また一人辞めてしまった。採用と離職の繰り返しで本当に悩ましい」
大阪府内のある訪問看護ステーションの運営責任者はこう話す。「依頼があるのに看護師がいないから、訪問が増やせない。求人をかけても応募がないので費用はかなり高くつくが、人材紹介会社に頼らざるを得ない状況だ。本当に困った」と嘆いている。
全国訪問看護事業協会の調査によると、訪問看護ステーションは2026年4月現在で2万51カ所に伸び、初めて2万の大台に乗った。23年の1万5697カ所から、わずか3年で約30%も伸びている。
特に大阪は突出しており、25年度の新規開設が410カ所。188カ所で2位の東京を2倍以上引き離している。
新設の事業所が急増する一方で、廃業も相次ぐ。25年度に全国で廃止や休止となった事業所は計1288カ所と新設数の約半数を占めた。
廃止や休止の背景の一つに、人材確保の難しさがある。訪問看護ステーションには人員基準があり、常勤換算で看護師2.5人の確保が義務づけられている。
業界の動きにくわしい医療福祉分野の経営支援を手掛けるニューメディー(大阪市)の花山翔社長は「離職の要因に、採用時のミスマッチと入職後の支援不足がある」と指摘する。
大阪市内の女性看護師は「訪問先で急変があっても近くに医師や先輩がいないから、自分で判断しなければならない不安が常にある。このあたりのサポートがしっかりしている事業所もあるが、直行直帰で職員同士が顔を合わせることが少なく、孤立しやすい事業所もある」と話す。訪問看護の需要が拡大する中、人材確保は多くの事業所に共通する課題となっている。
花山さんは「求人をかけても集まらないため、人材紹介会社を利用する事業所が多いが、紹介会社には看護師資格や訪問看護の実務経験を持たない担当者も多い。利用者の重症度やオンコールの負担など、求人票では分かりにくい現場の実情を十分に把握できず、ミスマッチにつながることがある」と説明したうえで、「高額な採用費が事業所経営を圧迫している」と指摘する。
採用費120万円
人材紹介は一般的に、採用1人につき100万円以上の手数料がかかると言われている。花山さんによると「紹介手数料の標準的な相場は年収の30%程度。年収400万円なら手数料額は120万円になる」という。
一方で、看護師1人が訪問して生み出す月の売り上げは全国平均で約60万円。給与に社会保険料の事業主負担などを加えた人件費は40万円強かかり、訪問に使う車両や駐車場などの費用まで含めると月50万円近くになる。
採用コストや人件費の負担が大きく、その分を回収するまでに時間がかかるのがネックとなっている。「仕事に慣れる前に辞めてしまえば、再び採用と教育に時間や費用をかけなければならない」と花山さん。
保険を使う訪問看護は報酬の単価が制度で定められている。つまり、採用費が膨らんだからといって値上げして補えるわけではない。人材を確保できなければ訪問を増やしにくく、無理に採用を急げばミスマッチのリスクがあるという悩ましい状況にある。
看護師自身の人材紹介
こうした課題に解決策を見いだそうとする事業所もある。山口県下関市で「はるかぜ訪問看護ステーション」を運営する春風の代表、重田浩さんだ。重田さんは看護師としての経験を強みにした人材紹介事業「ハルカゼエージェント」を今年11月に提供開始する。
重田さんは精神科病院に20年以上勤務した後、国が訪問看護へ舵を切る流れを見て23年に独立。訪問看護ステーションを立ち上げた。
事業所を運営する中で、重田さん自身も「人を雇い、働き続けてもらうことには苦労した。人材紹介会社を通して採用した人が早期に離職し、採用費が負担になった経験もある」と振り返る。新たな事業について、「看護師と事業者の双方の立場を深く知る私が人材紹介に取り組めば、ミスマッチを減らせると思った」と重田さんは話している。
「同じ立場」だからわかる
「看護師には、自分も現場を回っている看護師だと伝えられる。経営者にも同じ立場から話ができる」。重田さんはこの共通理解を相談の入り口にするという。
例えば、出産や育児で仕事を離れていた看護師が、夜勤の難しさから訪問看護への復職を考える場合であれば「勤務条件が合っていても、看護技術や病院との仕事の違いに不安を抱えているかもしれない」と重田さん。この場合は、自社の現場で技術の確認などを支援することも考えているという。
紹介料は、予定年収に一定の率を掛ける従来の方式はとらず、訪問看護ステーションの経営に支障が出ない採用コストを計画している。
「採用を現場に取り戻すことで、業界を良くしたいという思いから始める事業。訪問看護という本業を持っているので、売り上げのために転職を急がせる必要もない。今のキャリアをどうしていくかなど親身になって相談に乗ることを大切にしたい」と説明する。
新事業には、看護師の働き方を広げる狙いもあるという。重田さんは「看護師で終わるか、看護師から始めるか。訪問看護の現場で積んだ経験を、『人事の仕事』という新たな選択肢で生かせるようにしたい。求職者や採用に悩む事業所、そして業界全体のためになる仕事だ」と力を込める。
現在、重田さんは北九州での人材紹介事業を共に担う看護師を探している。「訪問看護の実務に関わりながら、人材紹介や採用支援に取り組む役割を想定している」という。

報酬頼みから自立へ
国は医療費の抑制などを背景に、医療を病院だけで完結させる体制から、住み慣れた地域で患者を支える体制へと転換を進めている。その受け皿となる訪問看護の需要が高まる一方で、現場では看護師不足が続き、高額な紹介料が経営を圧迫している。人材を確保できず、利用者からの依頼に応えられない事業所もある状況だ。
公定価格で運営する訪問看護は、経費が増えても自由に値上げできない。厳しい経営を診療・介護報酬など公的報酬の引き上げだけで補うのではなく、採用や人材育成の仕組みを業界内に持ち、外部へ流れていた資金を内部で循環させることも必要になる。
現場を知る看護師が人材紹介を担う重田さんの試みは、訪問看護業界が自らの課題を自ら解決していく一つの選択肢となる。成果を定着率の向上につなげられるか、今後が注目される。
