新築マンションの高騰が続き、中古マンションを購入してリノベーションして入居するニーズが高まっている一方で、リノベの仕事ができる大工職人の数が年々減少している。このままでは数少ない大工を大手企業がかかえ込み、リノベ価格も高騰してしまうと危惧(きぐ)する声が上がっている。
中古マンション + リノベーション人気
新築分譲マンションの価格高騰が著しい。都心はさらに加速し、不動産経済研究所が発表した2022年10月の大阪市内新築分譲マンションの平均価格は5803万円、前年同月比47.1%増となった。
また厚生労働者「令和2021年賃金構造基本統計調査」によると、大阪府の平均年収は約511万円で、住宅ローンの年収倍率は7倍が目安とされる。このため、頭金なしでローンを組んだ場合3600万円ほどの物件が理想となる。そこで、新築マンションより3~5割ほど割安な中古マンションを購入して、自分好みにリノベーションをするニーズが高まっている。
しかし、中古マンションも例外ではない。資材や材料、人手の不足により、需要に比べて供給が追いつかず、中古マンションとリノベ価格も上昇。人手不足から納期が延びるといった事態に陥りつつある。
このままでは大工がいなくなる
20年ほど昔は子どもが憧れる職業としてトップ5入りしていた大工だったが、現在はトップ10から姿を消した(※第一生命のデータに基づく)。事実、2020年の大工職業者は全国で約35万人。1995年の76万人から25年で半分以下になっている。年齢も60歳以上が三分の一を占めており、10年、20年後にはさらに減少すると予測される。さらに、大工職人が不足していると回答した住宅リフォーム事業者は約63%(※グラフ②参照)。なぜ大工志願者が減ってしまったのだろうか?
【理由① 育成するシステムがない】
学校を卒業して一通りのことを身につけるのに3~5年ほど。「一人前になるのには10年以上はかかる。若手大工への丁寧な育成が難しい」(大工の棟梁)
【理由② 分業化され経験が積めない】
リフォームできるようになるには新築の経験や知識が必要となる。型枠大工や、マンション大工、店舗大工など限定的なキャリアは積めても、全体的な経験はなかなかできないのが現状だ。
【理由③ 労務環境の過酷さや福利厚生】
日雇のような状況で病気になった時に保証がない場合や、高所や猛暑の中での過酷な作業。「一人前になっても一般サラリーマンに比べて所得がそれほど増えるわけでもない」など、業界の弱さが理由として挙げられる。
大工という職の魅力とは
生活の基本となる「衣食住」の「住」。当たり前だが住む所は大切で、これを形にできる大工は熟練技術の持ち主だ。例えば、異常気象で半壊した家を建て直したり、足腰が弱ってきた人に慣れ親しんだ家をそのままバリフリー化できるのも大工だ。
リノベーション価格高騰と大工職人不足問題を解決する仕組み
この事実を受け、問題解決に取り組もうとしている工務店がある。大阪市東淀川区にある『㈱TSUDA CONSTRUCION COMPANY 津田工務店』だ。
同社の1階フロアはDIYができる『TOCO CRAFT FACTORY』になっている。余った廃材を提供しており、道具も取りそろえてある。ここでDIYを習い、自分でできるようになれば「お金をかけなくても住まいを快適にできるようになる」という。またいずれ自分の家をリフォームできるように、同社が持つボロボロの2階建て一軒家を練習用にベテラン大工さんから直接技術を学ぶことができる。レッスン料金は一日5000円。これがそのまま大工の日当となる。受講生は実体験の中でベテランの技術が学べ、大工も納期に追われることなく次世代へ伝えることができる仕組みだ。
同社の代表取締役・津田直樹さんは、「DIYを広めていくのも工務店の仕事。なぜならDIYが身近になれば、生活者は目利きができるようになります。この結果、プロに任せる仕事としてクリエイティブなデザイン、生活を豊かにしてくるソリューションも高まるのではないでしょうか。同時に弊社も質の高い仕事に応えられる工務店になりたいと思っています」と話している。加えて「このままだと工務店や職人は高齢化でますます減っていきます。しかし、この課題は弊社だけではあまりにも大きな課題です。一緒にこの課題に取り組んでくれる『体験型DIYスクールTOCO CRAFT FACTORYのFC加盟店』も募っています。興味を持った工務店や、同業者さまのご連絡をお待ちしております」と声を強めていた。
【取材協力】株式会社TSUDA CONSTRUCION COMPANY津田工務店/大阪市東淀川区大道南2丁目14-6/電話 06(6370)3377