【わかるニュース】利子ある世界どうなる? マイナス金利解除

ポイントは「次の利上げ」時期

 日本銀行が政策金利(日銀が設定している短期金利。市中金融機関の預貯金や貸し出しの金利に影響を及ぼす)のマイナス金利政策を撤廃。日本は8年3カ月ぶりにマイナス金利政策を脱した。これを受けてメガバンクや郵貯などの金融機関は、さっそく普通預金の利息を年0・001%(100万円預けて1年で10円)から年0・02%(同200円)に引き上げた。日本はバブル崩壊以来、約30年間もデフレが続き、金利も一時期を除いては〝ほぼゼロ〟が続いてきた。気になる預貯金と住宅ローンの金利、中小企業の企業融資利息の今後の行方を探ってみよう。

迫られる強い経済構築
ポイントは「次の利上げ」時期

金利が上がると生活は?

 まずは金利が上がると、生活がどう変わるのかをおさらいしてみよう。まずは、住宅ローン。ざっくり計算で5000万円を35年で返済する場合、金利が0・1%上がると総返済額は約110万円アップする。返済額が増える一方、銀行に預けたお金の利息も上がるが、平均的な家庭は預金より借金の方が大きいので、支払う金利の方が増える。
 民間企業の場合はどうだろう。資金を借り入れるコストの上昇分はすべて企業の持ち出し。コロナ禍で中小企業を救済するため、国が実施した「ゼロゼロ (実質無利子・無担保)融資」は今年4月までが返済のピーク。業績が悪くて順調に返済できないと将来的には借り換えが必要になるが、借り換え時に上がった金利を適用されるとダブルパンチになる。

バブル期の預金利息は2年で1割超えだった

 現在50歳以下の人は、預貯金の利息の恩恵を感じたことがないと思うが、バブル期だった1991年の金利は、最高で8・56%まで上がり、金融機関の2年もの定期預金の最高利息は6・33%という時代もあった。
 わかりやすく言うと、100万円を2年間預けたら12万6600円と1割以上の利息がつくということ。半面、住宅ローンを借りるとその返済額も半端ではなかった。35年かけて借入額のほぼ2倍をコツコツと支払う覚悟が必要だった。
 ところが、バブルが崩壊して95年に政策金利が0・5%まで大きく引き下げられ、2008年のリーマンショックで再びゼロ近くまでダウン。16年1月にマイナス金利政策がスタートし、「預金の利息はほぼゼロだけど、ローンの利率が低い」が当たり前になった。

変動型でもあわてるな

 金利上昇で読者が気になるのは住宅ローンだろう。まず、覚えておいてほしいのは、金利には長期(一年超)と短期(一年以内)がり、住宅ローンはこのうちの短期金利と連動していること。変動制は市場金利で動くが日銀のゼロ金利撤廃以前は、ネット銀行平均値で年利0・37%。固定制は返済終了まで利率は変わらず、35年固定型で1・84%と変動型の約5倍も高い。
 現在のローン利用者の内訳は、変動型が74・5%、変動+固定が18・3%、固定型が7・2%。「当分は金利が上がらないから、変動が有利」と判断されていた。
 金融機関により対応は異なるが、変動型でも利上げによる返済額増大に対し5年程度の経過措置を設けている場合が多い。つまり、急に返済額が増えても増額分を後年へ回し、当面の返済額を低いままで抑える。ただし、あくまで先送りだから返済総額が増えることには違いない。
 仮に4000万円を35年ローンで返済している場合、現行の0・37%から0・1%上がっても、月々の返済額は1700円程度しか上がらない。総返済額も70万円ほど増えるだけ。しかし、0・5%上昇して0・9%になると、月々の返済は9000円程度まで増え、総額は360万円程度に増すから結構大きい。
 つまり、今回のゼロ金利脱却だけなら大したことはないが、仮に2回目、3回目の日銀政策金利引き上げがあれば〝要注意〟の信号がともる。

