子どもの「聞き取り困難症」 大公大研究グループが〝診断の手引き〟公開

耳ーイメージ

 「聞こえる」のに「聞き取れない」など、聞こえた音声を理解することが困難な「聞き取り困難症」(LiD=Listening Difficulties)。大阪公立大大学院医学研究科研究グループが6~18歳の小中高生743人とその保護者を対象にLidに関する大規模疫学調査を実施し、国内で初めて診断基準となる「Lid/APD診断と支援の手引き」を作成し公開している。

聞こえるのに聞きとれない「Lid」への理解と配慮を

 Lid(聞き取り困難症)は聴覚検査では異常がないため周囲から気づかれにくく、聞こえているが聞き取れていない。このため、コミュニケーションに問題が起こるケースもあり、Lidに対する社会的な理解や配慮が求められている。今回の研究成果はLidの早期発見、児童生徒の学習・言語習得対策の第一歩となると期待されている。

保護者、子どものLid症状過少評価

 大阪公立大大学院医学研究科研究グループの阪本浩一特任教授(4月から就任)が代表を務める研究グループは、日本医療研究開発機構(AMED)の支援を受けて調査・研究した。その結果、児童生徒のLidの症状を自覚するスコアは高学年になるにつれ増加していることが分かった。特に、「え?」「なに?」などと聞き返すことが多かったり、騒々しい場所では話し手に注意を向けることが難しい『聴覚的注意』におけるスコアの増加が最も大きかった。
 一方で、保護者は、児童生徒のLidの症状を過少評価する傾向もあり、両者の間にかい離があることも明らかになった。
 今年3月、調査・研究を生かして質問票と聴力検査だけで診断できる手引きをまとめ公開した。
 Lidを専門とする検査・診療を行っている病院は全国で20カ所ほどと少なく、診断の環境も十分に整っていないのが現状だ。手引きを作成したことで、全国に約7700ある耳鼻咽喉科の病院・診療所でも診断できるようになる。

当事者が困っていること
●無視している、反応が無く感じが悪い、やる気がないと誤解される
●社会とのコミュニケーションがスムーズにできない
●子どものころは「抜けている子」「天然な子」と思われていた

円滑な社会参加へ向けて
●LiD/APDの認知度アップ
●具体的な症状や配慮してほしいことが一般的に広がる
●周囲の人々から理解や協力を得る

※「LiD/APD診断と支援の手引き」から引用
https://apd.amed365.jp/

診断基準、初めて公開

 3月17日には大阪公立大杉本キャンパスで阪本特任教授(当時は准教授)の研究チームと近畿Lid/APD当事者会が共同で、聞き取り困難症に関する最新研究講演会を開催し、約120人の当事者や医療・福祉関係者、研究者が参加した。阪本氏は講演で診断基準の第一案となる「Lid/APD診断と支援の手引き」を初めて公開し、当事者が就職する際や、仕事場での環境作りのポイント、学校へ求める合理的配慮などの質問に具体的なアドバイオスを行った。研究成果は国際学術誌「International Journal of Pediatric Otorhinolaryngology」にオンライン掲載された。