コロナ禍がようやく明け、訪日外国人が増加している。観光庁のデータを元に日本を訪れた外国人の推移を見ると、コロナ前の水準に近づきつつある(表❶)。ところで2019年まで盛り上がりを見せていた大阪市内の「民泊」は現在、どのような状況になっているのか、取材を進めた。(加藤有里子)
「民泊」とは、法令上の定義はないが、戸建て住宅やマンションを宿泊所として提供している施設を指す。ここでは簡易宿泊所、特区民泊、新法民泊を「民泊」として定義し紹介する。
表❷を見ると、施設数はいずれも19年をピークに減少したものの、今年から再び増加していることが分かる。
客単価、コロナ禍前の3割増
大阪市内を中心に約300室、民泊の運営代行を手掛けるグローバルコムズジャパン(大阪市浪速区)の岸本和也社長は「19年の稼働率を100%とすると、コロナ禍は20〜30%。昨年、政府が外国人受け入れを再開してから一気に70%台まで回復し、現在80%稼働まで回復している」と話す。
昨年10月の受け⼊れ再開までは、同社の宿泊客は日本人客が95%だったのが、今では外国人利用客60%に逆転したという。多い順に見ると、韓国、台湾、アメリカ、香港、ヨーロッパ、中国。
同社の運営施設は6人以上収容できる物件を中心に「Bijou Suites(ビジュースイーツ)」の商号で展開。立地や平米数に応じた企画とデザイン性の高い空間づくりを行うことで、ハイクラス向けに提供している。そのため、シティホテルやビジネスホテルと異なる宿泊層を獲得できている。単価は、コロナウイルス禍前の3割増と快調だ。「稼働率、価格ともに上昇しているとはいえ、むやみやたらに施設数を増やすつもりはない。質を保ちながら稼働が見込める案件があれば広げていく」(岸本社長)
来春まで予約でいっぱい
民泊などの宿泊施設を借りたい人と貸したい人をつなぐ大手ポータルサイト、Airbnb(エアビーアンドビー)からスーパーホストアンバサダーに任命されているビジョナリーエステイトの三島清人さん(大阪市港区)。19年4月に初めて戸建住宅で民泊運営を始め、コロナ禍にもう1棟物件を増やしている。海外赴任経験のある三島さんは、帰国者の待機施設として提供しようと試み、奏功した。宿泊単価は下がったもののコロナ禍でも6割稼働していたという。「経験を生かすことができた。そんな折、デルタ株が猛威を振るい民泊運営を辞める事業者が相次いだ。良い案件が売りに出たので1棟増やすことにした」と当時を振り返る三島さん。
単価はコロナ前の2倍になる日もあり、2施設とも来年4月まで予約で満室となっているという。前述のグローバルコムズジャパンと同様、再び外国人客の利用であふれるというが、三島さんの施設では9割が訪日客。そのうち、アジア系が5割を占め、3割が欧米、残りの2割が中国人の利用だ。
民泊施設の動向について、三島さんは「参入者が増加傾向にあり物件の取得価格が高騰している」と話す。さらに、リネンや清掃会社は人手不足で追いつかない状態に陥っていったり高くなったりしているという。「これらの状況によって、休業していた施設が再開できていないという話を聞いている。いまは手を広げるタイミングではないと感じる」(三島さん)
宿泊客増えても規模拡大には消極的
民泊を5施設運営している不動産会社、トラストエージェント(大阪市北区)。同社では戸建から小規模ビル、賃貸マンション1棟と、さまざまな建物で民泊運営をしている。戸建や小規模ビルは10人以上収容できる一方、マンションは広さが20平方㍍ほどのため最大収容人数は3人としている。
稼働率は19年を基準とすると、コロナ禍は10%、現在は70%台。宿泊費用はコロナ禍前と同等で推移している。利用者属性は大半が東南アジア系。マンションには、カップルなど日本人客の利用もあるという。今後の展開について、規模拡大には消極的だという同社。アセットソリューション事業部星野晶文係長は「ビジネスホテルも増加し、競合がかなり多い。10人以上宿泊できる、難波や日本橋など中心地にある案件でないと厳しいだろう」と話す。
今後も増加が見込まれる民泊。だが、コロナ前、禍、現在とそれぞれの状況下を知る事業者は、大打撃を受けた経験から、地に足をつけて展開しているのだろう。
政府は「観光立国」を目指し、30年に訪日客「6000万人」の目標を堅持している。さらなる外国人客の増加が期待される中、民泊の行方を考察したい。