北欧5カ国が共演する癒やしの空間 3階「Nordic Food Bar」で北欧5カ国料理を

 デンマーク、フィンランド、アイスランド、ノルウェー、スウェーデンの北欧5カ国は、地理的に近接しながらも、それぞれ異なる文化、言語、習慣を持つ国々だが、共通する部分も多いということで、5カ国が1つ屋根の下で「北欧パビリオン」として出展することにした。

 過去にも5カ国で出展したことがあるのだが、それらは1970年の大阪万博と2005年の愛知万博だけで、それ以外は各国が個別に出展しているので、5カ国共同の出展が見れるのは日本だけの特権になる。

 北欧の伝統的な納屋をイメージしたという外観を持つ北欧パビリオン。

北欧パビリオン、万博

 日本で調達した木材を使用してイタリア人建築家の設計で建てられた3階建ての建物は、シンプルさと機能美を追求した北欧デザインが随所に反映されている。閉幕後はこのまま譲渡して日本国内で残しておきたいので希望者を探しているそうだ。

北欧パビリオン、万博

 そんな北欧パビリオン、1階の入り口から展示スペース内に入ると、そこには高さ6メートル以上ある2階まで吹き抜けの広い空間が広がっている。

北欧パビリオン、万博

 5カ国がそれぞれに展示を行っているのかと思ったら、そうではなくこの北欧パビリオンでは5カ国が連携し、テクノロジー、イノベーション、サステイナビリティの分野で共通の取り組みを紹介する、というスタイルを取っていた。
 そして、この空間に入って最初に感じることは空気。北欧は夏でも涼しい国々なので、室内の温度を外より少し低めに設定して、北欧の空気感が感じられる演出がなされているのだ。

 展示空間は「Whirl」と呼ばれ、渦巻状に上から吊るされた写真がが多数並んでいる光景がまず目に飛び込んでくる。

北欧パビリオン、万博

 これらは、日本のお米を使って作った白く半透明な再生可能な素材でできたライスペーパーに印刷されており、その上に時折、北欧の人々の日常を写した情緒溢れる映像が映し出される。

北欧パビリオン、万博

 最新のデジタル機器などは使用せず、その場の空気感から温度や香り、視覚、聴覚などの五感で北欧を体験できる没入型展示となっていることが特徴で、空間内に置かれたイスに座って、マイワールドに浸る、そんな平和な時間を過ごせるパビリオンがこの北欧パビリオンだといえる。空間のあちこちには北欧のメーカーが提供するとても座り心地の良いイスが置いてあり、座っているだけでリラックスできそう。

北欧パビリオン、万博

 また、各面の壁際には異なったテーマで分けられた3つの黒い岩のような造形物があり、そこには3つの事例を紹介する映像が用意されていて、人が近づくとセンサーが反応して映像が流れはじめる仕組みだ。

 それぞれ「ライフスタイル&ウェルビーイング」「モビリティ&コネクティビティ」「グリーン・トランジション&サーキュラー・エコノミー」の3つのテーマに分かれており、渦の中で探求されるテーマの答えとなるコンテンツで北欧が人を惹きつけて止まない理由を教えてくれる。

北欧パビリオン、万博

 例えば、北欧地域は、風力、水力、地熱といった多様な再生可能エネルギーに秀でており、アイスランドは地熱、ノルウェーは水力、デンマークは洋上風力、スウェーデンと世界の持続可能な開発ランキングで1位のフィンランドは原子力と水力、風力を組み合わせて利用している。また、ノルウェーの電力消費量の90%以上は再生可能エネルギーで賄われていることや、デンマークが電子政府ランキング世界第1位であること、電気自動車や公共交通システム、共有モビリティモデルを通じて持続可能な交通をリードしていて効率的で環境に優しい公共交通網は、国境を越えて広がり、特に電気機関車を使った列車が人気だということなど、多岐に渡る情報を知ることができる。

 展示空間で北欧の空気を吸って、北欧スタイルの生活や社会に触れた後は、3階にある「Nordic Food Bar」へ移動。巨大なログハウスのような作りの階段を登っていくと、壁面に使用されている木材の間には10センチ弱の隙間が設けられていて、そこから外気が流れ込み、自然の空調システムになっていることがわかる。

北欧パビリオン、万博

北欧パビリオン、万博

 風通しが良く、雨を防ぎながらも自然の風を取り込み、空調機械の使用を抑える設計で持続可能な建築を実現している。

北欧パビリオン、万博

 「Nordic Food Bar」では、北欧の味覚に日本の要素を取り入れた特別な料理の味わいを楽しむことができる。

北欧パビリオン、万博

北欧パビリオン、万博

 メニューにはミートボールやオープンサンド、シナモンロールなどと北欧産のビールが揃っていて5カ国の料理を楽しめる。

シナモンロール
スウェーデン風ミートボール

スモーブロー(デンマーク風オープンサンド)

 ここまで北欧5カ国が誇る社会システムや生活スタイル、社会との関わり方などの情報を得てきたが、日本とどう違うのかを聞いてみると、「一人一人が独立していて、自分でできることは積極的に行うことが習慣化されているので、行政頼みではない。そして誰もが行動を通してコミュニティに参加し、それが大きな社会を形成している」と教えてくれました。

 「手厚い社会保障があっていいなあ」と思ってしまいがちの北欧諸国だが、実際は各個人が独立していて自分でできることはどんどんやっていく、というのが北欧スタイルだと聞くとイメージが変わってくる。そしてこれこそ今の日本人が最も学ばなければいけないことではないだろうか。
 他国と文化や社会の仕組みに共通項を持っているということが不思議でもあり、少し羨ましく感じるパビリオン体験だった。

 北欧らしく、圧倒するでもなく、奇をてらうこともなく、静かにスーッと心に染み込んでくる様な空間。見るだけなら時間はかからなさそうだが、北欧を感じたい場合は少しゆっくりして、歩き回って疲れた足を休めてあげる場所として最適かもしれない。

北欧パビリオン、万博

 北欧パビリオンは5つの国が参加しているので、館内の展示コンテンツ以外に多数のイベントが準備されていて、5カ国ある分、他のパビリオンよりもかなり充実したラインナップで開催されているので、興味のある人は要チェック。