【外から見た日本】なぜマリファナが合法化されるのか

Spyce Media LLC 代表 岡野 健将

Spyce Media LLC 代表 岡野健将氏

私が初めてニューヨークに行った頃、マンハッタンの42丁目の6番街と7番街の間の1ブロックには多くのジャンキー(麻薬中毒者)がおり、日本人観光客に対して「ハッパ!」と声をかけてそれを買わそうとしていた。ハッパとはマリファナの事で、当時日本人がそう呼んでいたのをまねていた。「ニューヨークに来たんだからハッパを吸ってみた い」という好奇心で購入していた。

 アメリカ在住の日本人でもマリファナを愛用する人はそれなりにいた。アメリカ人に至っては2人に1人は吸った事があると言っていた。目の前で吸っているのを見ることもあれば、ニオイで「ああ、吸ってるな」とわかる人もいた。

 日本で高校生が粋がってタバコを吸ってみた、という様な感覚でティーンエイジャーの頃にマリファナに手を出している感じだろうか。アメリカではタバコを購入する際にIDを提示し、年齢が18歳以上である事を証明しなければ購入出来ないが、マリファナであれば友達に声をかければ誰かが持っているか、ディーラーを紹介してくれるので至って簡単に手に入る。

 ここで覚えたマリファナを成人してからも吸い続ける人はたくさんいる。友人同士だけでなく、家族や親子で楽しんでいるケースもある。マリファナはそれ程までにアメリカ社会に蔓延していて、それを規制して根絶やしにすることはほぼ不可能。今でも連邦法で違法薬物とされていても、取り締まりが追いつかない程で、多くの人がそれ程悪い事をしている、という意識すら持っていない。

 ある調査結果によると、アメリカでの市場規模は2021年に250億ドル(約3・6兆円)に達し、今後利用を合法化する州が増えれば2030年には同市場が日本のたばこ産業の売上高の3倍強の720億ドル、10兆円以上の市場規模になるという。大部分が違法取引のため、これを合法化して課税する事で税収が増えるという考えも合法化の流れを後押ししている。またこの市場規模で 何十万人という雇用も産み出しており、彼らの生活はマリファナビジネスに大きく依存しているという現実もある。

 連邦法ではまだ違法だが、38州で医療用が、嗜好用は18州とワシントンDCで合法化されていて、マリファナ市場は2020年から40%という大幅増となっていて、嗜好用では有名ブランドなども確立されているし、多種多様な大麻成分を含む製品が売買されている。現在4700万人と言われているマリファナ利用者が8年後には7100万人にもなり、マリファナを合法化する州が今後も増える事を考えればこの数字も増加するだろう。

 日本では産業用大麻の生産を緩和する法整備が行われているが、アメリカで使用が増えているのは産業用ではなく、タバコと同じく嗜好品としての吸引用なので、同じ大麻と言う言葉だが内容は全く違う。

 新型コロナウイルス感染拡大時に、カリフォルニア州など多くの州で、マリファナが食品や医薬品と同じように「生活必需品」として認められたことでマリファナを販売する店舗は営業制限を受けなかったので、店頭販売に加えて電話やネットで注文を受け、配達するサービスで売上を伸ばした。

 この様に、あまりに生活に密着し過ぎて完全に取り締まれない、違法・合法を合わせた市場規模が巨大、大きな雇用の創出、合法化する事で税収増加、違法取引減少、などの要因によって、アメリカではマリファナの合法化が進んでいるのだ。読者の皆さんにとっては日本とはあまりに違う社会構造や発想を理解するのは難しいかもしれないがこれがアメリカの現実なのだ。

【プロフィル】 State University of New York @Binghamton卒業。経営学専攻。ニューヨーク市でメディア業界に就職。その後現地にて起業。「世界まるみえ」や「情熱大陸」、「ブロードキャスター」、「全米オープンテニス中継」などの番組製作に携わる。帰国後、Discovery ChannelやCNA等のアジアの放送局と番組製作。経産省や大阪市等でセミナー講師を担当。文化庁や観光庁のクールジャパン系プロジェクトでもプロデューサーとして活動。