【わかるニュース】意外なほど知られていない岸田政権「骨太改革」の中身 7/10投開票「争点なき選挙」と言われる参院選

 3年に1度行われる参議院選挙の真っ最中だ。7月10日の投開票で、当面の国会勢力図が確定する。次の参院選は3年後の2025年夏。昨年解散総選挙があった衆院議員の任期も同じ年の10月。ちょうど大阪・関西万博の年(4月13日~10月13日)で、それまで国政選挙は当分なさそうだ。

 「争点なき選挙」と言われているが、たたき台となるのは政権政党・自民党の選挙公約の元となっている岸田政権の「骨太の方針」。小泉政権の時に始まったが、意外なほど知られていないその内容をチェックしてみよう。

岸田政権の骨太の3本柱
 ①「防衛力強化」
 ②「財政再建明示せず」
 ③「貯蓄から投資へ」

参院選真っ最中 チェックすべきはコレ!今後、3年間は国政選挙なし!?

ウクライナ侵攻で国内影薄く


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 自民党の選挙公約の表紙にある「決断と実行」は、亡き田中角栄首相が使ったフレーズだ。内容は「4つの守る、3つの創(つく)る」からなっている。4つの守るは、①外交・安保で日本を─②物価高から国民生活・産業を─③防災で生命・財産を─④コロナ対策と経済活動の両立で国民生活を─。一方、3つの創るは①新しい資本主義で強い経済を─②デジタルと農水産で活力ある地方を─③憲法改正で国のかたちを─だ。

 ロシアがウクライナに侵攻してからの政府与党は、「戦争による避けられない物価高騰」を強調しており、以前はコロナ一辺倒だった有権者の関心も、国内問題への関心が薄れているような状況だ。

 では、岸田政権「骨太の方 針」とは何だろう? いろいろ書かれているが、ポイントは主に3つ。「防衛力強化」「財政再建明示せず」「貯蓄から投資へ」だ。今後の日本にとって重要なヒト・科学技術・脱炭素デジタル化への投資には触れず、日本最大の弱点の少子高齢化への抜本的対策もない。

 骨太の主な3つを具体的に見ていこう。

防衛力強化本気の日米韓協力時代へ

 自民党タカ派はウクライナの事態を受けて、「21世紀は〝世界経済の連鎖性からもう地球上に戦争は起きない〟と言われていたけど、ほら! 独裁専制国家は何をしでかすか分からないでしょ!」と、もともと防衛力強化に熱心な安倍元首相が中心となって骨太原案に横やりを入れ、「もっと具体的に踏み込め!」と圧力。岸田首相はNATO諸国の兵力増強を手本に、対GDP比2%以上(現在は1%上限なので22年度当初予算は5・4兆円。2%なら11兆円)と「5年以内実現」を明記。「台湾」の固有名詞やこれまでタブーとされてきた 「戦い方」という言葉も登場した。ウクライナ侵攻ですべての常識が一気に覆ったのだ。

 国防の基本は日米安保だが、日本が攻撃されたら基地を置く米軍が無条件で助けてくれる訳ではない。米国は過去の朝鮮戦争やベトナム戦争の反省から武力参戦に連邦議会の承認が必要なので、「すぐ簡単に動いてくれる」と思い込まない方が賢明だ。逆に国内の米軍基地が他国から攻撃されたら「日本国土への攻撃」という事になり、日本は自衛権を行使することになる。

 国内米軍基地は、日本防衛だけでなくフィリピンより北の台湾、朝鮮半島も警戒範囲。仮にこれらの地域へ米軍が軍事出動すると、日本は集団的自衛権を行使して協力することになる。

 また今も盛んにミサイルを日本海に打ち上げる北朝鮮に対しては、日米韓3国の間で軍事情報包括保護協定(GSOMIA)を結んでおり、協力して衛星やレーダーでミサイル航跡を捕捉。仮に日本国土着弾の危険性を察知すれば海上の自衛隊イージス鑑、地上の自衛隊PAC3の2段構えのミサイルで撃ち落とす。

