泊まれる商店街とは!? 大学生がレポート

以前のお店の看板をそのまま残したホテルフロント入口

 かつて「街の顔」であった商店街は、大型商業施設拡大によるワン・ストップ・ショッピングの流れと、店舗後継者不足などにより次第に衰退。都市の活性化と再開発にとって大きなテーマとなるようになった。その問題を解決する取り組みの一つとして〝商店街に泊まれるホテル〟が誕生した。東大阪市の布施商店街「SEKAI HOTEL Fuse」は最も成功した例の一つだ。

 ホテル運営の「SEKAI HOTEL」は、全国各地で商店街の空いた住宅や店舗を、ホテルのフロントや客室として転用。以前のお店の看板をそのまま残したリノベーションを行って使っている。布施の宿泊客は「SEKAI PASS」を首からぶら下げ商店街を歩き様々な店で提示することで、もてなし体験を受けられる。風呂は昔ながらのまきとおがくずで沸かした公衆浴場「戎湯」で入場料・ソープ類が無料提供され、朝食会場の「池田屋珈琲」ではふわふわミックスサンドイッチにサラダとデザートが付いたモーニングが無料で。夕食用食べ歩きの店や居酒屋、さらにたこ焼きや和菓子の手作り体験をしたりと、レトロな日常に飛び込む感触だ。

商店街にある公衆浴場「戎湯」

 このホテルを作るに際し商店街の店主らから「なぜ布施?」と疑問の声が上がった。確かに最寄りの近鉄布施駅から電車10分でなんばターミナルに着く便利さはあるが、周辺に観光地などがある訳ではない。店主らは同社の「商店街の日常を訪問者に楽しんでもらいたい」という発想に賛同し、現在では内外の宿泊客に愛されるホテルとして高い稼働率を誇っている。「SEKAI PASS」取り扱いの店舗経営者や従業員は、初めての来訪者とまるで家族のように気さくに接するように心がけているから、サービスや物品を愛情込めて提供し利用者の満足度も高い。

 だが、どこの地でも成功するとは限らない。以前は同じ大阪の西九条の商店街でホテルを展開していたが、近くにテーマパーク「ユニバーサル・スタジオ・ジャパン」があり、それを目当てに訪れる客が多くコンセプトの「商店街を楽しむ」という想いが十分に伝わらず、現在は閉業してしまった。

 布施の「SEKAI HOTEL」の累計空き家利用軒数は20件で、昨年の「SEKAI PASS」利用者数4268人。年間宿泊者数は5438人で、営業日1日平均約26人の計算。開業した2017年と比較すると17倍以上に伸びている。

 ニーズに合わなくなった業種が廃業や転職を迫られるのは自由経済の需要と供給の世界では当然とされる。しかし長年培われたノウハウを生かしてレトロな感覚が、インバウンド客や若者に新鮮な感動を呼ぶ場合もある。現に観光地ではない布施駅前という市街地に、これだけの人がわざわざ足を運ぶきっかけとなったこのホテルは、商店街を中心とした旧来の街の活気を取り戻す解決方法も一つを示している。(大阪国際大学/中瑛己、大澤穂乃花、松永彩香)

※当記事は、大阪国際大学と週刊大阪日日新聞が協働し、大学生が新聞記者の仕事を実践する「PBL演習Ⅲ」の授業で完成した記事。