政府は物価高騰を受けた緊急対策でガソリン価格抑制のための補助金や、生活困窮者支援など総額は6兆2000億円を決めた。財源として、新型コロナウイルス対策予備費を支出するほか、5月中に2022年度補正予算案を国会に提出する。
6兆2000億円で需要不足を補うということだが、単純に喜んではいけない。「これではまったく足りない」と言う専門家の声もあり、その理由には説得力がある。
コロナが落ち着いていた昨秋の第3四半期でも17兆円の需要不足が発生しており、行動制限が取られた第四半期はさらに需要不足が拡大していることは間違いないからだ。
「個別価格が上がるときには減税が効果的」「ガソリンの補助金の拡充のみで場当たり的な施策」「低所得者の生活が支えられるように、社会保障制度を見直すことが優先ではないか」と問題点を指摘する声は強い。
〝ガソリン補助金〟の一本足 夏の参院選を前に「値下げ政策」に様変わり
今回の政府の緊急経済対策は原油高対策、エネルギーや食料などの安定供給対策、中小企業対策、生活困窮者対策の4つが柱。国費およそ6兆2000億円を投じ、民間支出を含む事業規模は13・2兆円となる。しかし、各種支援や補助、給付が中心で「給付金は一時しのぎ。減税が効果的」という声が強い。
参院選を控え「値下げ政策」
エネルギーの高騰は国民生活や企業活動に大きな影響を及ぼすが、政府の対策で目立つのはガソリンの補助金の拡充のみだ。一時的な急騰を和らげる激変緩和の措置だったはずが、夏の参院選を前に、ガソリン高に苦しむ家計や企業の負担軽減を狙った「値下げ政策」に様変わりした。「補助金を手厚くし過ぎると、制度の終了が難しくなる」という声も上がる。
補助金よりも減税だ
元内閣官房参与で数量政策学者の高橋洋一氏は4月27日のニッポン放送「飯田浩司のOK!Cozy up!」に出演し、「需給ギャップ(GDPギャップ)というものがあり、6兆2000億円の対策では需 要不足で話にならないレベル」と批判。経済対策としては「エネルギー価格が上がる、原材料価格が上がる。個別の価格が上がるというだけです。そうすると、そこに掛かっている税金を安くするという単純なことだけなのです。個別価格が上がるときには減税が効果的。補助金では難しい」と解説。
具体的には「エネルギー価格を下げるために、トリガー条項の凍結解除などガソリン税の減税を行う。そして個別の原材料価格が上がったときには、個別物品消費税、軽減税率です。そこを避けるのでまともな対策にならない」と、補助金より減税を提言していたが、確かにシンプルで説得力がある。
欧米各国との政策の違いは何か
日本は欧米と比べるとエネルギー構造転換のスピードが遅い。欧米を中心とした高騰対応は短期と中長期の2つに分かれる。当面の高騰への対処と脱炭素を基本とした広範囲のエネルギー政策の転換である。
短期的には、値上げの緩和策と高騰によるダメージへの支援で、イギリスの燃料税の一時的な減税やアメリカのガソリン税の免除などエネルギーへの課税引き下げなど。また、高騰ダメージへの支援策は、イギリスやスペイン、イタリアなどでは低所得者層やエネルギー集約型の企業への補助などがみられる。一方、中長期も欠かせない。多くの国では戦争を含むカントリーリスクなどから免れることのできない化石燃料からの脱却(=エネルギー転換)を加速させる再生エネへの投資減税、EVや蓄電池の普及、水素エネルギーの実用化など再生エネルギー拡大への注力が進んでいる。
物価高対策の6・2兆円の概要
原油高騰対策 1.5兆円
石油元売りへの補助金拡充⇒25円→35円
漁業、農林業、運輸業、生活衛生関係⇒営業支援
エネルギー・原材料や食料などの安定供給対策 0.5兆円
子育て世帯⇒省エネ住宅購入を支援
国産木材⇒輸送費など支援
国産小麦⇒生産拡大を支援
クリプトンなどのガス⇒国内生産の設備費用支援
中小企業対策 1.3兆円
実質無利子・無担保融資と危機対応融資の期限⇒9月末まで延長
「事業再構築補助金」⇒拡充
日本政策金融公庫などの「セーフティーネット貸付」⇒金利の引下げ
生活困窮者支援 1.3兆円
低所得の子育て世帯⇒新たに児童1人5万円を給付
住民税が非課税世帯⇒給付金(10万円)「地方創生臨時交付金」⇒拡充し、生活困窮者など支援
予備費の確保 1.5兆円
物価高対策で支援⇒予備費を拡充
コロナ予備費を改組⇒物価高対策に使途拡大