 現在、日本の領海・領空を侵犯している国は、7割が中国、2割がロシア。両国艦隊が船団を組んで日本の公海海峡を通過したこともある。特に尖閣諸島周辺は中国の侵犯が相次いでおり、海上の安全確保を一義的に担っている海上保安庁は、艦艇の配置を東シナ海に大幅シフトしている。バイデン米大統領は「台湾有事」発生に対する関与を明言。米国内法に「台湾関係法」があり、有事に台湾への武器供与が法的にも可能だ。

 一方、北方領土4島で日本と利害が反するロシアは、現在ウクライナ侵攻で手一杯。極東での動きは鈍い。

財政再建明記せずアベノミクス否定避ける

 国と地方の借金の総額は約1200兆円。22年度の当初予算107兆円の10倍以上だ。今後も増え続けるが、安倍元首相は「(お札を刷る)日銀は、政府の子会社。心配ない」と国債の増発に積極的。麻生前財相らが掲げる25年度に収支バランスで黒字化する目標達成は諦めた訳ではないが、岸田首相が棚上げにした格好だ。

 アベノミクスは「円安・株高」を基本に、企業に対して超低金利で融資を行い、資金的にジャブジャブにする金融緩和で好景気を演出する内容。この間、日本の物価と賃金は一貫して低水準で推移したが、国民はあまり痛みを感じなかった。

 現在円安で是正対策が叫ばれているが、黒田日銀総裁は知らん顔。自身が始めた「異次元の金融緩和」を否定できないこともあるが、仮に長期金利が1%上昇したら2年後の国債利払いは年間3・7兆円も増えるから、動くに動けないのだ。

 安倍元総理の周辺は、米民主党左派が主張するMMT(現代貨幣理論「自国通貨建てならどこまでも国債発行できる」という考え方)を掲げさらなる積極財政を主張している。


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貯蓄から投資へ格差是正の具体策は?

 骨太では①国民の金融資産の活用②個人投資で所得増、が中心。岸田総理はG7で「魅力的な投資環境を実施し世界のマネーを呼び込む」と表明したが、日本企業は先行き不安で内部留保が増え、今でも十分潤っている。単に新たな投資先がないだけだから、あまり意味はない。

 では個人資産の状況はどうか。2023兆円あるが、現金・預貯金が54%、保険・年金など27%、株式・信託15%で、最も重視していることとして「自由な出し入れと元本安全」を上げているから投資への回帰はほど遠い。

 そこで高校に投資の授業を取り入れ、大学生が積み立てNISA(少額投資非課税制度)を始めることが可能になるなど普及にやっき。ネット上では、うまいもうけ話が「投資」としてものすごい数で紹介されているが、ほとんどがインチキだから悩ましい。生活に余裕のない人へ〝自己責任〟に基づくギャンブル的投資を勧めるのは適切な政策とはいえない。

 少子高齢化の日本で本当に大切な事は、持続可能な社会形成のために環境やデジタルなど次世代部門への投資と開発。そのためには米国式の株主利益第一の企業運営姿勢から、経営者・社員・顧客が幸せになれる企業風土作りが必要だ。

岸田総理の本音探る

 骨太と公約を読んでも岸田総理の本音はなかなか読み取れない。物価高も生活ひっ迫も「ロシアのウクライナ侵攻のせい」の一過性。コロナ対策に関しては「もう再拡大はない」と判断し、実は縮小を準備しているが、すべては選挙後まで慎重に先送り。

 岸田総理の出身派閥「宏池会」は、池田勇人、大平正芳、宮沢喜一の財務省出身総理を輩出したリベラル派本流で、伝統的に「財政健全化」意識が高い。岸田総理の総裁選立候補の際の「新しい資本主義」は中間層拡大に向けて富の分配機能強化と方針が明確だった。具体的には①株取引への課税強化②企業の自社株買い規制③株主中心主義のからの脱却─と海外のハゲタカファンドに敢然と立ち向かう姿勢を示していた。

 参院選終了後は岸田政権が政局に襲われ、揺らぐ危険性は大きく減る。今回の骨太は、最大派閥「清和会」を率いる安倍元総理に、とりあえず最大限妥協した内容になっているが、3年間で少しずつ岸田自身の信念に基づく政策を打ち出してくるはずだ。