WBCで大谷から三振奪った男 サトリア投手、あの日の胸中を語る チェコ館でインタビュー

 チェコパビリオンの回廊の壁には多数の絵が描かれているが、その中に大谷選手を三振に取ったオンジェイ・サトリアさんの投球シーンの絵があるのをご存じだろうか?

 9月12日、同館を訪問していたサトリア投手にインタビューする機会を得たので早速、チェコパビリオンのルーフトップにあるカフェで話しを聞いてきた。

オンジェイ・サトリアさん

 2023年3月、ワールド・ベースボール・クラシック(WBC)で、プロ野球リーグを持たないチェコのナショナルチームが、〝最強メンバー〟をそろえた侍ジャパンと対戦したことを覚えている読者も多いだろう。
 その試合で、大谷翔平選手から三振を奪ったのがサトリア投手だ。今回、当時の心境や、その後の人生にどのような変化があったのかを本人に尋ねた。

Q)大谷選手と対戦した時の気持ちは?

 ーサトリアさん とても緊張していたし、間違いなく私の人生のハイライトな瞬間でした。世界一の野球選手と対戦するだけでも凄いことなので、ドキドキでした。

Q)その大谷選手から三振を奪った時の気持ちは?

 ーサトリアさん めちゃくちゃうれしかったですが、下を向いて感情を押し殺しました。なんといっても球場全体が彼を応援しているので、派手なガッツポーズとかは取れないと思いました。ただ私の中では超最高の気分で、頭の中は大爆発していました。最高の瞬間でした。

Q)対戦前に戦略はあったのか?

 ーサトリアさん 対戦前に、大谷選手が日本のチームとの試合で片膝をついてホームランを打ったのをみたので、何があっても絶対に外角低めだけに投げようと決めていました。そしてその通りに投げたら三振を取れました。

Q)帰国後、人生は大きく変わりましたか?

 ーサトリアさん 実は全く変わっていません。残念ながらチェコではサッカーやアイスホッケーがメジャースポーツで、野球はあまり人気がないので、大騒ぎになることはありませんでした。私自身、普通の人のままでいたかったので、敢えて目立とうとも思いませんでしたし、スターになりたいとも思っていませんでした。

Q)チェコでは、野球の練習と仕事をどうやりくりしていたのですか?

 ーサトリアさん 朝6時から午後2時まで8時間働いて、午後6時頃から数時間程度の練習をしています。練習は火曜から木曜の3日間で、金曜から日曜の3日間は試合で、月曜が休み、というスケジュールです。野球をすることで対価を受け取っているわけではないので、ある意味野球をすることは「趣味」ともいえます。その趣味で国を代表して世界最高の野球選手と対戦できるのだから贅沢な趣味かもしれません。

Q)なぜ野球を始めたんですか?

 ーサトリアさん 先ほども言ったように、チェコで人気のスポーツはサッカーとアイスホッケーで野球はマイナースポーツです。私が6歳の頃、隣町から、家族でオストラバ市へ引っ越したのですが、その自宅の隣に野球場があったんです。ある日、父親に「スポーツをしたいか?」と聞かれ、なんとなく肯定する返事をしたところ、翌日、隣の球場に連れて行かれて、そこで野球を始めました。やってみると楽しく、すぐに気に入ってプレーし始めました。特に上手な選手だったわけではないですし、最初は投手ではなく外野手でした。

Q)日本の野球と触れて、何か学ぶものはありましたか?

 ーサトリアさん 日本の野球は他の国とは違って緻密。投手はとてもコントロールがよく、内外角を投げわけて、変化球もカーブやスライダー、スプリットなどをうまく使いこなしていて、とても参考になりました。

Q)日本戦の後、誰か選手からアドバイスをもらったりしましたか?

 ーサトリアさん 特にはもらいませんでしたが、大谷選手が、「チェンジアップはとても良かったしコントロールも良かった」とコメントをくれたので、世界一の投手に褒められてとてもうれしかったです。

 サトリアさんは、フレンドリーで、陽気で、素晴らしい人だった。もっと色々と聞きたいことがあったのだが、横山英幸大阪市長との対面イベントがあるということで、時間切れになってしまった。

 日本戦で使用していたグローブを手にはめさせてくれたり、彼のプレーヤーカードにサインしてくれたり、と最後まで和気藹々(あいあい)とした雰囲気の中でのインタビューだった。

 来年のWBCにも出場した際には応援に行ってみたいものだ。

 ところで、なぜサトリアさんがチェコパビリオンにいたかというと、9月11と12日が彼が住んでいるオストラバ市にフォーカスした「オストラバ・デー」となっていて、市長を筆頭にした代表団の一員として来日していたからだ。

 パビリオン内では、2日間に渡って、同市の魅力を伝える観光情報や、人形劇の披露、工業都市から積極的にイノベーションを目指す都市へ変革していて、バイオメディカル分野など投資やビジネスをする環境が整っているということを紹介していた。

 その中でスポーツ親善大使のような立場で、サイン会を開催していたのだ。

 サトリア投手の絵が描かれた周辺には、日本の政治家や著名人がチェコパビリオンを訪れた際に残したサインが並んでいる。その数は訪問のたびに増えており、展示空間に新たな彩りを加えている。

タイトルとURLをコピーしました