減税・バラマキ路線と一線画す「維新」 なぜ飛躍できなかったのか?

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〝無借金改革〟の行方 維新府政の成果と課題

 「我々は割を食わされている!」不満と不安を抱える有権者の怒りを代弁するかのように、先の参議院選では減税や給付、外国人規制を前面に訴えた政党が躍進した。中には国債増発による財源確保を掲げる政党もあり、有権者の「分配」への期待感が可視化された形だ。

 このポピュリズム構図は、米国のトランプ大統領や共和党の支持層とも共通する。ドイツの「AfD」、フランスの「RN」、イタリアのメローニ首相率いる「イタリアの同胞」など、各国で自国民ファーストのナショナリズムが台頭し、右派ポピュリズムが国際政治の潮流になりつつある。トランプ氏が掲げた相互関税政策は、世界を分断したかつてのブロック経済の再来すら想起させる。

 こうした世界情勢の中、日本もまた例外ではない。選挙戦では消費税の一時的な減税を訴える政党が目立ち、給付金政策とのセットで国民の関心を集めた。中には、「日本は借金をしても国内で国債を消化しているから財源はいくらでもある」とするMMT(現代貨幣理論)的な主張も見られた。

 しかし、国債は償還期限が来れば金利を付けて返済しなければならない。国の借金が膨らめば、国債価格が下落し、金利は上昇。結果として、円の信用格付けが下がり、民間の金利も上昇する。地政学リスクや中央銀行政策に敏感に反応しながらポジションを取るヘッジファンド(投機筋)も見逃さないだろう。住宅ローンや企業融資の金利が上がれば、個人消費や企業経営に深刻な影響が及ぶ。さらに、社会保険料の上昇や年金基金の国債運用損失にもつながりかねず、財政運営には緻密なバランス感覚が求められる。

減税・バラマキ路線と一線画す大阪モデル

 そんな中、減税やバラマキとは異なる路線を掲げたのが、日本維新の会だ。同党は「無借金」での社会保障改革を打ち出し、参院選を戦った。高齢者の医療費「3割負担」といった痛みを伴う行政スリム化による制度改革と財政規律の姿勢は、大阪での与党としての実績に裏打ちされたものといえる。

 大阪府の財政改革は、橋下徹氏が2008年に知事に就任して以降、大胆な支出削減と行政効率化によって「赤字体質」からの脱却を掲げて進められてきた。

 当時ほぼ枯渇していた財政調整基金は、2011年度に約1,385億円へと回復。その後も松井一郎・吉村洋文両府政下で積み増しが続き、2023年度末には2,262億円に達した。条例上の目標額1,400億円を大きく上回り、2024年度には2,266億円に達する見込みだ。維新府政はこの実績を「健全財政の証し」と強調する。

 一方で、福祉や教育分野への予算削減も進行。初年度には245億円の歳出カットが実施され、住民サービスの「切り捨て」との批判も受けた。また、2008〜2011年度にかけての財政調整基金の補填処理については、外部監査から「不適切な会計処理」との指摘もあった。

 府債残高は、2007年度末に約5兆8,288億円だったが、2010年度には6兆1,474億円まで増加。主因は国の交付税代替措置による臨時財政対策債の発行だが、2023年度末でも約5兆9,700億円と高水準で推移している。ただし臨財債を除いた一般債残高は減少傾向にあり、2024年度には約2兆6,000億円と見込まれている。

 なお、2001~2007年度に減債基金から借り入れた計5,202億円はすでに全額返済済みであり、現時点での借入残高は存在しない。

 府内総生産(GRP)は、リーマン・ショックやコロナ禍で一時的な落ち込みを見せつつも、2021年度以降は回復基調にあり、企業本社の転出は減少し転入が増加傾向だ。人口も2014年には転入超過に転じるなど、一定の好転もみられる。

 ただし、病床数の逼迫や医療資源の不足といった課題も表面化。これについては、長年の医療費削減政策や病院統合の影響が指摘されている。

 改革の効果は限定的と見る向きもあるが、維新府政は2023年度に270億円の黒字を計上。財政調整基金の規模も、太田房江府政時代から比べて約170倍に拡大した。政府の非効率性を批判したイーロン・マスクが構想する「政府効率化省」に先んじて、既に改革に着手しているという見方もある。

 批判の多かった2025年大阪・関西万博についても、今年8月で損益分岐点を超える見通しだとされ、大阪IR(統合型リゾート)においても、民間(オリックス・MGM)が約1兆2,000億円を出資し、府市は1,000億円強にとどまるとされる。

 維新の「無借金の行政改革」は、減税や給付政策とは一線を画す存在として、今後の全国政治への影響力がもっとあってもいいのではないか。一方で、住民サービスの質と財政健全化の両立という、地方自治の根本課題はなお解決を見ていない。評価の分かれる「大阪モデル」が全国に波及できるのか、その行方を見極めていきたい。

参考:https://www.pref.osaka.lg.jp/o070050/koho/kaiken2/20240214f.html?utm_source=chatgpt.com