お墓が遠方にあって管理が難しい、金銭的な負担が大きい、後継者がいない――。悩みの内容はさまざまだが、多くの人が「お墓の問題」を抱えている。
日本では江戸時代以降、先祖代々が同じ墓に入る「家墓」が一般的だった。「家のお墓を子孫が守り継ぐ」という考え方は、長く日本の供養文化を支えてきた。しかし、核家族化や少子高齢化、都市部への人口集中など、社会の変化によりその在り方が次第に合わなくなってきている。
こうした時代の流れを受け、1990年代ごろから多様なお墓のかたちが広がった。自然に還ることを願う「樹木葬」や、遺骨を海や山にまく「散骨」、寺院などが管理を続ける「永代供養」など、価値観やライフスタイルに合わせた選択が増えている。
一方で、世代間での考え方の違いや費用面、場所の問題など、供養にまつわる悩みは尽きない。伝統と現代のはざまで、“自分らしい供養”をどう選ぶかが、いま問われている。

大阪市福島区鷺洲にある寺院「了徳院」では、近年、お墓に関する相談が近隣住民から増えているという。「身寄りがないので亡くなった後のことを任せたい」「入れるお墓がないため、このお寺で預かってほしい」といった声が寄せられ、実際に遺骨を預かっている例もあった。
そうした現状を受け、住職の髙岡義光さんは「地域の人が安心して供養を任せられる場所を」との思いから、この9月、境内に合祀塔を建立。永代供養に対応できる体制を整えた。
永代供養ができる寺社は大阪市内でもそれほど多くなく、どちらかといえば四天王寺を中心に市南部に多い印象だ。最近、人口が増加傾向の福島区内にはお墓が少ないこともあり、「待っていた」との声が近隣住民から上がった。


了徳院は境内の一つ一つが厳かでありながら、アットホームで親しみやすい雰囲気で、「近所の方が散歩の休憩に立ち寄って腰掛けたりしていますよ(笑)」と髙岡住職は話す。
〝祈り〟を大切にする髙岡住職は、「祈りをささげる空間として寺の価値は下げてはいけない、なので境内にある一つ一つにこだわっています。一方で、近くに寄ったついでに数分手を合わせに来るだけ、というように、生活の中に自然と祈りが入り込むことが必要だと思っています。そうすることで、心がニュートラルになると思うんです」と話す。
今回の塔も、西日本で人気の国産墓石「大島石」を使用し、2.8メートルもの高さを誇る。髙岡住職は「お墓離れが進む現代ですが、なるべく自宅から通いやすい場所にお墓を置いて、短い時間でもいいので『祈る』ことを大事にしてもらえたら」と語る。
■了徳院/大阪市福島区鷺洲2丁目14-1/電話06(6451)8877