【わかるニュース】リーマンショック再来の予兆か? シリコン銀破綻 金融不安が世界に飛び火

リーマンショック再来

 日本中が大谷翔平やヌートバーの活躍でWBC(ワールド・ベースボール・クラシック)の放送にかじりついている裏で、世界では銀行の破綻や経営危機が相次いでいる。2008年に世界を覆った「リーマン・ショック」の悪夢がよみがえる人も多い。恐慌前の予兆か?それともこのまま収まるのか? 難しい金融の話をできるだけわかりやすくかみ砕きながら、現在の不気味な静けさをひも解いてみよう。

世界が震撼した1週間だった

 週末の3月10日。米西海岸のサンフランシスコ州にあるシリコンバレー銀行(以下シリコン銀)が突如、経営破綻した。週明けの12日、今度は約4千㌔離れた東海岸のニューヨークで、シグネチャー(署名)銀行が業務停止に陥る。米国の財務省とFRB(米中央銀行理事会、日本でいう日銀)は事態を沈静化させるため直ちに預金者保護に動いた。

 しかし、一息付いたのも束の間、今度は欧州のクレディ・スイスの経営不安が発覚。世界中で金融機関の関連株が売られ、投資家はより安全な資金の移動先を求めて金価格が急騰。いつ、何があっても不思議でない状況が続いている。




欧米の銀行危機連鎖は何の前ぶれ? 
選択肢の少ない日本はビクビク!?

焦げ付き無いのに破綻

 まずは、シリコンバレー銀行(以下シリコン銀)が破綻した背景を見ていく。

 銀行名から分かるように、シリコンバレーといえばアップルやグーグルを生んだベンチャー企業の集積地。つまり、預金主の多くは同地の若い企業だ。新事業は可能性と危険性の間にあるが、若い企業が「融資を受けやすい銀行」として貴重な存在だった。

 しかし、今回のケースは金融破綻に付きものの融資先の焦げ付き、いわゆるベンチャー企業の経営不安があったわけではない。「それなのに、なぜ急に銀行自体が破綻したのか?」がポイントだ。

 順番にわかりやすく説明しよう。まず全体的な話として、日本の日銀に当たる米FRBがインフレ退治のために金利をどんどん引き上げた。金利を上げてお金を借りにくくすれば需要が抑えられ、物価が安定する方向に導けるからだ。

 ところが、金利が上がると、過去の低金利時代の国債は値打ちが下がる。例えば、同じ30年満期の国債でも、金利1%で保有している過去の国債より、3%で保有する今の国債の利回りの方が大きい。つまり、同行は国債を大量に持っていたため、国債の価値が金利分割引されてしまえば保有資産の減少に繋がる。

 加えて、金利の上昇は、需要を抑えることになり景気後退を招く予感もあったことで、同行の先行きに不安を感じた預金者が、一斉に預金を引き出した。一気に6兆円近い預金を失ったシリコン銀はこうして破綻したのだ。

 ベンチャー企業は創設して日が浅いケースが多く、手持ちの現金が少ない分、「もし預金が凍結されたら、企業活動が急停止する」という危機感が強く、様子見する余裕はない。

全米に金融不安拡大

 次いで事業停止した米東海岸のシグネチャー銀行。破綻の大きさは過去3番目だ。ちなみにトップはリーマン・ショックの時のワシントン・ミューチアル(相互)銀行で、2番目が先のシリコン銀。
 シグネチャーは01年創立の比較的新しい銀行で、シリコン銀の信用不安が広がったことと、暗号資産関連の企業向け融資が多かったことを不安視されたのが原因。こちらも直接的な焦げ付きはない。

 米株式市場の動揺は相当なもので、中堅地銀ファースト・リパブリック(第一共和)銀行は株価が60%も暴落し、大手銀11行が4兆円の預金を支援して支えた。金融機関の株価下落は一時、大手銀シティグループが7・5%、地銀USバンコープで10%、地銀ウエスタン・アライアンスで47・1%とそれぞれ下落した。

米政府が火消しに懸命

 この金融不安の連鎖に米政府は素早く動いた。財務省が「シリコン銀の顧客の預金は完全に保護する」と声明。破綻後の同銀を管理するFDIC(米連邦預金保険公社)職員が支店まで出向き、心配して窓口に並ぶ預金者に「通常通り引き出しに応じる」と声掛けする徹底ぶり。バイデン大統領は「迅速な行政措置で、米銀行システムは心配ない」と胸を張り、3大原則として〝預金者は守る、しかし銀行経営者と投資家は保護しない〟という姿勢を明確に示した。

 日米は同じように預金保護制度がある。米国は1口座あたり3300万円で、日本は1金融機関あたり1000万円だ。つまり、その額を超えるお金は破綻したときに保証されないルールだが、米財務省とFRBはルールを覆してまで全額保護にかじを切った。米国は、民業に行政機関が介入することを嫌うだけに、極めて異例な措置といえる。
欧州にも金融不安拡大か?

 次に危機が飛び火したのが欧州の金融大国スイス。クレディ・スイス(CS)の経営不安報道だ。筆頭株主のサウジ国立銀行が追加支援を拒否し、株価が一気に20%以上も大暴落した。スイスの政府と中央銀行が7兆円超を支援し、合併救済する方向で動いている。CSは取引先の投資会社事業の失敗と、高所得層相手の事業不振だから、従来型の焦げ付きに近い。

 欧州は主要国がEU(欧州連合)で通貨をユーロに統一しているので、ECB(欧州中央銀行)が金利を管理している。米国と同じくインフレが続く欧州では、CSショックで各国の株価暴落が続く。ラガルドECB総裁は金融不安による株価暴落の恐れを承知で、0・5%の大幅利上げに踏み切り、米国との対応の差を見せつけた。

「平成金融危機」の悪夢再来?

 このように金利が上がるとインフレは収まるが、国債の価値が低下するので、国債を抱える金融機関は苦しくなる。しかし、低金利状態だとインフレが続き、国民生活が立ち行かなくなる。

 一方で、日本はアベノミクスにより10年間も低金利政策を続けている。それなのに今回の金融不安のある欧米に引っ張られ、金融関連を中心に日本の株価が下落してしまった。

 松野官房長官は「日本の金融システム安定に影響を及ぼす可能性は少ない」と火消しに懸命だ。先週末には、財務省と日銀、金融庁が緊急の会合を開き、岸田総理が「日本の金融システムは総じて安定」と表明して市場の動揺を抑えた。

 より安全な投資先を求めて金価格は一時1㌘9000円を突破するなど、投資家たちは株や債券の買い付けに慎重になっている。

 日本の金融危機で思い出されるのは1997年の「平成金融危機」。北海道拓殖銀行、日本興業銀行、日本長期信用銀行、日本債権信用銀行などがバタバタ倒れた。その後のリーマン・ショックを経て、アベノミクスの金融緩和で日本の優良株をどんどん日銀が買い付けて株価を上げ、見せかけの好況を演出した。

 この間、日本の銀行筋は大規模な金融緩和のせいで、本来の収益の柱だった貸し付け利息収入では経営が成り立たなくなった。このため、海外の債券市場などで高利回り商品を大量に購入し、収益の柱に据える危険な状態に陥った。

 つまり、極めてぜい弱な経営体質で、仮に金融恐慌が起きると打てる手は限られる。

 日銀は4月に植田総裁が誕生し、10年ぶりにトップが交代する。欧米の金融動揺を横目に、新総裁はアベノミクス〝負の遺産〟を抱え神経質な舵取りを迫られそうだ。