子どもの「こんなんあったら」を発明へ 大阪発明協会、120年続く人材育成

大阪発明協会 山本 雅史会長

 1906(明治39)年に始まり、今年で創立120周年を迎えた大阪発明協会。日本が欧米に追いつこうと産業力、技術力の向上に力を注いでいた時代から、発明の奨励や知的財産の普及に取り組んできた。現在は企業の発明表彰に加え、中小企業の知財支援、子どもたちの創造性育成にも力を入れる。「『こんなものがあったらいいな』と考えることが発明の第一歩」と話す山本雅史会長に、120年の歩みと発明の面白さ、AI時代の人間の役割について聞いた。(竹居真樹)

「戦争を止めるロボット」「氷をつくる潜水艦」子どもたちの純粋なアイデア続々

 ─今年、創立120周年を迎える。大阪発明協会がどのように始まり、どんな歩みをたどってきたのか。

 日露戦争終了の翌年の1906年。大阪府立博物場で国内の発明品や新しい製品を集めた展示会が開かれた。それをもう一度やろうと、大阪の商工業者らが集まって「商工業所有権同盟会」をつくったのが協会の起源だ。
 この時代、日本は欧米に追いつくため国の産業力や技術力を高める必要があった。特許制度はできたが、制度を利用して発明が新しい製品に繋がるところまではなかなか進まなかった。そこで発明思想(発明が大切だという考え方)の普及啓蒙と発明を奨励する組織が必要とされたのだ。
 大阪発明協会は、全国組織の支部となったり独立したりしながら120年の歴史を刻んできたが、知的な創造を刺激し、社会に生かす基本的な考えは120年間変わっていない。

 ─現在の大阪発明協会の活動の柱は何か。

 第一は、優れた発明を表彰する活動である。(公社)発明協会を中心とする発明協会グループの一員として、伝統ある全国発明表彰や近畿地方発明表彰などを実施している。
 第二は、中小企業の知財制度利用を促進する活動。企業向けに知財に関するセミナーを開催したり、(独)工業所有権情報・研修館(INPIT)から受託して知財総合支援窓口を運営したりしている。中小企業の活動が盛んな大阪で重要な活動だ。
 第三は、青少年創造性育成事業。少年少女発明クラブの支援や大阪府生徒児童発明くふう展の開催などを通じ、子どもたちの創造力を高めてもらう仕事。120周年を機にさらにこの事業の拡大を目指している。

 ─子ども達の発想の豊かさには驚かされる。

 昨年、八尾の少年少女発明クラブで、小学3年生の子ども達に万博にちなんで「みんなを幸せにする発明の絵」を描いてもらった。「お母さんが楽になるよう、ボタンを押すとごはんが出てくる装置」「電柱にシャワーを付けて学校まで涼しく通学できるシステム」など子供らしい発明が一杯。中には「僕が発明したロボットは戦争を止められます。ミサイルを掴むこともできます」というものもあって、とても感心した。
 「こんなものがあったらいいな」というのは、知的創造の原点だ。そこを起点に「どうすれば実現できるのか」を考える。そうすると数学も物理も英語も興味を持って勉強できる。そんな子どもたちをたくさん育てていけば、将来の日本を支える技術者や研究者が生まれてくる。

 ─子どもたちの発明の中には、実社会で使えそうなものや特許になるものもあるのか。

 約20年前、東大阪市少年少女発明クラブの中学3年生が考案した「全方向回転電動車いす」は全日本学生児童発明くふう展で最高位の「恩賜記念賞」を受賞した。入院していたおばあちゃんがもっと楽に移動できるように、車椅子の車輪部分に特殊なボールを組み合わせることで、360度どの方向にも移動できる車椅子を発明した。
 昨年、大阪府生徒児童発明くふう展で最優秀賞の近畿経済産業局長賞を受賞したのは、機械が入れられない狭い場所で腰を屈めずに田植えができるように、苗を掴んで植え付ける動作を立った姿勢のまま行えるマジックハンドのような装置。堺市の小学生が、田植えで腰を痛めているお父さんを見て発明した。この発明については、実際に特許出願中だと聞いている。
 高校生ぐらいになると、社会実装が可能な発明も出てくる。これに対しては、特許を取る意味や注意点くらいは教えてあげたい。大阪発明協会でそういう知財教育にも何か貢献できないかと検討中である。

