【外から見たニッポン】繁栄の米国、迷走の日本

 昨年に続き、今年もトランプ大統領に世界が振り回された1年だった気がする。

 就任早々から違法移民の強制退去を始めたかと思えば、4月には関税で世界を震撼させた。その後も次々と施策を打ち出して有無を言わせず執行している。

 客観的にみると「トンデモ大統領」に思えてしまうが、現実は問題を抱えながらも約45兆円もの関税を徴収し、それを使って経済対策を打つという。全国民に約30万円を配るという話もあるし、決定事項としてはトランプ大統領の在任中に生まれる子ども全員にトランプ口座を設定し、そこに国から1千㌦を預金してくれるという。加えて18歳以下の全員にも個別口座を設定し250㌦を提供する予定だ。この資金に親が一定額までを毎年追加でき、口座の資金は投資信託などで投資される。子どもが18歳になる頃にはそれなりの額が積み上がるので、大学進学や起業など人生の選択肢を広げられると言うのだ。これこそ資本主義市場の考え方であり、アメリカンドリームなのだろう。

 比較するまでもないが、経済対策に「おこめ券」を配り、JAを潤そうとしているどこかの国とは大きな違いだ。

 強引な関税という徴税には問題があるとはいえ、得たお金を国民に還元し、未来を担う米国の子どもに使うというのは見事としか言いようがない。

 このトランプ大統領の施策に呼応したのがデルコンピューターの創業者でビリオネアのマイケル・デル氏。個人資産から約1兆円を寄付し、トランプをサポートする。約2500万人の子どもたちに一人当たり250㌦を提供するらしい。今後、彼に続くビリオネアが名乗りを上げるのは時間の問題。向こう3年間に生まれる米国の子どもたちは本当にラッキーだ。このことを「不公平だ」という声は今のところ聞かれていない。

 インフレが収まっていなかったり、生活が苦しい人が増えたり、失業者が増えたりしていると言われるが、それでも米国経済全体は強い。今年の後半には多少は停滞感が見られたが、株価は年初から上がり続け、AI(人工知能)関連ビジネスのけん引もあって最高値を更新し続けている。来年になるとトランプ減税で多くの人が税金の還付を受け、さらに関税で得たお金で現金給付もされる。手元資金がかなり増えるので、幅広い業界に現金が還流するだろう。金利も下げ傾向になるので、個人の住宅購入や企業の投資も活発になりそうだ。

 そうこうしているうちに、トランプに強要された何十兆円もの外国企業の設備投資が動き出し、そこでもビジネスが生まれ、雇用を生み出す。長期的にどこまで機能するのかは見えないが、当面の経済対策としてはかなりポジティブな影響をおよぼすのではないだろうか。

 今後、ウクライナでの和平交渉が成立すれば、破壊された国土の復興があり、また防衛力強化を語って大量の軍備を売りさばくだろう。その莫大な利益を得るのも米国企業であり、アメリカ政府となる。

 次々と打ち出される施策は誰が考えているのだろう? と思うと同時に、それだけ自由で柔軟な発想ができ、これを考えつくだけの知識を持ち、物事に精通した人材がいるという点も、日本とは大きく違う。

 この、わが道を行くトランプ大統領とどう渡り合っていくのか? その中で私たち日本人の生活をどう良くしてくれるのか、日本政治に何を期待できるのか?

 高市政権の支持率は高いが、未だこの国の未来へ繋がる方向性は見えないし、「おこめ券」程度では生活は楽にならず、景気もよくならない。もっと根本的な改革を行い、ムダを削ぎ落とし、未来に繋がる投資に集中してもらいたいものだ。少なくとも短命政権にならないことを期待したい。

【Spyce Media LLC 代表 岡野 健将 プロフィル】
米ニューヨーク州立大ビンガムトン校卒業。経営学専攻。NY市でメディア業界に就職後、現地で起業。「世界まるみえ」「情熱大陸」「ブロードキャスター」「全米オープンテニス中継」などの番組製作に携わる。帰国後、ディスカバリーチャンネルやCNAなどのアジアの放送局と番組製作。経産省や大阪市等でセミナー講師を担当。文化庁や観光庁のクールジャパン系プロジェクトでもプロデューサーとして活動。

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