失敗が学びを深める オーストラリア発・体験型科学ショー 7月18〜22日開催

 オーストラリア館で首都キャンベラにあるサイエンスミュージアム「クエスタコン(国立科学技術センター)」のパフォーマンスやサイエンスショーが7月18〜22日に開催される。5月の開催時にクエスタコンのメンバーを取材したので参考にしてほしい。

 クエスタコンは、パフォーマンスを通じて、魅力的なSTEM(科学・技術・工学・数学)に関する多様なテーマをわかりやすく紹介していて、万博会場でも参加者や聴衆を沸かせていた。

オーストラリア、万博

 1980年代、日本がバブルに沸き世界中に投資していた頃、日本政府と民間企業が建設資金の半分を負担して建てられたという縁があり、その後も日本科学館や大阪市立科学館などと連携をしてきた経緯を経て、今回の万博でのパフォーマンスに繋がっている。

 そんなクエスタコンのパフォーマー(リダーのキャットさん、ジェードさん、ダンさん)にステージの合間の時間を借りて色々とお話しを聞いてみた。ちなみにクエスタコンには200人以上のパフォーマーがいて、皆が日本に来たいと思っているため、ここにいるのは選ばれし超ラッキーな面々だけだそうだ。

左からジェードさん、キャットさん、ダンさん

 キャットさんは「クエスタコンでは、サイエンスはエキサイティングで楽しいもの、という前提がある。だから私たちのショーをみて、舞台で披露した実験パフォーマンスの内容があまりよく理解できなくても、サイエンスって何か楽しいな、このショーは楽しかった、と思って貰えたら、それはこのショーが成功したということ」と説明してくれた。


 サイエンス的なコンセプトを理解しなくても、「サイエンスは楽しい」と感じた人は、そうでない人よりも頻繁に普段の生活の中でサイエンス的なスキルを利用する傾向にあるという。知らないうちにサイエンスの知識やスキルを生活に活用していくことで、サイエンスがより身近になっていくのだろう。

 また、キャットさんは「クエスタコンに限らず全てのサイエンスミュージアムは、興味を掻き立てて好奇心を焚き付けることを目指していて、それはJourney of Curiosity(好奇心の旅路)なんです」と教えてくれた。

 3人の話の中で最も注目したのは、「失敗することは大事だ」ということ。彼らは舞台上のパフォーマンスで、サイエンスをテーマに様々な実験をみせるが、その際に実験が必ず成功するのではなく、ユニークな表現を盛り込みながら、ワザと失敗したりするという。そしてそれを参加者の子どもたちに指摘させて、何がダメだったのかを説明してもらうのだ。

オーストラリア、万博

 これは、成功したことをみせるだけよりも、失敗したことの原因をわざわざ説明させることで、参加者がより深い理解を得られるように考え出されたやり方だ。
 そして、失敗して、失敗して、を繰り返すことで、考える力や創造力を高めていくことにも役立つという。また失敗することはダメなことではなく、成功するためのプロセスの一部であって、その一連の学びのプロセス自体に価値があり、途中にある「一つの失敗」自体は学びのプロセスの一つとして必要なものだと捉えているのだ。

 「クエスタコンのパフォーマンスやサイエンスショーをみて、サイエンスは面白いと思って、興味を持ったり好奇心を刺激された人がそれから10年、15年後に科学者になっているかもしれない。そのために私たちはパフォーマンスしている」と3人が声を揃えて語ってくれた。

オーストラリア、万博

 クエスタコンの目標は、普段触れている日常のモノや出来事がサイエンスと繋がることに気づいてもらい、サイエンスに興味を持ったり、好奇心を刺激することに繋がっていくキッカケを提供すること。

 そのキッカケを得た例がパフォーマーのジェードさん。彼女は子どもの頃からクエスタコンを見て育ったので「今ここにいる」と語っている。子どもの頃から何度もクエスタコンに通い、サイエンスに触れていく中で、彼女の好奇心は刺激され、この道に進むことに決めたのだ。ただ彼女は科学者でもサイエンスを大学などで学んだわけでもなく、演劇を学んできたので、舞台でのパフォーマンスでは彼女なりの役割を持っている。このような幅広い人選を行っているのもクエスタコンの特徴の一つ。

 また科学の分野で博士号を取得できる位置にいたダンさんは、おじいさんがクエスタコンでボランティアをしていた縁で同施設に接する機会があった。その後大学でもサイエンスを学び、博士号を取得して学者になる道もあったが、研究を続けるよりも子どもたちの好奇心を刺激することに意義を見出して、クエスタコンで働くことを選択して今に至っている。

オーストラリア、万博

 キャットさんいわく「全ての人はある意味すでに科学者なんです。なぜならサイエンスとは、疑問を持つこと、推論を立てること、そしてそれを試すこと、の3つででき上がっているので、どんな人でも必ず何かに対して疑問を持ったことがあるはずだから、その人はもう科学者といえるのです」ととても重要なことをサラッと言い切ってくれた。

 こうしてクエスタコンは多くの人生に影響を与え、未来の選択肢を提供しているのだ。万博の会場でパフォーマンスをみたことで、科学に目覚めたり、興味を持つ子どもがいたら、それはクエスタコンがその未来の可能性を広げたということ。

 7月開催時に来日するパフォーマーは今回のメンバーとは違う人たちが選ばれるが、今回に負けないパフォーマンスを見せてくれるはず。