安倍派を中心とした自民党裏金問題に端を発した「政治資金規正法」改正案の国会審議。6月23日の会期末を前に、与党の自民・公明と維新の賛成で可決すれば一段落となる見通しだ。
通常国会は内閣が延長することもできるが、今は自公政権の命運をゆるがせかねない東京都知事選の真っ最中。さらに9月には岸田総理の任期となる自民党総裁選も控えている。党内の大勢は「早く国会を閉じて!」の大合唱だ。
約半年にわたって攻防が繰り広げられた一連の政治資金問題。今、何が起きているのかをわかりやすく解説するとともに、そもそもなぜ政治にはこんなにお金が必要なのかという根っこの話までひも解いてみよう。
政治家は〝御用聞き〟で忙しい?
裏金問題「すぐ忘れる」とナメられる有権者
「検討=やらない」は政界の常識
「政治資金規正法」をどのように変えようとしているのか。表に改正案の主な中身と、それに対する私の見解を加えたのでチェックしてみてほしい。
結論を言えば、これだけ中身のないことを決めるのに自民党内は大もめ。よほどお金の流れを外部に知られたくないらしい。
世論調査によると国民の7割は今回の改正案を評価していない。「零細事業者いじめのインボイス制度(フリーランスなどへの消費税課税強化策)はすぐやるのに、政治家は領収書すら公開しないの?」「10年後に領収書公開とあるが、所得税法などの時効が過ぎた後では意味ない!」と裏金問題への怒りは収まらない。
永田町の常識は世間の非常識
法改正案でもめたのは、岸田総理が自分の政権維持を最優先して党内での協議をすっ飛ばしたから。9月の総裁選で再選されるには、党内融和より公明との連立継続が絶対条件。維新も味方につければなお心強い。
うるさい麻生副総裁や茂木幹事長の了承も取り付けず、独断で進めたのは公明や維新の要求を隠れみのにした中央突破。他党や世論を建前にして党内を抑え込む戦術は、裏金問題の党内処分でも発揮。岸田総理自身と距離を置く安倍派や二階派を一気に派閥解散まで追い込んだ。
自身の岸田派も同時期に解散することで〝派閥至上主義〟の麻生副総裁も揺さぶる。さらに、次世代トップをうかがう世耕・前参院幹事長や西村・前経産相らの党内処分で追い落としにも成功。現在のトップである総理自身は一切責任を取っていない。
総理のもくろみを想像すると、「党内での反発にめげず、政治資金規正法改正をやり遂げ、同時期に所得減税も実施して一気に支持率を回復。そのタイミングで衆議院を解散して勝利し、秋の総裁選で再選される」といった流れの青写真を描いていたはずが、結局は世論も党内も支持が広がらなかった。その理由は今回の改正案が評価されていないだけでなく、今春の大企業を中心とした賃上げラッシュでも国民の生活実感が改善せず、子育て支援策もパッとしない。
総理は野党からの追及に、憲法21条〝集会及び結社の自由〟をタテにして「政治活動の自由」を強調。しかし、この21条は〝戦前の国家権力による政治的弾 圧〟を戒めるのが趣旨。政権側が「自分勝手に何でもできる」ことを担保するものではない。
地方の自民党組織から「もう岸田では総選挙は乗り切れない」との訴えが相次いでいるが、過去の党内抗争は例外なく支持率低下を招いているだけに党内有力者も簡単には実力行使に踏み切れないでいる。
以上が現在、永田町で起きていることを時系列でわかりやすく説明したものだが、お次はもっと根源の部分「政治にはなぜ金がかかるのか?」を考えていこう。
「冠婚葬祭」で支持者獲得
なぜ政治に金が掛かる?1988年に発覚したリクルート事件がきっかけになり、現在の小選挙区制が導入された。それまでは中選挙区制といって、一つの選挙区から複数が当選する制度だった。このため自民党の派閥争いが過熱。派閥を大きくするためには、息のかかった議員を増やす必要がある。このため、多額のお金を費やす金権政治が常態化していた。そこで一つの選挙区から1人だけ当選する小選挙区制にすることで、金権政治を封じようとしたわけだ。
