【わかるニュース】5年後に政権交代を? 躍進「維新」が目指すもの

5年後に政権交代を? 躍進「維新」が目指すもの

 〝吉村神人気〟で維新が大躍進した4月の統一地方選。知事選では吉村洋文知事(47)が7割を軽く突破する得票率。新人の横山英幸府議(41)が立った大阪市長選も約65%の得票で圧勝した。さらに府内では、自治体首長選で維新系候補が次々と勝利し、議会でも第1党に躍り出る結果となった。
 以前は民主(現在の立憲と国民)と共産が、自民批判の受け皿となっていたが、今ではその役割を維新が取って代わり、今回はさらに自民支持層にまで食い込んだことが分かる。

 大阪ローカルだった維新の風は、閉塞感が漂う全国へも一気に拡大。全国の道府県議選で前回の67から124議席へとほぼ倍増。馬場伸幸代表(58)は「(全国で地方議員数)600議席を達成できなかったら辞める」と公言していたが、800人に迫る大旋風を巻き起こした。

 以前は〝橋下徹と大阪都構想〟の印象だけが強かった維新。今回の選挙で何が起きたのか。そして今後は、どこへ向かおうとしているのか?

「維新」生みの親は、マンネリ大阪自民の失政
地方選公約から浮かぶ「本音」は!?

4月の統一地方選は〝吉村神人気〟で維新が大躍進した=写真は記者団の質問に答える吉村知事
4月の統一地方選は〝吉村神人気〟で維新が大躍進した=写真は記者団の質問に答える吉村知事

見限られた自公政権の未来

 大躍進を果たした維新を支えているのは従来の若者層だけではない。経済的にも競争勝ち組の新自由主義者で自己責任論に納得できるエリート層たちだ。彼らは政治の閉塞感や財政の現状を悲観しており、自公政権の〝現状肯定〟体質にすっかり嫌気が差している。

 財務省の言いなりで〝先祖返り〟増税体質が顕著な岸田文雄総理(65)。安倍派を裏で牛耳る森喜朗元総理(85)をはじめ、今も派閥を率いて黒幕然と振る舞う麻生太郎元総理(82)、二階俊博元党幹事長(84)らでは、到底「将来へ期待が持てない」と感じている。

維新と公明 似ているようで違う

 「維新と公明は似ている」という見方がある。地方議員からの積み上げ型、党の力で運営しトップの号令一下で動く体質、保守的で自民と親和性が高い、有権者の「好き・嫌い」がはっきりしている、などが確かに似る。

 しかし政権との関わり方は大きく異なる。維新の政権奪取計画は、平均して2年半ごとに行われる衆院総選挙の2回分となる5年で、まずは自民党に肉薄する。その後、7年先の3回目の総選挙が行われる2030年前後で政権交代を狙っている。

 維新の考えは自公のような連立政権ではなく、あくまで単独での政権奪取だ。「大臣ポストをほしがって自民党にすり寄ったら、アッという間に有権者に見放される。そうして過去に消えていったミニ政党は多い」と分析しているからだ。この点が公明の「政権内にいること第一」とは異なる。すでに衆院過半数を持つ自民の一部から「ゲタの雪」(邪魔だがくっついて離れない)と揶揄されながらも離脱しないのとは大きな差がある。

 維新の問題点は今後の候補者擁立の加速だろう。現在の衆院議員は41人。他に立候補予定者の選挙区支部長は30人程度しかおらず、候補者が100人前後足りない。党勢の拡大に伴い、かつて政権獲得前の民主党がそうであったように、社会的にも認められた官僚や経済人らが次々に手を挙げる可能性が増しており、自民だけでなく公明の現職議員も戦々恐々だ。

 維新もかつては地方議員の不祥事が多かったが、自民の場合は「進退は本人が決めること」と離党で済ませるのが大半なのに、維新は除名や議員辞職勧告で徹底処分。有権者の信頼を取り戻し続けたことも好感されている。

維新の重点施策はコレだ

 では、維新の目指す将来像は何か? 統一地方選の大阪維新マニュフェストから見てみよう。
 〝一丁目一番地〟の「大阪都構想」は今回公約に入っていない。住民投票で否決され、橋下徹氏(53)や松井一郎氏(59)がそれぞれ責任を取って政界を去った。大勝負ではトップが進退を賭ける気質に党員は奮起し、有権者にも分かりやすい。

 今でも「府市の連携で成長を実現できる」という表現で府市統合は諦めていない。しかも府、大阪市だけに留まらず、堺市や東大阪市などの一体化も視野に入れている。

 最も力を入れているのが「日本一の子育て・教育サービス」で、大阪は0歳児から大学の高等教育まで無償化された。実際には国の施策で、大阪が独自にやっているのは私立高と大阪公立大の授業料(所得制限年収390万円以下)だけ。しかし、かつての維新の取り組みが国に影響を与えたのも間違いないだろう。今回の統一地方選では、所得制限撤廃を掲げたから実現するかが見ものだ。

 次は「府市一体の成長戦略」。強調しているのは府内市町村の合併を含めた連携だ。ゴミ処理や消防などを自治体ごとに整備するのではなく、共同で行うことでスケールを大きくし、ムダを省くというものだ。ただ、府市病院機構の統合については、府内のコロナ死者数が全国ワーストだった現実を考えると、府民に納得を得る必要がある。

 維新のキメ台詞「身を切る改革」は、とどのつまり議員定数と公務員数の削減だ。ただ、国鉄と郵政の例から何でも〝分割民営化〟が良い訳ではない。JRの尼崎脱線転覆事故や不祥事続出のかんぽ生命、料金値上げと配達遅れの郵便事業など、国民にとって悔いが残る結果もある。

 また、維新は「副首都圏」という言葉が好きだ。「日本維新」の本拠を東京ではなく大阪に置き続ける方針を表明しており、あくまで大阪から「副首都圏」実現に必要な法整備や政府指針策定に動く構えだ。

 最後は「大阪・関西万博の成功」への強い意志。府市パビリオン建設費は当初の74億円から一時195億円まで膨らんだ。しかし、吉村知事のすごいのは「計画の甘さは確かにあった。でも万博は未来への投資だから」とあっさり非を認めるところ。官僚出身者や小池百合子東京都知事(70)のような〝上から目線の言い訳〟でないのが有権者にウケている。

 維新が本音で期待しているのは、万博会場となる夢洲に開場するIR(カジノを含む統合型リゾート)だ。日本初だけに開発から建設、オープン後は警備からゴミ処理まで新たな事業利権が一挙に生まれる。参入希望業者は引き続き自民を見限り、維新へとなだれを打って支持を広げそうだ。

維新が本音で期待している夢洲に開場するIR=写真はIR施設のイメージ
維新が本音で期待している夢洲に開場するIR=写真はIR施設のイメージ

変わらぬは「悪」の時代に

 最後に大阪自民の敗北原因について考えてみたい。長年にわたって府知事を国官僚、大阪市長を市幹部職員で順送りするのを黙認し、自分たちは国会議員から地方議員まで世襲中心の利権温存体質を維持し続けた。いわば自滅であり、今回の大阪の選挙でも前回維新に敗れた議員や首長がことごとく返り討ちに遭っている。リーダーの年齢を比べても両党には大きな差がある。

 「現状維持は退歩である」という言葉がある。大阪だけでなく自民は既得権にしがみつき〝老害・世襲〟でゆっくりと階段を降り始めたように映る。

 将来の日本政界は「エリート官僚体質で中央集権の自民vs泥臭い異質な人々が集まった地方分権の維新」という保守二大勢力激突時代が訪れそうな予感がする。