【わかるニュース】現場の労働力足りない!! 社会生活が回らないインフラ危機

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 元日に発生した能登半島地震。関西に暮らす私たちは、過去に阪神・淡路大震災(1995年)や大阪北部地震(2018年)を経験しているが、「能登は復興が遅いな。なぜ仮設住宅も建てられないの?」と不思議に感じているはずだ。
 エッセンシャルワーカー(以下EW)という言葉がある。社会インフラを維持していくのに必要不可欠な人材のことで、2020年の新語・流行語大賞にもノミネートされた。具体的には、電気やガス、上下水道、ゴミやし尿処理、警察や消防などの公的サービスに加え、大工や左官などの建設業、トラックなど物流・郵便宅配便などの配送、医療・介護、保育・教育、農水畜産、スーパー・コンビニ、金融や情報通信、鉄道・バスなどを維持する現場担当者を指す。
 能登復興だけでなく、いま社会全体でEWが足りない時代。日本を滅ぼす『少子高齢化』の波は最も弱い部分を着実に侵食している。

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新自由主義のわな

 大阪などの大都会に暮らしていると〝いつでも、何でも〟ほしいものが手に入り、そしてポイ捨てできる。この当たり前の生活も、ひとたび災害などでストップすると、途端にあちこちで大騒ぎになる。公共サービス、生活インフラ、生活必需品の提供に関わる人々は「出来て当たり前の単純作業」とみなされ、長く低賃金、長時間労働を強いられてきた。
 しかも小泉純一郎総理の「官から民へ」の大号令に乗った郵政民営化の流れの中で、新自由主義が台頭。このエッセンシャルワーカー(以下EW)の待遇は改善されないまま、非正規労働者へと追いやられ、日本は21世紀に入り本格的な「労働供給制約社会」に陥った。
 つまり少子高齢化→人口減少→労働者減の三重苦だ。すでに2040年には1100万人の労働者不足が見込まれている。円安の経済弱小国の日本には、頼みの外国人労働者の助っ人は来やしない。
 一方で急速なデジタル社会の到来と国境を越えたデジタルトランスフォーメーション(DX)の進化で、人々は「人口が減ってもITで代替できる」と単純に考えて、自宅でパソコンやスマホ・タブレット一つで仕事に取り組むオフィスワーカーがもてはやされるようになった。実はここに重大な雇用のミスマッチの落とし穴が隠されている。

日韓「少子化」止まらず

 日本は2008年をピークに人口減へと転じた。55年には1億人を切り、今世紀末には6300万人と満州事変などがあった昭和1ケタ台の水準に戻る。しかも、ただ減るだけではなく、高齢化率4割の老人国。生産年齢人口(15~64歳)は23年に7400万人いたが40年には6300万人に減少。「2025年問題」(戦後ベビーブーム 〝団塊の世代〟全員が75歳以上の後期高齢者に)で高齢労働者は頭打ち、女性の就業率も他の先進国並みまで高まり、これ以上は望めない。
 日本と韓国の出生率低迷の少子化には訳がある。女性が家庭で育児・家事を受け持つ伝統性への重圧感が重く、出産以前に非婚率そのものがどんどん高まっているためだ。
 能登復興の遅れに象徴される労働市場の枯渇。今春、上場企業で賃上げブームが起き、政府や経済界は「デフレ脱却の入り口」と都合良く宣伝したが、実は〝人材確保の切り札は報酬増〟と分かっているからこその動きで、だまされてはいけない。

日本〝人材倒産〟危機

 雇用の指標となるわが国の「有効求人倍率」は常に「1」以上で、これは職種さえ選ばなければ職がある状態を示す。詳しく見ると、一般事務「0・4」に対し、サービス業「3」、介護「4」、土木「6」とかなりのバラつきが見られ、恒久的な人手不足の業界が透けて見える。
 こうした業界はこれまで、10年代中ばに定年退職した団塊世代とそのジュニア世代(50代前半~40代後半)で就職氷河期に正規採用されなかった人材で主に支えられてきた。「大学を出てホワイトカラーを目指したがITデジタルには弱い」層の受け皿だったのだ。しかし孫世代(20代)の価値観が劇的に変化。人数も他の世代に比べ多い訳ではなく、就職先の〝働きやすさ〟より〝やりがいと成長〟を求め、さっさとネット経由の転職が当たり前になった。