ところが小選挙区になると、選挙区内の支持者に対するきめ細かなサービスが求められるようになり、冠婚葬祭のあいさつに秘書が日夜飛び回る事態に。
国会議員の公設秘書3人の給与は国費から出るが、私設秘書の給与と事務所の経費は自腹。これだけで年に数千万円にのぼる。例えば、約20万世帯の選挙区で戦う議員なら、全戸に活動報告のチラシを配ると、印刷代とポスティング代で1回が約300万円。解散総選挙が近づくと、選挙区内の世論を調査し、情勢分析が必要になるが、これにも1回が数百万円規模の出費。選挙が近づけば、地方議員に活動資金を再配分する陣中見舞いも必要になる。
一方で収入はといえば、月給に当たる歳費が月129万4000円、ボーナスが年2回で合計638万円。旧文書交通費が月100万円、立法事務費が65万円。これに所属政党と派閥から政党交付金と政策活動費などが入るが、当選回数で金額が決められるのではなく、党の幹部のさじ加減一つだ。二階・元幹事長は5年間の在任中に50億円を受け取ってばらまいたが、渡し先は非公表。「党勢拡大のために使った」と言うのみだ。
企業・団体から政党に対する政治献金は90年代の改革で「5年後に見直す」と検討されたがうやむやになったまま。代替に位置付けされた税金からの政党助成金と二重取り状態にある。
ある自民党議員は「政治資金パーティーは貴重な収入源。派閥を含む党内上下関係には〝金とポストの再配分〟という見返りがあるから逃れられない」と割り切っているそうだ。
「政治団体」として届け出れば何でも非課税で、金の出し入れが出来るのが政界の常識。しかし、金を出す側の経済界は会社法に基づく収支の開示と株主に対する説明責任が求められ、政治家ほど勝手な金銭処理はできない。対策として政界では「EU内の独仏や韓国のように政党法を作ってはどうか?」という声がある。
現行では公職選挙法が適用されない党首選挙に現金が飛び交うのは当たり前、もとが税金の政党助成金の使い道すらはっきりしない。これが日本国を動かしている公党のやり方だ。
今どきのIT技術なら資金の出入りなんて、データベース化して公開し、検索閲覧できるようにすることなんて簡単。しかし自民党の動きは鈍い。
今回のような不祥事を起こした公党には、早急に第三者機関による「政党助成金減額」など有権者が目に見える形でのペナルティーが必要だ。私学や医療機関が不祥事を起こすと、国の省庁は平気で助成金や補助金をカットするのだから。
「政治資金規正法」改正案の主な中身と畑山の見解
- 「政治資金パーティー」券の購入者名の公開を、現行の「1回20万円超」から「同5万円超」に。
政治家個人への政治献金は、団体・企業や外国人からは禁止されているが、パーティー券の購入は野放しになっている。1枚2万円が相場なので、これまでは10枚までが非公表でよかったが、今後は2枚までになる。付則で「同一者からの上限額を検討」としているが具体性はない。 - 党から議員個人に配られる「政策活動費」。これまで使い道は公開されていなかったが、今後はおおまかな項目ごとに年月と共に記載する。
付則で「第三者委を設置し監査のあり方を検討。年間上限額を決め、領収書を10年後に公開」とある。しかし、三者委をいつ設置するのかは明示されていないから具体性はない。領収書を「10年後に公開」とあるが、個人情報や企業秘密をタテにして文書の黒塗りもあり得る? - 政党に対する「企業・団体献金」には一切触れず(つまり継続)。
- その他に、会計責任者が〝収支報告 書〟を作成するときに、議員が「確認した!」という〝確認書〟の添付を義務付ける。ただし、内容に不備があっても議員がそれに「気付かなかった」らおとがめなし。〝収支報告書〟はこれまで官報に掲載され、過去の分も自由に閲覧できたが廃止に。保存期間3年に限定(さかのぼってのチェックを制限)。
政治家が〝選挙区政党支部〟へ寄付する形での資金譲渡で税控除を受けることの禁止を検討(時期など具体性なし)。 - 「全体として」3年後をメドに制度を見直し(付則の「検討」事項で、チェック時期を含め具体性なし)。