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【わかるニュース】「時給2千円」でもバイト来ない 日本を覆う〝求人戦争〟

「時給2千円」でもバイト来ない 日本を覆う〝求人戦争〟

内定辞退が続々 居付かぬ若者、底付く高齢者と女性 恐怖の人手不足

 コロナ禍が明けたGW。都心の飲食チェーン店ではアルバイトが確保できずに閉店したり、驚きの「時給2千円」でもシフトが埋まらなかったりするほど人手不足が深刻化している。

 少子高齢化の日本では今後、大学新卒の求職者が毎年2万人ずつ減っていく試算が出ている。こうした中で、女性やシニアの就労による穴埋めもほぼ限界に来ている。「ならば海外から…」と思っても、円安だから外国人労働者の流入も期待できない。こうした人手不足の最中、今春のベアでは、人材獲得競争でトップを行く商社で三菱商事の大卒初任給が30万5千円時代に突入(前年比5万円増)。他業種を平均しても前年比2%前後アップと最近10年では最高になっている。

 さらに、今の新卒生らは複数社から内定を獲得しており、「内定辞退」も増えている。今や賃金が安ければ人材は集まらないし、その賃金アップをしようと思えば薄利多売をやめ、利幅の良いビジネスへの転換が必要だ。日本を覆う〝求人戦争〟。その最前線を見ていこう。

企業合同説明会の会場風景
企業合同説明会の会場風景

賃上げ実現には「薄利多売」から「付加価値」へ

「内定辞退」にビクビク

 すでに始まっている来春の新卒予定者求人。倍率は1・71倍とコロナ前に戻りつつある(2020年3月卒は1・83倍)。

 最近、企業側が頭を抱えるのは学生らの内定辞退だ。今春の入社組で内定辞退を経験しているのは4人に3人(75%)。来春の卒業組もすでに3人に1人(28%)に達している。

 新卒生が内定辞退をする理由は①知名度より自身の希望②社風より志望度③面接官の態度が悪く、企業のイメージがダウン─3大要素だ。

 企業側も防戦に懸命で、受験前に学生をセミナーで取り込み、さらに対面型のインターンシップで囲い込む。内定を出した後は①社員との質疑応答②内定受諾までに社内見学③経営トップとの質疑応答④内定者を即アルバイト採用⑤同期入社予定者との懇親会と、あの手この手を労して〝歩留まりアップ〟に躍起だ。

 学生らが内定を受諾した後も、イベントを定期的に催して接触する。果ては内定者の家族にまで会って会社の好感度をアップさせる作戦まで。内定者の2、3年先輩を相談相手に据えて、社会人になる不安を取り除く策まで教える気配りぶりだ。

連休明けが第2の関門

 新卒生が4月に無事入社してくれても、まだまだ一安心とはいかない。次のヤマ場はゴールデンウイーク後。新入社員の半数が〝五月病を経験す る〟と言われ、休み明けに全体の1割程度が休職や退職をしてしまう。このため、企業側は4月をほぼ研修期間にして、新卒者に精神的な負担を掛けないように気を配っている。

 こうした現象は何も新卒に限らず、配置転換や転勤となった一般社員にも起こりうる。このため、①ストレスチェックで異常を早期発見②リフレッシュ施設や子育て支援の福利厚生を充実③フレックス、在宅、オンラインなどで勤務時間や出社日を削減─と矢継ぎ早に手を打っている。

 しかし、結局はだましだましの策に過ぎず、根本の解決には至らない。根底では、企業と新卒者の間で、仕事観へのミスマッチが起きているからだ。

 企業側は「働きがい、やりがい」を重視する。一方、新卒者は「自分が成長するためのスキルを上げてくれる」ことを企業に求める。この微妙なミスマッチが常に横たわる。

 ここまで書くと、戦後の経済成長を支えた世代の読者からは「甘やかすな!」「そんなヤツはいらん!!」とお叱りを受けそうだ。しかし、日本の労働人口は恐ろしい速度で収縮しており、買い手市場だった頃の理想論ばかりを言っていられない現実がある。

若者が去り、中高年が居座る

 総人口は2008年をピークに減少に転じた一方で、就業人口は19年までは増え続けた。女性を社会に参加させ、高齢者の定年を延長したのが理由だが、それももはや限界。30年には7073万人の需要に対し1割近い644万人が不足。それから10年後の40年には不足数が1100万人に達する見込みだからだ。

 人手不足の悪循環は企業の体力をむしばむ。残業が増えて休みが取れず、仕事仲間が減り、従業員のやる気はダウン。結果としてスキルアップできないから、若者が辞め、転職できない中高年ばかりが残る。

 日本はなぜ、横並びの賃金を美徳と感じる国になってしまったのだろうか。私は戦後成長期の日本企業が、一貫して雇用を維持し、横並びの家族的経営を「良し」としてきたことにあると見ている。結果、低成長期に人が余ることを恐れて、みんなで低賃金に甘んじる体質に陥った。

 私は長くプロ野球の担当記者をしてきて、目からウロコだったのは「チームに必要な選手は1年生でも年俸1億円を出す。過去に貢献した10年選手が600万円(当時の一軍最低保証額)に年俸を下げてくれてもいらなくなったらクビ」というフロントのシビアな対応だった。

 こうした世界は今やプロ野球だけでない。個人スキルを磨くために会社を利用する若者が増えていることは、一般の労働市場も雇用の流動化に対応した方向に向かわざるを得ない。

 発想を変えるとすれば労働集約型の現業部門では、これまで以上に女性、シニアへの働きやすい環境作りに加え、①学び直しサポートと副業許可②「無理、無駄、むら」の排除が欠かせない。うまくいかなければその部門はアウトソーシング(外注)するしかない。

 個別の能力を買って採用する場合、社内での年齢・社歴序列は無視して給与・待遇をランク付けする必要がある。それまでの横並びから外国人労働者を雇用するような感覚で対応しないと、優秀な人材はすぐに他に転じてしまう。一般社員にも十分なパソコンやスマホなどのIT機材を貸与、意欲的な仕事実行へ必要経費なども別途支給するルールを作る。

 その際に注意するのは「人手が足りないから」とレベルを下げ、無理に採用しないことだ。人手不足で、さらに足手まといになる人材が加わるのは悪夢以外にない。

人に投資せよ 人件費をコストに見るな

 これからの人件費は「経費の一部」ではなく、企業価値を生み出す「投資」と位置付けなければならない。今後は若者・女性・高齢者の従業員に選ばれるだけでなく、30、40代の勤務状態も改善しないと社員は居付かない。

 さらに賃金、経費、福利厚生に加えて、社員が夢を抱けるビジョンが企業トップには必要だ。賃上げの体力がなく、人材を確保出来なかったら企業活動自体が縮む〝縮小再生産〟の負の連鎖しかない。特に賃上げを実現するには、薄利多売の商売ではこれからは立ちゆかなくなってくる。利幅を増やすには「値段を下げないと売れない」を止め、「他にない付加価値」を作るビジネスに仕組みごと転換する必要がある。付加価値を作れず、賃上げの出来ない企業には人が集まらず、淘汰(とうた)される運命が待つ。

 労働者も、企業組織から「必要だ!」と言ってもらえないと、横並びするだけでは給料が上がらない時代になる。私の経験から言えば、①まず「やれ!」と言われたことを一人前にやり遂げ、上司の信頼を得る②得意分野を積極的にアピールし「これを私に!」と示す自信を持つ③組織から「ぜひ、あの人に!」と言ってもらえる専門性を確立する─の三段跳びをオススメする。

 「現状肯定は退歩」であることを悟り、まずは自己啓発から始めよう。