【外から見たニッポン】フジテレビ会見の問題点はここだ! 米企業の対応と比較

Spyce Media LLC 代表 岡野 健将

Spyce Media LLC 代表 岡野健将氏
【プロフィル】米ニューヨーク州立大ビンガムトン校卒業。経営学専攻。NY市でメディア業界に就職後、現地で起業。「世界まるみえ」「情熱大陸」「ブロードキャスター」「全米オープンテニス中継」などの番組製作に携わる。帰国後、ディスカバリーチャンネルやCNAなどのアジアの放送局と番組製作。経産省や大阪市等でセミナー講師を担当。文化庁や観光庁のクールジャパン系プロジェクトでもプロデューサーとして活動。

 1月27日、2回目の名誉挽回のための記者会見を開いたフジテレビ。正式にはフジテレビの親会社フジメディアホールディングスが開いた記者会見だ。
 問題点をズバリ言うと「記者会見を行う目的や理由が全く定まっていないこと」
 代表が辞任し、できる範囲で説明すれば何とかなると思っていたかもしれないが、そんなことは微々たる動きでしかなかった。皆が知りたいのは、①実際に何があったのか? ②フジテレビはどう関与していたのか? ③不祥事の責任を誰がどう取るのか? 大きくはこの3点になるだろう。
 この質問に答えることこそ会見を開く理由だったはずなのに、全てお茶を濁すような回答しか用意していなかったことが大失敗の要因だ。 

 ①に関しては当事者間に守秘義務があり、フジテレビ側で掌握できていることが限定的なので、最初に触れられないことの範囲を明確にし、どんなプロセスを経て何が判ったのかを説明してから質疑応答に入れば、あれほど無意味な質問を受け続ける必要はなかったはず。
 ②に関しても、社の命運がかかっているにも関わらず、当該社員Aに対して、徹底的なヒアリングをせず会見に臨んだことが失敗の要因。社員なので徹底的に調べ上げ、問題の日以前からのAの行動や関与も含めてこれまでの経緯を掌握していれば、こちらも無意味な質問でどう喝まがいのことまでされることはなかっただろう。
 どちらも危機管理意識のなさと危機管理対策の仕組みが存在しないことが招いた悲劇だ。
 ③に関しては、代表権を持つ2人が辞任したが、それ以外の役員や関係者に関しても、誰がいつ辞任するのか、後任に関しては具体的にどう決定して行くのかまで踏み込んで説明すべきだった。当然日枝氏の処遇も明確にする必要があったことは言うまでもない。

 この3つのことを隠し事なしに伝えること、判っていることと判っていないことを明確にしていれば会見は数時間で終わったはず。
 その上で、判らないことの解明を第三者委員会に委ねる、とすれば誰もが納得したのではないか。もしかしたらスポンサー企業も少しは前向きに話し合いに応じてくれたかもしれない。
 この程度の情報開示は間違いなく彼らにも出来たはずだ!

日本企業は対応下手

 企業の不祥事は日本だけでなく海外でも起こるが、その対応が日本企業は下手すぎる。米企業の一般的な対応と比べてみると以下の点が大きく違う。
 まず、あのような会見には社内の法務部、または外部から弁護士が同席する。特に守秘義務の問題を抱えていたので、役員が無責任に回答するのではなく、弁護士が「法的制限があるため、そこは答えられない」と言い切れば、それ以上責められない。もし責めたければ質問する記者が弁護士と法的解釈論を交わす必要があるので一気にハードルが上がり、無知な質問への抑止力になる。
 会見を仕切っていたのはフジテレビの広報責任者だったが、それも大きな間違い。仕切り役は会見を滞りなく運ぶためにいるのであって、両サイドの発言を制限したりするためにいるのではない。

 米国では危機管理に長けたPR会社などに依頼すれば、あのような場面をきっちり取り仕切ってくれる。フジ側の人間でないため、質問以外を延々と語る記者たちを一刀両断で押さえ込むことが出来、最悪の場合は退場させることもできる。
 3つ目は、冒頭で述べたように会見の目的や理由を明確にしているかいないか。きっちり設定していないから、説明も中途半端になり、質問に明確に答えられない。
 皆さんが簡単に目にできる危機管理の会見シーンは、ホワイトハウスの報道官が行う会見だ。米国が危機に面した時や何かトラブルがあった時、バリバリのジャーナリストたちが手厳しい質問を浴びせるが、報道官は答えられることは回答し、出来ないものは「調べて回答する」や「答えられない」とはっきりと言う。それを見れば危機対応のやり方が分かる。

 最後に会見以前に問題なのは経営者の経歴。ドラマやバラエティー番組を大ヒットさせたプロデューサーと言えど、所詮一介の会社員。年商2000億円超の企業経営が出来ると思うところが大きな間違い。米国では上場企業の経営はプロ経営者が行う。例えば、私の大学の先輩に当たるデヴィッド・ザスラブ氏は、学部卒業後、ボストン大学法科大学院を出て弁護士として活躍。その後、大手制作会社などで経営手腕を発揮し、ネットワーク局のNBCを大躍進させ、現在はワーナー・ブラザーズ・ディスカバリーのCEO兼社長。同社を一大メディア企業グループに育て上げた。彼はメディア企業経営の成功者だが、番組など一度も制作したことはない。
 今回の事案が落ち着く頃にはプロ経営者を迎え入れてフジテレビを根本から改革してもらいたいものだ。

 話は変わるが、私自身、過去にフジテレビの番組制作に関わったことがあり、何度もフジテレビ社屋へ行って打ち合わせに参加した。女性社員を含む会食にも何度も参加した。確かにフジテレビの社風は他局に比べ、少しゆるいかもしれないが、そのゆるさが80~90年代に大ヒット番組を生んだ土台になったことも事実。ゆるさの使い方が問題なのであって、ゆるさ自体を問題視するのは少し違う気がしている。
 私が参加した会食も仕事なのかプライベートなのかと問われても、元々仕事とプライベートを分けて考える働き方をしていないので、どちらとも言えない。渋々行ってみたら思わぬ出会いがあり仕事に繋がることも多々ある。海外でのイベントなどに参加すると、昼間より、夜のパーティーや飲み会で築く人脈こそが本物ということを皆知っている。
 ただ、時代は変化しているので、色々と配慮する点はあるだろうが、会見で「全てフジが悪い」的な発想では何も解決しないし、また同じ過ちが繰り返されてしまう。
 そうではなく、何が問題で、どうすれば解決出来るか、再発防止出来るのかが大事。フジテレビの大失敗会見を反面教師に、危機に面した際にどうすれば良いかを学んでもらいたい。

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