金利よりマンション価格の上昇著しい

 実際に現行ローンを借りている人に影響が出てくるのは1~2年後。ただし4月以降に新たな住宅ローンを組む人は0・1%程度金利が上がる可能性がある。住宅ローンは20年以上の長期が主なので「将来的に再び年利3%ぐらいにはなるのでは?」と予測する人は固定金利を選択するのもアリだ。固定と変動の組み合わせも可能だ。
 それ以上に首都圏や関西圏の都市型マンションの価格上昇の方が急。日本株の高騰と同じ理由で、円安の割安感で外国人投資家が投資目的で買い続けているためだ。
 住宅価格が上がると、世帯主1人ではローンが組めないケースも出て、共働き夫婦2人でローンを分担したり、親子でリレーする選択肢もある。ただし、気を付けなければならないのは、1人のローンなら仮に返済途中に亡くなっても特約生命保険で全額返済が免除されるが、分担やリレーではそうはいかないのでローンが残る場合があることだ。

欧米では高金利続く

 外国では、米国が政策金利5~5・25%、EUは4・5%だから日本の0・1%とはまだまだ大差。米国は秋の大統領選に向け、夏頃から政策金利の引き下げが予想される。それでもまだ金利差は大きく、円安基調は続きそうだ。
 米国もリーマンショック後の16年までほぼ金利ゼロの時代があった。トランプ大統領の就任前後に少しずつ上がり2%ぐらいまで行ったが、コロナ禍で再びほぼゼロに。それが22年にいち早くコロナ禍を脱して一気に経済が活性化して金利上昇。今では5%超と22年ぶりの高水準だ。
 その米国の住宅ローンは9割が固定制。それも30年固定で平均6・74%と高い。5000万円を借りると総額で1億2000万円の返済になるから、買い換えをあきらめる人も増え、〝物件不足で住宅価格高騰〟という逆転現象が起きている。彼らから見れば「変動制で返せるの?」と日本のローン事情にびっくりだ。

「改革」迫られる中小企業

 そもそも金融機関の役割は民間にお金を貸し出すこと。マイナス金利は、銀行が日銀に預けている一部のお金に罰金のようなものを課し、市場にお金を吐き出させて経済を活性化させるのが意図だった。そのマイナス金利が解消されると、メガバンクの三菱UFJや三井住友で年間各300億円程度、みずほで200億円程度と収益増が見込まれる。その分、無理して民間へリスクの高い融資をしなくて済むことになる。
 民間企業の経営者は日銀ゼロ金利政策撤廃に①借入金利払い増加63%「利上げは慎重にして」②為替への影響58%「円高でも円安でも、急変はしないで」③需要減16%「製品やサービスが売れなくなって、せっかくの景気回復傾向に水を差さないで」と心配する。
 中小企業の大半は、このところの「円安株高」で企業内合理化による経費節減はギリギリまで推し進めているから、金利増に伴う出費に対応するには売り上げを増やし利益を上げるしか手がない。
 今の日本に「ゾンビ企業(本業利益だけでは借入金利息が払えない〝実質倒産〟状態)」は22年度で56万社と言わるが、金融機関の貸出金利アップで一気に「7万社程度増える」と見込まれている。
 今後金利が「0・5%上がったら借り入れをあきらめる」。つまり、経営者がギブアップする危険性がある中小企業は2割近くに達する見込みだ。
 これを危機と見るか、好機と見るか?上場企業の平均社歴は日本の80年超に対し、米国は30年と若い。日本は長らく「失業率を上げないこと」を第一に、リストラしないよう〝企業保護〟の経済政策を執ってきた。しかし、少子高齢化で現役世代の働き手が不足し、「会社を守るより、人を守ればよい」との発想に転換しつつある。

岐路に立つ日本経済

 アベノミクスで雇用は増えたが、結果として「金融ジャブジャブで企業を甘やかし、円安誘導で国力を落とした」という負の部分も。現状は岸田総理が言う「賃金と物価の好循環」などという選挙向けの甘い状況ではない。働き手が不足するプレッシャーによる〝賃上 げ〟と、輸入品の高騰で〝物価高〟が起きているだけ。つまり「円安と外圧的インフレの悪循環に過ぎない」と指摘する声も強まっている。
 国際経済では、金利が上がらない国の通貨はどんどん安くなる。だから円貨は「(好況で)金利の高いところで稼ごう」と外へ出て行こうとする。〝円高・高金利〟でも海外で稼げた20世紀の「ジャパン・アズ・ナンバーワン」時代のような筋肉質で強い日本経済に戻れるのか? ダラダラと維持された既得権益を、政治家と官僚が「打破できるか否か?」の取り組みに掛かっている。