
ことしの株式市場は、まぎれもなくAIが主役となった。象徴的な出来事が起きたのは9月10日。ChatGPTを開発する「OpenAI」と米国IT大手「オラクル」による総額3000億ドル規模の契約が明らかになり、将来のAI市場の成長期待を織り込むかたちで、日米の代表株価指数を一段と押し上げた。
その後もオラクルが米半導体大手エヌビディアに400億ドルを投じ、さらにエヌビディアがOpenAIに1000億ドル規模の投資を行うなど、資金が企業間をめぐる動きが続いた。こうした「循環投資」を思わせる関係は、お互いの価値をつり上げる構図となり、過去のバブル期のスキームにも近いとの警戒感を市場に与えている。
足元では、この契約発表をきっかけとした過熱感への警戒が強まりつつある。AI相場が冷めれば、株価は結局9月10日時点の水準に戻るのではないか。市場にはそんな慎重な見方が増していた。特にOpenAIが未上場であるため、代替的にオラクル株がAIテーマの〝代理指標〟として見られている点も、市場の過熱感を意識させている。
同時に、米国では政治・社会面での不安材料が相場の重しとなっている。近年再び注目が高まるエスプタイン問題は、トランプ大統領や政財界の深部に関わるとされる疑惑で、捜査や証言の報道があるたびに政界の不確実性を想起させる。また、年末から来春にかけて判断が示される見込みの「トランプ関税」を巡る最高裁判決は、米政府財源にも影響するため、市場の関心が高い。
一方、米国企業の業績は堅調で、7~9月期は好決算が続いた。現時点では「リスクオフ」というより、セクター間で資金が移動するローテーションの様相が強いという見方もある。米国・金融政策の12月利下げ観測は後退したものの、量的引き締め(QT)は終了に向かっており相場にとってプラス材料だ。ただ、米国が12月の利下げを見送りとなると、後述の日本の通貨安、債券安にも影響する。
日本に目を向けると、政府が打ち出した18歳以下への2万円給付、ガソリン税の暫定税率の廃止、所得税における「年収の壁」引き上げなど、減税策と財政規律の関係は市場の警戒材料となる。長期金利が上昇し、国債価格の下落が加速するような事態となれば、大規模減税で通貨安、債券安、株安のトリプル安となった英国の「トラスショック」(2022年9月)を連想させるとの指摘もある。
家計の実感として大きいのは、通貨安によるインフレ加速の問題だ。輸入価格の上昇は生活必需品からエネルギーコストまで幅広く影響するため、インフレ対策のはずの政策が、逆に物価上昇を一段と押し上げかねない状況になる恐れもある。
熱気の続くAI相場がどこまで持続し、どの段階で冷静さを取り戻すのか。株価は不確実性を嫌う。現在の市場は、政治、司法、財政、金融政策など多方面の不安要因が重なる構図があるのも事実だ。個人投資家が期待する〝年末ラリー〟はやってくるのだろうか。