有効求人倍率の推移

 人手が足りないと悪循環に陥り、果ては「人材倒産」を起こしかねない。生産性が下がる→社員個々への負担増→意欲低下で「給与に見合わない」と判断され退職するの図式だ。昨今では退職者が、在籍した企業のマイナス情報をネットで発信することも簡単だから、人材確保へさらなる追い打ちを掛けられることに。
 すでにインバウンド急増のビジネスチャンスに従業員・アルバイトが確保できず、仕方なく営業時間の短縮や顧客の受け入れ制限をする飲食店や宿泊施設も珍しくない。IT活用やロボット導入など「省人化」で代替できる分野もあるが、EWは大半が人の判断が必要な分野だし、ノウハウの伝承も人と人のコミュニケーションが欠かせない。新自由主義の弱肉強食社会は、日本の伝統的な終身雇用制度を崩壊させ、株主など利益権者を優先。働く者の賃金は外部委託と非正規雇用で低く抑えられ続けた。
 都会と地方の格差は広がるばかり。東京都知事選で「(東京は)地方が育てた若者を全て飲み込むブラックホール都市」とやゆされたが、大阪・名古屋など3大都市圏はまだマシ。地方はすでに人口分布が〝広く薄く〟なって介護や買い物、配送・物流などのインフラ維持に時間と人が取られ、都市並みの料金では採算が成り立たず、機械やAI置き換えだけではどうにもならない。
 地方は都会以上に人材確保が出来ない。中小企業の多くが資金力不足→社員高齢化でデジタル化に遅れ→若者が見切りをつけて都会へ流出、の悪循環だ。円安で人件費も安い日本は外国企業の進出意欲は高いが、そうなるとますます人材獲得競争に拍車が掛かり日本企業は勝てない。

EW(エッセンシャルワーカー)のジレンマとは?

 EWの課題は①業務量が多く責任は重いのに賃金低め②不可欠ゆえに休日が取りにくい③リモートワークや機械化が困難、と共通している。
 個々の状況を見てみよう。まず医療・介護。25年の介護サービスニーズは10年前と比較し「在宅」25%、「派遣」35%、「施設」25%増える。訪問先で細々とした作業が多くヘルパーの絶対数が足りず小規模事業所はいつも綱渡り。女性8割の職場はほとんどが非正規。介護保険を利用する人は年々増え続け厚労省は介護報酬の夜間対応料金などを減額する切り捨て措置。もはや「介護保険適用は絵に描いた餅」となる介護難民も各地で出始めている。
 ゴミ収集は本来行政の仕事だが、民間業務委託は年々増え続け今や全国平均で9割に。担当職員の平均年齢は60歳代に上がり収集車運転は17年以降取得の普通免許では出来ない場合もあり、若い世代の参入を妨げている。
 運輸・物流は長時間勤務・低賃金で、かつて「仕事はキツいが稼げる」から「キツいし稼げない」業種へと落ち込んだ。トラック運送は何重もの下請け体質でそのたびに中抜きされ、土日祝に出勤してもドライバーの賃金は安いまま。宅配便はコロナ禍後、年間50億個と増加の一途をたどるが「1個配達で幾ら」の計算で再配達負担が重い。ドローンやロボットでの配達置き換えは容易でなく、置き配やスマホによる時間指定が当たり前になりつつある。スーパーやコンビニへの配達もドライバーが足りず回数減による欠品も覚悟しなければならない。
 建設は戦後整備されたインフラ改築の公共事業が増加しているのに、体力勝負だけに高齢者離職が相次ぎ若年者参入は少ない。
 警察・消防も例外ではない。大阪府警の場合、18年に1万人いた受験者が3割減の7000人弱に。地方はもっと減っている。給与は安定していても「キツい・汚い・危険」の3Kイメージが拭いきれない。
 スーパー・コンビニのパートはITやロボットで在庫管理は出来ても、欠品補充や惣菜作りは人手に頼るしかない。
 鉄道・バスは自動運転化を見通すが、むしろ鉄道の保線やバスの整備士の方が足りない。

収入増へ知恵絞れ

EW確保へ妙案はあるのだろうか?

①何より賃金を上げる
 賃上げに株主らが抵抗するのなら、業績に応じた一時金支給も。

②長時間労働の解消
 シフトを見直すと更に人がいるので生産性向上は欠かせない。

③働き方改革
 高齢者や女性が働きやすい職場環境に、などが主な手だて。

これだけでは到底不十分で、副業を全面解禁し収入と、異なる分野へのスキルをアップさせる。さらに会社が学び直し制度を用意し、資格や異業種知識の取得をさせるなど創意工夫が大切。長年の常識だった「ホワイトカラーがブルーカラーより上」の固定概念排除がまず先決。その上で、必要欠くべからざるEWに対し市場原則で放置するのではなく、税と社会保障で下支えする事への議論も必要だ。