7月3日から2004年以来、20年ぶりに刷新される新紙幣。新しいお札は、千円札に破傷風の治療法を開発した細菌学者「北里柴三郎」、五千円札に日本で最初の女子留学生として米国で学んだ「津田梅子」、一万円札に〝近代日本経済の父〟と呼ばれる「渋沢栄一」の肖像が描かれる。中でも一万円札は40年ぶりの新デザインとなる。
一般に、新紙幣の目的は偽造防止とされるが、一方で中高年層からは「新札に代わったら〝タンス預金〟の諭吉の1万円札はどうなる?」と心配する声もある。そのあたりを考えてみたい。
55兆円の「タンス預金」で経済活性化 キャッシュレス化の推進も
偽札が少ない国
今回の紙幣刷新は発表から刷新までの間隔が5年で通常より長い印象だ。新紙幣のデザイン変更の大きな理由のひとつは、偽造(偽札)の防止だ。新紙幣では、角度を変えて見ると回転した立体画像が浮かび上がるホログラムなど、最新技術が取り入れられている。
ただ、世界的にみれば日本は偽札が少ない国。「新紙幣にする必然性は乏しい」との分析も。
偽造防止以外では、キャッシュレス化の推進が考えられる。日本は観光立国を掲げ、主にインバウンド需要を取り込む目的でキャッシュレス社会を目指している。日本のキャッシュレス決済比率2021年に32・5%まで上昇しているが、政府は「25年の大阪万博までに40%、将来的には世界最高水準の80%台」を目指している。
人口減少が進む日本では、生産性向上や社会の効率化は必須の課題。ただ日本では現金信仰が根強く、ATM網のインフラが普及し、逆に日本のキャッシュレス化は遅れていのが現実だ。
なぜ「タンス預金」をするのか
新紙幣が発行されても、旧紙幣が法的に使えなくなることはない。それでも、現実的には時間経過とともに、流通は確実に減少し、タンス預金で眠っていた旧紙幣は銀行に持ち込まれることで、国民の資産が把握できるようになるという効果が考えられる。
タンス預金は、まとまった資金を自宅に保管しておくことで、人の目に触れないてタンスの中をイメージするが、現実には冷蔵庫や仏壇の中、靴箱など置き場はさまざま。ただ、近々支払う予定のあるお金や前もって銀行から引き出して保管しておくような場合は、タンス預金には当たらない。
「タンス預金は、いつでも自由に使える〝へそくり〟のようなイメージだが、相続税や贈与税の課税対象となる資産。資産として計上しなければペナルティーの対象となります」(大阪市内の税理士)。
タンス預金のメリット
・いつでも自由に使える
・銀行の破綻などから資産を守ることができる
・相続発生時に口座が凍結されても困らない
・残高証明がないため、表に見えない資金として管理できる
・金利がつかないため、経済情勢の影響を受けない
・家族に知られずに貯蓄ができる
タンス預金のデメリット
・盗難、災害のリスク
・タンス預金が資産隠しとみなされる
・相続時にトラブルになる可能性
・自宅内で紛失
(家族に処分されてしまうリスク)
KSKシステムで資金の動きを把握
日本銀行の調査によれば、23年第1四半期における家計の現金保有額は約106兆8530億円。仮に家計部門の現金のうち半分をタンス預金と仮定すれば、55兆円程度。政府は新紙幣を発行することで、タンス預金の一部が消費や投資に回ることで経済を循環も期待しているとみられている。
現在、ほとんどのお金が現金で移動することはない。入金自体は銀行口座にされ、それを引き出したものをタンス預金として自宅保管する場合がほとんど。「タンス預金がバレる仕組は、KSKシステム(国税総合管理システム)の活用です。このシステムは、国税庁や全国の税務署が保有する、納税者の申告情報を管理しているシステムで不自然な資金の動きに関しては、、KSKシステムを通じて把握できる。銀行の預金口座から年間110万円以上の贈与は課税対象になるので、指摘される可能性が高い」(同)
このため、万が一タンス預金をする場合でも、意図的に脱税していたとみなされたケースは無申告加算税に代わって「重加算税」が課される。ある程度まとまった金額になると、税務申告の際には資金として申告し、〝隠し財産〟とみなされないように注意が必要だ。