 ─発明協会という名前だが、発明をした後に利用する知財制度の普及・啓発にも力を入れている。

 すばらしい技術を発明しても、それだけではその発明を使って実社会で役立てることにはつながらない。発明した技術を独占的に使えるように保護する特許権などの知的財産権が極めて重要な役割を果たす。
 発明した技術が簡単にマネされてしまう社会では、新しい技術を産み出そうという開発意欲が湧かない。発明した人が知的財産権により利益を得て、それを次の研究開発に使い、また新しい発明を生み出す。この好循環をつくるのが特許制度をはじめとする知財制度だ。
 知的創造の成果を保護する知財制度の普及啓蒙をすることは、発明の奨励と合わせて、発明協会の重要な仕事である。

 ─知財制度を理解して活用できるかどうかは、中小企業の成長発展にとっても大事だと考えるのか。

 中小企業こそ、知財制度を利用する意味は大きい。中小企業は、設備などの有形資産の面では大企業にかなわないので、技術やノウハウ、デザインなど無形資産の役割が大きい。ところが、中小企業の場合、優れた技術を持っているのにそれを活用するための知財制度の利用がうまくいかないことがある。知財制度を良く知る人材も不足していて、「特許をどう取ればいいのか分からない」「誰に相談すればいいのか分からない」ということになりかねない。
 そこで、発明協会では、知財に関するさまざまなセミナーを開催している。知財制度の基礎を学ぶ基礎講座のほか、意匠や商標などの制度に関するもの、諸外国の知財制度を学ぶものなど、様々なセミナーを年間30回程度開催している。最近では、IT技術の普及やAIの進化等に対応し、情報技術の利用を進めるための講座も設けている。
 また、大阪発明協会では、独立行政法人工業所有権情報・研修館(INPIT)からの委託を受けて知財総合支援窓口の運営も行っている。ここでは、弁理士のほか知財活動の経験豊かな相談員が懇切丁寧な相談対応に当たっており、多くの中小企業等に利用していただいている。

 ─AIの登場を含めた情報技術の利用深化で、知財を生み出す環境そのものも大きく変化してきた。これから「発明」のあり方はどう変わっていくのか。

 難しい問題だが、AIによって発明のやり方は間違いなく変わるだろう。
 既存の技術を組み合わせて新しい技術を作ることはAIの得意とするところだろう。人間なら膨大な時間がかかる組み合わせもAIなら一気に試せる。知的創造活動についてもAIを駆使できるかどうかがカギを握るだろう。
 また、知財活動を効率的に進めるために情報技術の活用も重要になる。世界でどんな技術が必要とされているか、それに対応してどんな技術が開発されているか。様々な情報を集め整理して効率的に活用できるかどうかが知財活動の成否を握る。
 もっとも、だからといって人間の役割がなくなるわけではないと私は考える。「人間は何に困っているのか」「何があれば幸せなのか」というニーズを実感しているのは人間。例えば新しいイチゴをAIがつくれたとしても、本当においしいか、食べたいと思うかを最終的に判断するのは人間。
 人間は、情報を的確に処理しつつ「何が必要なのか」を考える。そのニーズにあったものをつくるにはAIも活用する。出来上がったものを再度人間が評価する。人間の役割が、より人間らしい部分に移っていくだろう。

 ─120周年は1つの節目。これから同協会をどのように発展させていくのか。

 日本全体をもっとイノベーティブにしたい。大阪は、そのイノベーティブな活動の推進役であってほしい。大阪の企業には元気に新しい技術やアイデアを生み出し、それを事業や産業の発展につなげてほしい。大阪の子ども達には、次の世代を担うイノベーターに成長してほしい。
 そんなイノベーティブな大阪を発展させていく上で、大阪発明協会の役割はより大きくなっていくと思う。120周年を契機に、協会の活動を一層活発にしていきたい。
 特に、少子高齢化の時代にあって、子供たちの創造性育成は極めて重要だ。次の世代を担う子どもたちが「こんなんあったらええな」「これ作ってみたい」と夢中になって学び、大人になって新しい技術や産業を生み出していく。そんな大阪になってほしい。
 11月21日(土)には、大阪発明協会120周年の記念イベントとして、「おおさか子ども発明フェス」を開催する計画。府内で活動中の6つの少年少女発明クラブがそれぞれワークショップを実施する。関係企業や団体の協力も得て、子ども達に発明の楽しさを満喫してもらいたい。多くの子ども達の来場を期待している(事前申し込み必要)。

左から大阪発明協会の上野亮さん、山本雅史会長、川崎由美さん
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