【わかるニュース】日本にプラスか 韓国新大統領に期待も 日韓改善楽観できぬ


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 5年ごとに行われる〝近くて遠い国〟韓国の大統領選が3月9日に投開票され、保守派の野党「国民の力」の尹錫悦(ユン・ソンニョル)元検事総長(61)が僅差で勝利した。進歩派の現職与党「共に民主党」候補に競り勝ち、5月に政権交代する。投票総数の1%にも満たない25万票足らず(0・75ポイント)の差で、得票率48・56%と過半数に届かない大接戦。保守派は米国と日本、進歩派は北朝鮮と中国に親近感を持つとされる。日本にとっては本当にプラスとなるのか?

米日側 vs 朝中側 韓国世論真っ二つ 日本国益は関係再構築だが

日本側が度量の広さ示せ

 日本国内では、ビミョーに気遣いが必要な韓国との付き合いに「今さら仲良くなる必要あるの?」とうんざりしている人は多い。今回の大統領選終了後に政権交代が決まっても、日本人の6割は「関係が良くなるとは思わない」とアンケートで答えている。本当に必要ないのだろうか?

 ロシアのウクライナ侵攻で私たちはもう一度地政学的な日本列島を見直してみよう。北方四島でロシア、尖閣諸島で中国と領土問題を抱え、北朝鮮は数え切れないほどのミサイルを日本海に落としてくる。日米安保条約に基づき米軍基地があると言っても、太平洋の反対側の国では有事に遠すぎる。周囲が緊張関係にある国ばかりでは国土防衛は難しい。そう考えると、日韓同盟強化は日本に取って不可欠だ。

 結論を先に言うと、「戦後最悪」といわれ冷え切った日韓関係を再構築するには、まずパートナーとして互いを認め合うこと。大切なのは「ギブ・アンド・テイク」だから、どちらが条件を「出す、出さない」の手順論より、まず日本側から歩み寄る度量の大きさを示し「新大統領にチャンスを上げる」余裕を見せてほしい。

条約順守は国交の基本

 目先の問題点を整理してみよう。①韓国最高裁で徴用工訴訟の賠償金として、日本企業資産の現金化認める②慰安婦合意一方的破棄、の2点の処理だ。日本側の論拠は①と②とも1965年締結の日韓基本条約と日韓請求権協定に違反しているから。国交回復時に互いの請求権を全放棄する代わりに、日本側から5億ドル(当時の金で1800億円)の援助金を韓国に渡している。当時の韓国国家予算の1・6倍に当たる額で、この金を使って韓国は〝漢江(ハンガン)の奇跡〟と呼ばれる高度経済成長を果たす。協定の中には賠償問題についてわざわざ「完全かつ最終的に解決」と明記。ここに議論の余地はない。

 さらに②に関しては2015年、当時の安倍首相と保守派の朴槿恵(パク・クネ)大統領の間で元慰安婦支援に財団を作り日本側が10億円を拠出する両政府合意ができている。当時の外相が岸田首相で、尹氏当選へ祝意を示した際にあえて1965年の国交正常化を持ち出し、関係構築を求めたのもそうした背景から。


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 条約は国と国が交わした約束事だから、政権が変わっても反故になることはありえない。日本の主張はしごくもっともだが、だからといって韓国を突っぱねるだけでは、話し合いの糸口が見つからず、かえって韓国を北朝鮮と中国の側に追いやることになりかねないから、ここは交渉テーブルへ招き寄せることが「結果として日本の国益に合致」と見る。

盧武鉉時代に暗転

 韓国進歩派の源流は金大中(キム・デジュン)大統領(98~2003年在任、09年83歳で死去)にある。軍事政権下の民主活動家として弾圧され東京滞在中の1973年に秘密警察に拉致され強制帰国。その後死刑判決を受け服役するも不屈の精神で復権。民主化された韓国大統領選を勝ち抜いた。当選後は、北朝鮮・金正日(キム・ジョンイル)委員長(現在の金正恩(キム・ジョンウン)総書記の実父)と会談。南北共同宣言を締結しノーベル平和賞を受けた。北朝鮮一辺倒ではなく、日本の小渕首相と「日韓パートナーシップ宣言」を交わし、韓国内で日本の音楽や映画を解禁。サッカーW杯日韓共同開催も成功させた。バランス感覚が素晴らしかった。

