海の波で発電 南港で実証実験成功 神戸のベンチャー 原発1基分も視野に

 再生可能エネルギーの導入が進む中、太陽光や風力発電に適した土地の不足が課題となっている。こうした中、神戸市のスタートアップ企業「イエローダック」が、波の動きを利用した「波力発電システム」の実証実験に成功し、注目を集めている。

アジア太平洋トレードセンター(ATC)の南港オズ岸壁に設置された実証機器
アジア太平洋トレードセンター(ATC)の南港オズ岸壁に設置された実証機器

 同社の波力発電システムは海に装置を浮かべ、波の力で発電機を回すシンプルな仕組み。天候や時間帯に左右されず発電できるのが強みだ。最大の特徴は「全方位変換」技術で、上下・前後・左右・傾きの動きまで電力に変えられる。急に水深が深くなる日本近海にも対応でき、特許出願中だという。中山代表は「スウェーデンにも波力発電はあるが、北欧は浅瀬が多く日本の深海域には向かない」と話す。
 昨年11月から今年3月にかけて大阪南港、富山、福岡の3拠点で実証実験を実施。天候や時間に左右されない安定した発電に成功した。今後は神戸、福岡、長崎での浮体式波力発電の実証を行い、自治体と協議を進めながら電力や通信会社などと海の再エネコンソーシアムを構築中だという。

行政書士から転身

 代表の中山繁生さんはもともと行政書士として遺言書作成を手掛けていた。東日本大震災の原発事故をきっかけに、太陽光発電の普及が本当に環境に良いのかと疑問を抱き、海の波で発電できないか可能性を探り、独学で研究を続けてきた。「失敗に失敗を重ねたが、理系でもないので技術に固執せず、趣味の延長のように研究を続けることができた」と話す。
 そんな中、研究を発表すべきと同社の山岡健人CPO(最高製品責任者)に指南され、福岡で開催されたピッチイベント「Startup Go! Go! 2022」に登壇し、NEDO(国立研究開発法人新エネルギー・産業技術総合開発機構)賞を受賞したことを契機に事業化に踏み切った。 

波の力を利用した発電のイメージ

EEZ設置も視野

 6月3日に成立した「改正再生可能エネルギー海域利用法」で、これまで領海内(沿岸から約22㌔㍍)に限られていた再エネ発電設備の設置海域が、沿岸から約370㌔㍍の排他的経済水域(EEZ)まで拡大。同社にとっては追い風だ。
 現在、実証モデルの開発段階にあり、量産モデルの開発・販売を行う計画だ。さらに2㌔四方の海域に設置することで原子力発電所1基分に匹敵する発電量を生み出す大型モデルの開発を進める予定。
 中山代表は「再生可能エネルギー市場は2030年に3400兆円規模に達すると予測されている。日本のエネルギーの一部を波力発電で支えたい」と意気込んでいる。

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