【わかるニュース】台湾有事で日本は? 米中互いに〝引けぬ事情〟


image

 世界で〝民主主義VS専制主義〟の対立が先鋭化している。ウクライナ侵攻が現実となり、日本の近くでも台湾をめぐり米中対立が激化。「台湾有事」への懸念が高まっている。

 民主主義陣営の日本も、専制主義の中国との関係は冷え切り、日中国交正常化50周年の節目も全く盛り上がらなかった。

 この秋、米国では上下院中間選挙があるが、支持率が低下するバイデン大統領はこれ以上、弱みを見せられない。一方、共産党大会を控える中国の習近平主席も同じ立場だ。

 緊迫する情勢の中で、台湾周辺の武力衝突は、日本はどんな影響をもたらすのか?

9条を盾(たて)に高見の見物できぬ実質的に参戦してしまう「有事関連三法」

もう失敗できぬバイデン大統領

 「台湾が中国から攻撃されれば米軍が防御する。これは我々の責務だ」

 バイデン大統領は9月18日、米CBSテレビのインタビューでこう主張した。これまで米政府が取り続けてきた〝あいまい戦略〟を事実上変更したのだ。アフガニスタンとウクライナの件で、相手側に安心感を与えて手痛い目に遭い、支持率を大きく落とした反省からだ。


image

 これまでの米国のスタンスは、「一つの中国」を認める代わりに「台湾問題は平和的解決以外を認めない。台湾自衛のために武器を提供できる」とする台湾関係法(1979年)を成立させ、大統領に台湾防衛の軍事行動権を与えている。

 中国は一時、香港と同じように「1国2制度」で台湾を一体化する青写真を描いていたが、〝自由な香港〟を完全消滅させたことで、米台は一気に態度を硬化。米は原子力空母「ロナルド・レーガン」を台湾海峡に展開し、米国務省も対艦ミサイル60基、空対空ミサイル100基を新たに台湾へ売却することを承認した。

 ところで、米軍の基地は台湾にはなく、一番近いのは日本、韓国、グアムだ。軍事的な対中戦略の基本は日米と米韓の軍事同盟になる。その外側に日米印豪の「クアッド」、さらに米英豪「オーカス」があり、軍事同盟は3つのレイヤーで成り立っている。共通認識はすべて「自由、民主、法による支配」だから、ターゲットはズバリ中国だ。

 米国的思想を体現するのがナンシー・ペロシ下院議長(82)だ。8月3日に訪台して蔡英文総統と会談し、「米国は上下院、民主共和両党が台湾を支持する。中国は台湾を孤立させる気だろうが、我々は決して見捨てない」と明言した。

 ペロシ議長は過去に天安門事件で、現場の天安門広場にまで行って抗議活動をし、一時拘束されたこともある筋金入りの対中強硬論者。チベット、香港、新疆ウイグルへの弾圧や、反体制派の投獄を挙げ、「世界は民主主義か専制主義かの選択を迫られている。米国は台湾をはじめとする世界の民主主義を守る」と強調している。

 このペロシ議長の態度を米政財界も党派を超えて支持している。台湾問題が米国にとって〝安全保障と経済〟に直結するからだ。

統一は習主席の確信的目標

 メンツを潰されることを最も嫌う中国は当然、この動きに猛反発した。台湾の対岸に「一国二制度で中国統一」のスローガンの大看板が今も立ち、習主席は2027年の4期目となる国家主席就任までに台湾併合を目指し、毛沢東主席を超える存在に上り詰めるつもりだ。

 王毅外相は「米国は〝民主主義〟の看板を掲げながら中国の主権を侵している。火遊びは悲惨な結末を迎える。中国に逆らうものは必ず罰せられる」と口を極めてののしる。

 ペロシ訪台の報復に、台湾を囲む形でミサイル発射を含む実弾射撃と、台湾空域内飛行の軍事訓練を実施。「一過性ではなく、今後は常態化する」と警告した。中国軍は空母「遼寧」をはじめとする艦隊を沖縄本島と宮古島間の東シナ海に展開。台湾有事の際の長期海上封鎖に欠かせない空母艦載機の訓練を強化している。この区域は沖縄の与那国島や石垣島とも極めて近い。中国は日本を射程に収める中短距弾道ミサイルを約2千発保持し、北朝鮮の比ではない。九州・四国には約10分で到達する。日本にある米軍基地を目がけて連続発射されると迎撃不可能なのが〝不都合な現実〟だ。


image

日本は〝安倍法制〟色濃く

 日本の台湾有事シミュレーションは安倍元総理の時代の考え方が維持されている。「最も警戒すべきは米中のアクシデント。日本が誘発してはならない」(外務官僚)と慎重で、中国の弾道ミサイルが日本のEEZ(排他的経済水域)に落下しても「日本ではなく、米台への挑発」と受け止め、形式的抗議以外は静観する姿勢だ。

 昨年、菅前総理はバイデン大統領との会談で「台湾海峡の平和と安定の重要性」の文言を共同声明に明記させられた。あまり話題にならなかったが、これは1960年代の佐藤栄作・ニクソン会談以来の中台関係への言及で、日米同盟が〝いいとこ取り〟だけでなく、台湾有事の際は日本も戦争に巻き込まれる危険性を暗示している。

 安倍元総理は、中国との交渉に臨んでペロシ議長と同じ「法の支配、民主主義、人権」を掲げ、包囲のための「自由で開かれたインド太平洋」の概念を示した。これは中国の最大スローガン「一帯一路」に対抗する概念となり、態度を硬化させる結果に。

 集団的自衛権一部容認の閣議決定(2015年)で、安倍総理は「アメリカの戦争に日本が巻き込まれる事は絶対無い」と言い切ったが、退任後に「台湾有事は日本有事、すなわち日米同盟の有事」とあっさり前言を撤回。麻生元総理も「台湾でドンパチが始まったら与那国島などが戦闘区域外とは言い切れない」と追認している。


image

 現行法の「有事関連三法」に照らすと、米軍から支援要請を受ければ日本は『重要影響事態』となり自衛隊は給油や弾薬補給、救難活動に入る。米軍が攻撃されれば『存立危機事態』となり、自衛隊は集団的自衛権の行使が可能になる。さらにエスカレートして自衛隊や日本の本土が直接攻撃されれば『武力攻撃事態』となり、「国民保護法制」に基づき国民の強制避難を発令できる。

 仮に自国内の米軍基地がミサイルで叩かれれば、法理論的に日韓両国はほぼ自動的に反撃する戦闘状態に入ることになる。

日本のポーランド化とは?

 参考になるのはロシアのウクライナ侵攻だ。欧米各国はウクライナに武器供与しても直接出兵せず、ウクライナ国外への戦火拡大を免れている。だから、台湾有事の際に戦闘機や兵士を出撃させず、台湾への武器供与だけなら中国の直接攻撃を避けられるかもしれない。

 それでも紛争隣接国として、ポーランドのように避難民を受け入れる人道支援は必至だ。台湾周辺は戦略的に海上封鎖されるから、原油などの輸入に大きな影響が出る。加えて日中貿易の輸出が滞ると年約25兆円のマイナスで、日本経済は直接戦争に加わらなくても崩壊状態になる。「台湾有事なんて関係ない」とは言ってはいられないのだ。