 ところが彼の後継者として続いて当選した盧武鉉(ノム・ヒョン)大統領(2003~08年在任、09年62歳で死去)の時に日韓関係がおかしくなった。05年に「親日財産帰属法」という「かつて日本に協力した人の子孫から財産を没収してもよい」という法律を作り、韓国内保守派を徹底弾圧し始めた。そもそも後付けした法律を事後にさかのぼって取り締まる行為自体が民主主義の法治国家では許されない。この時の大統領秘書室長が現在の文在寅(ムン・ジェイン)大統領だから、おおよその流れは理解できるはずだ。

進歩派VS保守派

 韓国内では日本を巡っての立ち位置での両派の暗闘がずっと続いている。

 進歩派は別名「586世代」が中心で、10年ぐらい前に〝50歳代で、1980年代に大学で学び、60年代生まれ〟を指す総称だった。戦前の日本統治時代に旧帝大などを出て高い地位に就いた朝鮮半島出身者やその子孫を〝日本統治に協力した裏切り者〟を指す「親日」と呼び徹底糾弾。金正恩総書記の祖父で北朝鮮建国者の金日成(キム・イルソン)主席を「最後まで日帝主義者支配に抵抗した民族の英雄」として評価する。徴用工訴訟確定と財団設立棚上げはいずれも文大統領がちゃぶ台をひっくり返し、北朝鮮寄りに転じた結果だ。政治スタンスとして『反日・離米・親中・従北』といえる。


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 保守派も黙っていた訳ではない。朝鮮戦争から復興し、韓国を世界の一流国に押し上げたのは自分たち、というプライドがあり進歩派の歴史観を「反日民族主義」と呼んで徹底的に叩いた。『親日・従米・離中・反北』と分類される。

 今回の選挙結果を見ても、韓国世論はトランプ時代の米国以上に分断されており両者の妥協点は見いだせない。白け気味の若い世代からは、ずっと進学と就職の問題で苦しめられてきただけに「どっちでもいいから、僕らの将来考えてよ」との悲鳴が上がっている。

尹大統領のスタンスは?

 尹氏は、一貫して検事で「過去に政治歴がない」という点ではトランプ米大統領と同じ。朴槿恵贈収賄事件の特別捜査チーム長として頭角を現わし文大統領から検事総長に抜てきされた。ところが文大統領の側近中の側近・曹国(チョ・グク)法相の疑惑を忖度せず追及し退任に追い込んだことから、事実上解任され〝反文在寅〟の旗手へ一気に祭り上げられた。


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 発言の随所に検事らしく「この国に〝公正と常識を取り戻せ〟という正義の声」という表現が出て来る。北朝鮮に対し先制攻撃能力の必要性を認め、金正恩総書記の「無礼を私が正す」と言い放ち、対北での米韓同盟強化を求める。日韓首脳のシャトル外交復活まで宣言したため、北朝鮮系メディアからは「南朝鮮(韓国)で親日勢力(保守派)を緊急に清算せよ」とあからさまに不快感を示されている。

 こんな尹氏だが、1院制の国会(定数300)は文大統領派の「共に民主党」172議席と6割を占め、2年後の改選まで少数与党で国内の動きは不自由だ。尹氏に日本が門戸を開けば、彼自身が検事時代に培った〝腕力〟でまず外交から硬直状態打開を試みるだろう。

 ロシアのウクライナ侵攻で皆がハッと気付いた。「もし独裁者が突然暴走したら?」の現実味。日本人も感情的な好き嫌いではなく「どうすれば最も国益にかなうか?」で韓国との付き合い方を考える時だ。

2017年5月10日文在寅大統領に就任
2018年4月10日板門店で南北首脳会談開催
9月10日北朝鮮(平壌)で南北首脳会談
2020年6月10日北朝鮮、南北共同連絡事務所を爆破
2021年4月10日ソウル市長選、与党惨敗
2021年8月10日韓国国防予算が日本に並ぶ 22年5.3兆円、23年にも逆転
10月10日元徴用工訴訟の請求権が時効 判決確定3年、解決遠く
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2022年3月10日日韓関係「過去より未来」 韓国大統領に尹錫悦氏
3月12日日韓、安保から関係修復探る 首相が次期大統領と電話
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