「マッサージしても翌日には痛む」「肩こり、腰痛が慢性化している」─。厚生労働省の「2022年国民生活基礎調査の概況」によると〝最も多い症状〟は男女とも1位が「腰痛」、2位が「肩こり」だった。この不動の王者とも言える現代人の病の根っこは実は〝首〟にあるようだ。(加藤有里子)
成人の「頭の重さ」は体重の10%
「主な原因は首にあることが多い」
こう話すのは、整形外科ひろクリニック(大阪市)の鞆(とも)浩康医師。
成人の頭の重さは体重の約10%あり、睡眠時間以外は起き上がった状態で生活している。この重さを首・肩・背中の筋肉と背骨で支えており、首が前に傾く。つまり、うつむけばうつむくほど負荷は増える。首の角度が15度傾くと負荷は約2倍、30度傾けば約3倍にもなってしまう。
鞆医師は「首は全身に指令を送る神経系が集まる重要な部位でありながら、他の器官より負担がかかりやすい部位でもある。立っているだけ、座っているだけでも、頭の重みは首に負荷をかけている」と話す。
首への負担による健康被害
そんな健康被害にさらに拍車をかけるのが「スマートフォン」だ。もはや生活必需品である一方、「スマホ首」と呼ばれる現代語が誕生したほど、常に首にストレスをかけ続けているのがこのデバイスだ。
首は、脳から全身に指令を送る神経系などが通る重要な場所。首の負担が続くと血液や体液が流れにくくなり、細胞に酸素や栄養が届きにくくなる。そうなると、代謝が低下し体は冷えて硬くなる。 重症化すれば死に至る危険性もある。
では、どうすれば首への負担を改善できるのか。
「深い呼吸をすることで、首が正しい状態に戻り体を整えることができる」。こう話すのは、20年以上にわたり整体師として従事してきたキュアレ(東京都豊島区)の塚本幸規さん。患者をサポートしてきた中で、深呼吸がストレッチとなって「体全体のゆがみを正していくことが分かった」という。
ここで、読者自身が「深い呼吸」ができているかどうか、簡単な実験をしてみよう。
①自分自身が良いと感じる 姿勢を取る。
②口から息を吐き切る。
③鼻からゆっくり深く息を 吸い込む。
④息をゆっくりと吐き切る。
これをいつもの姿勢で行ってみるとどうだろうか。浅い呼吸になっていたら、体がゆがんだ状態かもしれない。簡単なセルフチェックの表を用意したので参考に。
だが、塚本さんが深呼吸やストレッチの方法を教えても、施術から2週間ほど経ったらの元の状態に戻り、「また痛い」「寝てもすっきりしない」と患者から多くの悩みが寄せられていた。
そこで塚本さんら整体師は、疲れが残る寝姿勢を改善する方法はないか考案し、臨床を重ねたところ、「枕」の開発にいきつく。
「5万人以上を施術した整体臨床データをもとに、首に負担が集中しないように設計した。寝る前に呼吸を整え、副交感神経の働きを強め、寝ているだけで整体効果を発揮する『整体枕』として、機能を果たすことができる」(塚本さん)
枕で体を整えるという新発想
一般的な枕は、首をいかに支えるかに重点を置いていることが多い。しかし、「整体枕」で、首への負担を最大限に少なくするため、頭と背中の2点で支える形状にして、頸椎に負担がかからないように開発した。さらに、「整体枕」について効果検証した論文によると「5分の使用で首、肩、腰、腕の身体状態の改善が見られた」という。
理想はそのまま整体枕で就寝することだが、5分間、体を整えた後、枕を外して就寝しても効果は持続する。実際、体のゆがみが改善したかどうかは、深呼吸して、自分の体に聞いてみると分かるだろう。
>>【関連記事】寝ているだけで体整える 整体枕開発のキュアレの塚本さん
「 一生治らない」と6割が思い込む
もし、肩こり、腰痛がなくなったら生活はどうなるのか。そんなユニークな市場調査報告書がある。
第一三共ヘルスケア(東京都中央区)が全国47都道府県の男女5万人を対象に肩こりと腰痛に関する意識・実態調査した結果、9割が肩こり・腰痛がなかったら「生活は楽しくなると感じている」と答え、8割以上が「作業効率がアップする」と答えた。その一方、6割以上は「肩こり・腰痛は一生治らない」と認識していることも分かった。
人生100年時代といわれる現代。肩こり、腰痛を諦めるのではなく、体を整えて、痛みから解放されることで、快適に過ごせるのではないだろうか。