【わかるニュース】天安門以来の〝抗議デモ〟 中国で今、何が起きているのか?

政権批判は〝重罪〟のはずなのに…

 日本などの自由主義国では政権批判や反政府デモ、投票による政権交代は当たり前すぎる国民の権利。しかし、中国や北朝鮮などの専制国ではその願いは、命すら危ない重罪だ。そんな中国で先月末から北京、上海など2ケタの大都市でデモが起き「ゼロコロナ反対」「習近平退陣」などのスローガンが叫ばれた。習国家主席は、10月の中国共産党大会で結党以来初の総書記3選(1期5年で最長2期規定を今回改定)で盤石とみられたはず。中国で何が起きているのか?

コロナ 〝ロックダウン〟 日常崩壊

デモ隊・警官いたちごっこ

 きっかけは11月24日夜の新疆ウイグル地区ウルムチ市での高層マンション火災だった。消火作業と住民避難の遅れから10人が死亡したとされ、これを「ゼロコロナ政策によるロックダウンが原因」とのネット上の書き込みが広がり、あっという間に全土へ抗議活動が拡散した。

 デモ隊の声は最初「PCRはいらない」「ロックダウンを解除しろ」のコロナ政策批判からはじまり、次第に「自由がほしい」「独裁反対」とエスカレート、最後には「習近平退陣」「共産党退 陣」まで飛び出した。日本ではピンとこないが中国には「国家安全法」という厳しい法律があり、政府批判は「外国勢力と結託して政府転覆を図っ た」とされる重罪。デモや集会は日本を含めどこの国でも警察への届けと許可がいるが、中国では反政府的な色合いの催しはまず許可されないから、欧米や日本で驚いた無許可突発行動という訳だ。

 デモ集会で参加者は白い紙を頭上に掲げ、わざと外国の大使館や報道機関が多い地域を狙って実施。反対スローガンを紙に書けば当局撮影の映像に残り後日逮捕される危険性を避けるためで、声だけで叫ぶなら本人特定が極めて困難。外国報道陣による取材は、映像や音声が世界に発信される上、当局が手荒な事ができない一石二鳥を狙った。こうしたデモや集会は中国国内では一切報道されず参加者の思惑通りといえる。

 中国は、共産党一党独裁で国民の直接選挙がないから政権交代がない支配体制。それでも14億人の国民がここまで付いてきたのはまず「飢えさせない」を実現、改革開放政策で 「政治体制は共産党独裁でも、経済は自由競争」を実現したから。「共産党の言う事を聞いていれば豊かになれる」を実践した結果。ところがこの3年間のコロナ禍で、習政権は世界唯一ともいえるロックダウンを基本とした「ゼロコロナ」政策を遂行。確かに欧米諸国に比べ感染者・死者は少ないが、自慢の経済は痛みっぱなし、雇用を含めた国民生活は破綻し、我慢も限界に達した行動といえる。

 当然、当局も黙ってはいない。検閲対象で「敏感詞」と呼ばれる言葉は、ネットポリスが次々削除。隠語を駆使し連帯を広げる市民といたちごっこ。駅や電車内、街頭で警官が市民のスマホを強制検閲し反対派賛同の兆候があると連行。映像とスマホでの行動捕捉でデモ参加した証拠が見つかると、深夜でも自宅まで押しかけ聴取と徹底取り締り。市街地で人が集まりそうなポイントは警官と車両を出し封鎖にやっき。デモに対する当局公式対応は「敵対勢力の浸透・破壊活動に打撃を与える」との名目で、「社会秩序を乱す違法な犯罪行為は断固取り締まる」と表明。この結果、今月に入ってからの新たな映像発信は影を潜めている。

上から下まで習主席への忖度まん延

 習主席は10月の党大会で「コロナウイルスまん延阻止は人民戦争」と位置付け「ゼロコロナ政策」の成功を大々的に成果としてアピールした。過去10年の間に、批判派や後継候補は退けられ習主席の周りはイエスマンの忖度(そんたく)ばかり。

 当局にとっては1998年の「天安門事件」の際の学生蜂起は「表現の自由」を求めていたので徹底的に抑え込んだ。その後は、国民の貧富の差が広がり画一的に党が批判される材料が少なく安泰だったが、コロナ「ロックダウン」は余りに長過ぎて、国民こぞって反対の声が拡大してきただけに対応が難しい。現代の学生は「天安門」を知らないから、かえって怖いもの知らずだ。

 こういう時、中国には便利な言葉がある。『皇帝のお慈悲』だ。何かの政策に行き詰まった時、トップが鶴の一声で「私に今、初めて庶民の声が届き気持ちはよく分った。誤った政策を指揮した官僚を処分し、政策を変更しよう」と一方的に宣言するやり方だ。つまり 「悪いのは部下。私には責任がない」として政策変更を図る。結果的に習主席はずっと安泰で、部下が責任を取らされ表舞台から消えていく。

 それでもダメなら、最後は「内政失敗を、外敵に求める」という外交手段の伝統的手法がある。国民の不満を外国のせいにして目をそらすのだ。中国にとっては台湾問題がそれに当たり、行き詰まりによる不穏な空気感を台湾市民が察知し、地方選で親中派の野党・国民党を躍進させガス抜きしたとも読める。

シレッと政策転換で逃げ切りへ

 肝心の中国国内のコロナ患者だが、現在過去最多の1日4万人前後まで増えている。日本は人口が10分の1で、12月時点の感染者同13万人程度だから中国は非常に少ない。死者も日本の計5万人、米国100万人に対し中国は公称5000人と桁違いで「やはりロックダウンは有効」との主張は当たっているが、経済崩壊が半端ではない副反応といえる。

 中国が「ゼロコロナ」に固執する理由は、習主席のメンツ以外に、高齢者のワクチン接種遅れと一般医療機関のぜい弱さがある。さらに極端な上意下達体制で、地方政府がしゃくし定規でPCR検査やロックダウンを強く推し進め過ぎる弊害が指摘されている。

 こうした状況下で既に習主席は 「今のオミクロン株は毒性が低い」と言い出し、コロナ対策総責任者の孫春蘭副首相は早速「防疫体制を更に適正化する条件が整った」と反応、政策転換への方向性を示唆した。地方政府は①隔離期間短縮②リスク地域指定簡素化③濃厚接触者特定取りやめ④学校や工場の長期間閉鎖禁止などをすぐさま実行し始めている。

 中国当局最大の誤算は「コロナは強力ロックダウンで短期間に封じ込め る」と考えた事で「まさか3年もかかるとは!」が本音。表向きは習近平主席の「ロックダウン」をどこまでも肯定し間違いは一切認めず、地方政府は実態として規制を徐々に緩和して人々の不満をそらす。かくて〝トカゲのしっぽ切り〟による独裁国家・中国は明日も安泰なのだ。