北欧パビリオンで、9月4と5日にかけて、フェロー諸島デーが開催され、20近くのテーマで、短いプレゼンテーションやプロモーションが行われた。
フェロー諸島はデンマーク領で、北大西洋に浮かぶ18の島々から成り、その人口はわずか 5万5000人ほど。しかし、雄大な断崖絶壁、緑の大地、変化に富む気候が生み出す幻想的な景観は「地球上で最も魅力的な場所のひとつ」として世界の旅行者を惹きつけてきた。
過去には米誌「National Geographic Traveler」の調査で「世界で最も魅力的な島」に選出され、自然と文化を守りながら未来志向の社会を築く姿勢は、長年世界中の憧れの的となっている。
そんな魅力的なフェロー諸島を日本に紹介するために開催されたのが今回の「フェロー諸島デー」というイベント。
プログラムでは、アートと技術、ビジネスの交差点を提示する「Tonik」コンセプトの紹介をはじめ、大阪万博記念切手の発表、羊毛デザインや現代美術、音楽など独自文化を体感できるセッションが用意されていた。
また、漁業・航空・蒸留酒・海藻産業といった基幹産業に加え、e ガバナンス、デジタルインフラ、スマートグリッドによる「2030 年までに陸上100%再エネ達成」への挑戦、さらには潮流発電「Moon Energy」に至るまで、小さな島国から世界に発信される最先端の挑戦が披露された。

2日間に渡って行われていた中でその中の一部に参加してきたが、どれも魅力的だった。
自分の声で10秒以内にコメントを録音すると、他の人たちがコメントした言葉とともに音楽の一部として使用される試みがあったり、記念切手の展示やその切手のデザインを描いたアーティストのシグルン・グンナルスドッティル氏が来場していて、サイン会を開いた入り気軽に写真撮影に応じたりするシーンもあった。




筆者が来場した際に始まったのが、フェロー諸島でビジネスを展開する企業のプレゼンテーションだった。
彼らは、北欧パビリオンに参加するデンマークに属するフェロー諸島から来日して、プレゼンテーションを行ったのだが、フェロー諸島内で開催されたビジネスピッチコンテストで勝ち抜いた企業で、自然を大切にして、与えられた環境の中で、自然とともに持続可能なビジネスモデルを構築して、そこから生み出した製品を携えてきていた。
「フェロー諸島をボトルに詰めて」というテーマでプレゼンしたのはFaer Isles Distillery社のファウンダーのボギ・K・ムーリッツセン氏。

フェロー諸島に降る雨水を利用してジンやウォッカなどを製造している企業で、地下水を使わないのでミネラル分が含まれておらず、ピュアで雑味などがないアルコールに仕上がっている。



「TARI – フェロー諸島の海藻」というテーマでプレゼンしたのは、TARI社のディレクターのアグネス・モルス・モルテンセン氏。

フェロー諸島の何にも汚染されていない海水の中で日光を浴びて育った海藻を素材にして作った製品を紹介。大量生産するのではなく、高品質の製品を持続可能な環境で育てたい、と説明。試食してみたが、日本の海苔やワカメと限りなく近い味の海藻があり、すぐにでも日本市場で受け入れられそうなでき栄えだった。



Faer Isles Distillery社のウォッカにはTARI社の海藻の養分が含まれているため、滑らかで優しい口当たりになっているそうだ。
「グリーン海事技術」を紹介したGreensee社のヤークプ・ラムハウゲ氏は、食料が生産者の元を離れてサプライチェーンを経て最終消費者の元へ届くまでに約3分の1が無駄になったりゴミになってしまったりしている現場を変えるためのテクノロジーとシステムを紹介していた。

RFIDを使って全てのコンテナを世界中どこにいても管理できるようにするというもので、巨額のコスト削減と無駄の排除ができるという話だった。

「フェロー諸島の羊毛物語と現代ニットファッション」というテーマでプレゼンしたのは、 Shisa Brand社のデザイナーのシサル・K・クリスチャンセン氏。

フェロー諸島の羊は羊毛が長く、毛色が5色もあるため、製品にする際にわざわざ染めて色をつける必要がないので環境に優しい、と説明。


彼女の着ているニットも写真の服も、染めて色をつけた訳ではなく、白い羊毛と黒い羊毛を使っているだけなのだ。白と黒の間に段階の違うグレー系の色が3色存在しているという。
元々水夫が来ていたセーターのデザインに目をつけて、そのパターンをデザインに取り入れたところからフェロー諸島の羊毛製品が広がり出したのだ。

現在、同社を含めて複数の企業が同様の製品を生産していて、デザイン重視だったり、伝統的な作りを重視したり、とそれぞれに個性を出している。
写真やビデオでみただけだが、フェロー諸島はとても美しく、北海道近郊にある島というイメージを抱いた。自然が綺麗で、静かで平和でリラックスして過ごせそうな空気感を感じた。また、フェロー諸島の食材を使った料理のランチもフレッシュでおいしいものばかりだった。

また、フェロー諸島のことを説明していても、出てくる言葉は「持続可能性」「自然との融合」「環境保護」「無駄をなくす」などで、万博会場にいるとよく耳にする言葉であったことも興味深い点だった。