不治の病克服へ挑むUAE 万博で示した再生医療の力

 大阪・関西万博のアラブ首長国連邦館(UAEパビリオン)で6月30日、万博公式プログラム「健康とウェルビーイング週間」に合わせて、医療と健康をテーマにした特別イベントが開催された。会場の座席はすべて埋まり、立ち見が出るほどの盛況となった。

ファティマ・アル・カァビー博士(右から3番目)

不治の病克服へ向けて

 この日は「UAEの文化遺産から再生医療・幹細胞分野の未来へ」をテーマに、アブダビ幹細胞センター(ADSCC)が進める先進医療の取り組みが紹介された。幹細胞治療の専門家ファティマ・アル・カァビー博士が血液がんの最先端治療「CAR─T細胞療法」について解説。患者自身の免疫細胞(T細胞)を取り出して遺伝子操作を施し、がん細胞だけを正確に攻撃できるようにする技術だと説明した。日本の漫画『ナルト』を引き合いに、「忍者がチャクラを使って特殊な力を得るように、患者の免疫細胞を〝ヒーロー〟に変えてがんと戦わせる時代が近づいている」と話した。
 同センターでは、脳腫瘍への幹細胞治療の応用や、iPSC(人工多能性幹細胞)から作製した膵島細胞による糖尿病治療の研究、自己免疫疾患の根治治療にも取り組む。目指すのは、これまで治療が難しかった病気を治す未来だ。具体的には、幹細胞治療と遺伝子治療を組み合わせることで、がんや糖尿病、パーキンソン病、多発性硬化症といった不治の病の根本治療を目標としている。抗がん剤や長期入院に頼らず、病気を早期発見し、短期間の治療で健康を取り戻せる社会の実現が見据えられている。
 さらにUAEは日本をはじめ、世界の研究機関とも連携を深め、治療費の高騰や医療アクセスの格差といった課題の克服にも取り組む。カァビー博士は「未来の医療は限られた人だけのものではなく、誰もが受けられる治療であるべきだ」と述べ、患者が平等に最新治療を受けられる社会の実現を目指す姿勢を示した。


予防医療への転換を加速

 6月27日には「ビジョナリー・エクスチェンジ」と題した講演が行われ、シェイク・シャフブート・メディカル・シティ(PureHealth傘下)のマルワン・アル・カァビー博士が登壇。「病気になってから治療する医療(シックケア)」から「健康維持・予防(ヘルスケア)」へと転換する国家戦略をUAEが進めていることを紹介。また、AIとDNA解析を活用して国民のゲノムデータを解析して活用する「エミレーツ・ゲノム・プロジェクト」の取り組みにふれ、個別化医療と予防医療を両輪とした国民の健康を長期的に支える体制づくりが進められていることを伝えた。
 同パビリオンは「大地から天空へ」をテーマに掲げ、宇宙、医療・健康、持続可能技術の分野で生命をエンパワーする未来像を発信している。その象徴である天空へまっすぐ伸びるナツメヤシの木は、UAEが大切にしてきた文化の原点と未来への挑戦が重なり合う姿を表している。今回のイベントを通じて、UAEパビリオンは、すべての人々がより健康に生きられる未来を構想するための国際的な対話の場としての役割を再確認した。そして「UAEは医療の変革を促す存在である」というメッセージを具体的な形で示していた。

マルワン・アル・カァビー博士